第26話 9ちゃんねるでオシャベリ12月26日

 九乃カナは皮の靴が嫌い。スニーカーばかりはいている。背が高いってこともあるけれど、靴ってのはさあ、ソールなんだよね。底が皮とか、信じられなぁい。というわけで、スニーカーをはく。


 スニーカーはちょっとした山道だって快適に歩ける。いや、山道はちっとも快適ではないけれど。むしろ歩いている時点で快適でもなんでもねえ。

 わがまま九乃カナは、スニーカーをはいていてもキレ気味である。これが皮の靴だったりしたら、たぶんナイフで切り刻んでいる。もうはけねえ、裸足で歩くのかよ。人間だって裸足で歩いていたのだよ、もともとはね。


 休み休み、歩き歩き、山をおりた。ふもとに町があった。こんな山の際まで人間が住んでいるなんてうんざり。山のいちいちだって、誰かの所有になっていて、役所に公図だのあって、法務局に登記されてもいるのだ。ああ、うんざり。人間にうんざり。


 フリのつもりではなかったけれど、町は大変みたい。あちこちで黒い煙が立ち上っている。もう夕方の町でほうぼうから煙が立っている景色は世紀末感があってよい。まだ2021年だけれど。なあに、もうすぐ2022年だ。たいしてかわらねえ。


 悪魔の封印が解かれたせいか、ほかに封印された悪魔がいて天体衝突で解放されたせいか、よくわからないけれど、下っ端悪魔が町を占拠しているらしい。

 現代ドラマのはずがミステリーになり、サスペンスになり、今ではホラーファンタジーか。通奏低音はアホ小説といったところ。カオスだな。


「くけけけ。うまそうな人間がいた」

 礼儀を知らない悪魔め。

「」小さな悪魔は口をにやけさせて翼を羽ばたかせ九乃カナへ向かって飛んできた。九乃カナは天を指し腕を振りおろす。稲妻が悪魔に直撃し、黒焦げになって消し飛んだ。「」

 いちいちメンドクサイ。どこか建物にはいってやりすごしたいものだ。


 なかなか大きな町らしい。商業ビルがあって、駅もある。駅にはローカル・ラジオ局のスタジオが併設されていた。

「こいつは都合がいい。わたくしにはいつだって都合がよいものだけれど」

 日曜日の夕方と言えば9ちゃんねる。いつもは収録だけれど、収録しすぎているけれど、今日は生放送いっちゃう?

 スタジオは666スタジオという名前だった。うん、そのセンス悪くない。


 勝手に入りこむ。人はいない。と思ったら、悪魔に殺されていたみたいね。死体が転がっていた。これでスタジオは使い放題。


 放送スタジオルームのドアをはいって、チェアーにすわる。パチパチポチンと操作。うん行けそう。


 一度スタジオルームを出る。給湯室に入りこんでお茶を淹れる。ああ、なんだか久しぶりに人間に還った気分。闇の帝王をしていたからね。

 ゆっくりお茶なんて飲んでいたら、もう時間になる。スタジオルームに行かなくちゃ。



 9ちゃんねる(緊急事態宣言!)「第21話 9ちゃんねるでオシャベリ12月26日」につづくよ。読んでね! 

https://kakuyomu.jp/works/16816452219685887540/episodes/16816452219844857384

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る