第20話 白い恐怖と黒い混乱12月20日

 ナイフを握った腕が突き出て、その先は白い壁に飲まれている。苦しそうって気がして、こちらが息を飲んでしまう。

 腰を落とし、ゆっくり後ずさる。顔が見えていないということは、向こうにこちらの、少なくとも顔は見えていないはず。

 九乃カナは手をひっこめて、スピードスケートの選手がトラックを滑っているかのような姿勢で、逆にさがる。


 ナイフをもっているからと言って、襲ってくるとはかぎらない。味方の方に賭けるには、命は高すぎるけれど。


 霧が流れ出す。日が昇れば霧は晴れてゆく。霧が糸を引いて、流れ去る。

 ナイフをもった人物が白い塊になり、徐々に姿を現す。体が全部、それから頭。

 黒いパーカーのフードをかぶっていた。


 黒パーカーが迫ってくる。九乃カナは足を踏み込む。ナイフがスローモーションで繰り出されてくる。

 九乃カナは構えた左手を引く。左手は右ひじの前をとおる。肩、肘をまわしながら緊張させ、外へ向かって力を込める。

 黒パーカーは湖へ飛び込んだ。ひえー、寒そう。


 黒パーカーだけではなかった。いや、黒パーカーがふたりだった。湖の中で格闘している。ナイフは湖に落としたみたい、どちらも手にしていない。

 こちらに飛沫をとばさないでね。


 一方の黒パーカーがナイフの黒パーカーにタックルを食らわせつつ、湖に突っ込んだのだ。

 この小説、黒パーカーばかりじゃない? もっとバリエーション出さないと読者に飽きられるのでは。でも、なにかトリックがありそうで思わせぶりってことにもなるか。ならオッケーか。


 ふたりのパーカーは誰なのだろう。ひとりは鉄パイプ? もうひとりは無月さん? それとも第3の黒パーカー、もしかして第4の黒パーカーまでいたのか。


 あきれて見ていると、一方の黒パーカーが撤退したそうな雰囲気になってきた。こっちがナイフだな。

 九乃カナは手近な石を拾いあげ、投げつけた。

「いたっ」

 狙ったのではない方の肩に直撃した。どんまい。

 その隙にもう一方の黒パーカーは湖から上がり逃げた。


 残った黒パーカーはフードをとった。

 無月さん。

 ハイデを刺殺した無月さん。危険人物だ。

 争っていたふたりとも敵だったのか。

 ゆっくり後退を開始。

「ああ、ちょっと待って」

 待てと言われて待つやつはいないというやつだ。


 速度を速める。

 相手はずぶ濡れで服が重くなっている。

 振り返りダッシュを開始。おとといのダッシュのせいで脚が痛い。

 筋肉痛が二日目に出たと思った人、前に出なさい!

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