第13話 日付がかわっても12月13日

 あ、日付がかわった。12月13日は終わってしまった。車の時計の表示がもう0:10となっている。なにか13日のうちにしておかないといけないことがあったような。

 思い出せないということは大したことではない。忘れよう。


 九乃カナは車の助手席で深く背をもたせかけた。もうさすがに眠い。ミカンがさらわれてからの怒涛の2日というもの、ロクに眠っていなかった。

 電車でも、特急券事件のせいで眠れなかったし、都会にきてからはできるだけひとところに長く滞在しないようにしていたし。

 そういえば、隣で車を運転している人は誰なのだろう。知らないけれど、たすけてくれたのだから悪い人ではない。おっと、伏線を張ってしまったか?

 ヘッドレストに頭をもたせて目をつぶる。


 もう眠ってしまおう。

 車の中はつい眠気を誘うものだし。

 疲れたし。くたくただし。


 眠れねえ。

 お腹がすいた!

 ロクに眠っていないのはたしかだけれど、ロクに食ってもいなかった!

 忘れていた。

 毎日夕方におやつまで食べて、深夜は夜食まで食べていたのに。

 ナンテコッタ!


「止めて!」

 急ブレーキ。中身の詰まった頭が前に引っぱられる。

「どうしました」

「お腹がすいたの。ここへ入りましょう」

 深夜だと言うのに看板が明るく照らされて異世界的に浮かび上がっている。ラーメン屋だ。お店もやっぱり照明がバッチリで不思議な世界への入り口感がある。

 そうかこの小説は世にも奇妙な物語的な話になってゆくのだな。

 都会からいくらか郊外に出てきていた。ここまでくれば監視の目もきつくないということか、時短営業なんて知ったこっちゃねえぜと言うメタル魂が感じられる。好感が持てる店だ。きっと店主はメタラーだ。挨拶しなければなるまい。


 パーカーさんは、そうですね、僕もお腹がすきましたと言った。ウィンカーを出し、ハンドルを切って店の敷地へ侵入した。


 店の中もコンビニに負けず明るかった。カウンターの向こうで腕組みして立っていたのは、メタラーと言うよりはプロレスラーと言った、いかついオッサンだった。

 券売機でラーメン普通盛りの券を買う。お、味玉をトッピングっちゃうか。豪勢だねえ。

 カウンター席にすわって券をカウンターにのせる。プロレスラーのオッサンがチェックして注文を読み上げた。威勢がいいねえ、寿司屋かな。寿司屋も威勢よくなんてないか。


 パーカーと並んですわりラーメンを食した。シミたね、体中に。スープを全身がすすった。脳みそなんて、ずいずい吸ったね。麺は太めのコシのあるタイプ。顎がよろこんだよ。お前、なかなか骨のある奴じゃねえかってんでね。てやんでえ。


「あ! 思い出した」

 たぶん、お腹すき過ぎていたんだね。すっかり忘れていた。

「おっきい荷物を鉄パイプの奴のところに見捨ててきてしまった」

 それに。

「あなた誰?」

 いまさらかよ。

「僕ですか。僕は無月です」

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