雪月花～冬の匂いの記憶

　テキスタイル業である笹本浩二は、恋人でもあり、またクライアントでもあるチーフデザイナー美月佳世のために、織物産地である新潟三条へ向かう途中、雪の降る山中で道に迷うことになった。山中で一軒の民家を見つけると、道を尋ねるためにその家を訪れたのである。民家にいたのは、東京から帰って来たばかりだという、まさに雪月花である後藤沙織であった。

　浩二は、誘われるまま泊まることになるのだが、夢うつつの中、床の中で女の匂いを嗅ぐことになる。夢であることを信じた浩二は、欲望のまま女を抱き快楽の渦に自ら身を投げたのだ。
朝起きると、沙織の姿はなく何処までが夢であったのか、不安な気持ちと共に心迷いながら民家を後にしていた。
三条に着くと、得意先から沙織が元従業員であり、妻子持ちとの不倫の末、失踪している事実を…続きを読む