第10話 ~浴室で血の雨を降らせたことについて~


今回はちょっと(いえ、かなり)痛い話なんです。ちょっと聞いてもらってもいいですか?


 9年ほど前のこと。一戸建てを借りて住んでいました。


 それは夫が単身赴任して4ケ月ほどたった真冬の日曜日の夜ことでした。そろそろ夫の不在にも馴れて、たたんでいた羽を伸ばし始めていた矢先。夫もいないので気兼ねなく好きなテレビ番組を最後まで見られます。その日遅くまで何を見ていたかもう覚えていませんが、12時近くまで番組を見て「さあ、お風呂に行くか♪」と腰を上げました。


 子どもたちはもう寝ていました。


 洗面所は北向きで小さなヒーターを付けていても冷え冷えしています。「おーさむ!さむ!」と服を脱ぎ、浴室のドアを開けました。浴室の床は濡れてそれはそれは冷たそうでした。見るからに冷たそうなので、足の裏全部を付けるのが嫌で踵で浴室に入りました。一歩、二歩、踵で浴槽のほうに進んだときでした。


 濡れた床で踵が滑ったのです。

 ツルっ!


 「あっ」と言う間もありませんでした。どこを掴むことも出来ず、転びました。それは見事な転び方だったと思います。漫画で見るような「転び」を我が身で体現することになるとは!


 記憶ではここからスローモーションになります。バナナの皮を踏んだかの如く足は宙に浮き、次の瞬間お尻が冷たい浴室の床に接触!間髪入れず後ろ頭がお尻に続きます。

 

 ゴン!


 間の悪いことに、頭の下には浴室の折れ戸のレールがありました。今のお風呂はバリアフリー仕様で浴室と洗面所の仕切りはゴム製、引き戸のレールも低く踏んでも痛くはありませんが、その家の浴室ドアは高さのある昔ながらの金属のレールでした。


 ちょうど測ったかのようにそのレールに後ろ頭が!!!


 そのあとしばらく記憶がありません。気がつくとレールに後ろ頭をのせて、浴室の床に仰向けになっていました。


 気がついてまず痛い後ろ頭を触りました。手にべったりと血が付きました。ちょっと気が遠くなる状況です。


 「これはヤバい」。

さすがの小烏も思いました。


 その後、まずやったことは。浴槽につかること。今から思うと、違うやろ!と思いますが、その時は「まず風呂に浸かろう」と思ったのです。


それから赤く染まったレールを拭き、タオルで後ろ頭を押さえて娘のところに行きました。(あ、もちろん体は拭いて寝間着を着ています)さすがに傷は自分では見えないので、見てもらいました。


 「ぱっくりいってる。」


 携帯で写真を撮って見せてもらって、ちょっと青ざめましたね。血は止まる気配がありません。傷口を押さえる三枚目のタオルも赤く染まっています。もうこれは自宅でどうこうできる状況ではありません。そのくらいは理解できました。


 病院へ行こう!


 さすがにこの状態で自分で運転する度胸はありません。(実はちょっと思った)子どもたちは翌日仕事や学校でした。病院へ行くとして、いつ帰ることが出来るのかわかりません。


 あ、タクシー呼ぼ。


 何故か救急車を呼ぶという案はまったく浮かびませんでした。


 真夜中、タクシーで救急外来のある病院へ行きました。

が!なんと脳神経外科の先生はタッチの差で緊急手術に入られたとのこと。受付のお姉さんは、ピラッとしたチラシをこちらに渡して


 「脳神経外科のある病院に印しを入れたので、行き先を決めてください。」

と言いました。


 たぶん傷口は縫うことになるでしょう。そしておそらく翌週抜糸となるはず。

とすると抜糸の日、(送迎を頼める夫のいない今)自力で行くためにもできれば近くか、もしくはおおよそ場所のわかる病院が望ましいでしょう。


 「ここにします。」

小烏は一つの病院を指差しました。


 「そこにある公衆電話でご自分で連絡を取って、先生がおられるか確認してから行ってください。」


「は?

自分で、ですか?」

「はい。」

お姉さんはそう言うと無情にも事務仕事に戻ってしまいました。


 アタマ、いってるんですけど。血も止まってないし。この状態で患者本人がで電話で確認してで行くんですか?

マジですか?十円玉、三個しかないんですけど両替OKですか?


 ここにいたって、救急車を呼べば良かったと思いました。


 結局、自力で次の病院に電話確認。電話でタクシーを呼び、ついでになんと(最後の十円玉で)市内で独り暮らししている実父(70代半ば)まで召喚してしまいました。40分後、父とともにタクシーで次の病院へ。


 次の病院では脳神経外科の先生が救急入口で待機していてくださり、いろいろ確認され、CTを撮り、傷口を洗ってザクザク縫ってくれました。その後大きなガーゼを貼られ、ネットの帽子で傷口を保護しておしまい。遅くまでというか…遅い時間に呼び出され(たぶん寝ていた)、明け方近くまでいい年をした娘に付き添ってくれた父にお礼を言って、帰宅したのは明け方が近くなっていました。


 麻酔で傷みもなかったので、思わずいつものように子どもたちのお弁当を作って、寝ました。その後一週間、出荷前のマンゴーかなにかのようにネットの帽子をかぶって生活しました。


「頭を打っているので一か月は気をつけるように、また五年以内に何か異常があれば医者にかかるように」と注意をもらって、一週間後無事抜糸。その後何事もなく生きておりますが、記憶力がガタ落ちなのはたぶんこの「頭を打ったせい」だと思われます(いや違う)。


 よく骨折経験者が、「天気が崩れる前に傷む」と言われます。小烏も気圧の変化に敏感になりました。雨の前に、後ろ頭の打った場所が重く痛くなります。もともと偏頭痛持ちでしたが、ちょっとひどくなりました。


 皆さんんもお風呂に入るときにはよくよくお気をつけください。


 風呂の床は、決して踵で歩いてはいけません!



追記

ネットを被ったマンゴー頭の写真を夫に送ったところ、大変ウケてもらえました。

もしも自分史を書くなら、妻の災難を笑った夫の逸話は外せないと思いました。


追記の追記

その後、縫った傷口の写真では大変心配してもらえました。

上の逸話は書くのをやめてもいいと思います。


*****************


こちらにも痛い思いをしたカクヨム様がおられます。

(あ、まだ許可もらってなかった!

緋雪様、ごめんなさい!)


緋雪様作

『日々の思い』より

「大技のせいで進まない年末」

https://kakuyomu.jp/works/16816927861811054972/episodes/16817330651223435162

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