第11話 列車で逃避12月11日
列車の連絡時間は短く、階段を急いでおりる。太腿に効く。力が抜けてかくっていきそう。そうしたら正座状態で階段を滑り降りることになるだろう。嫌だ。
階段を降りたと思ったら今度はのぼり、嫌になる。膝に手をついて勢いをつけながら一段抜かしでのぼる。階段どころか歩くのも遠慮したいところなのに。
九乃カナは逃げていた。誰だかわからない影を崖から蹴り落としてしまい、警察と救急に公衆電話(そこにあることはわかっていた)から連絡をいれたけれど、到着を待っていても、捕まって事情聴取、悪ければ逮捕、裁判、刑務所と流れて行きそうだってわけ。行動は早いほどよい。
ミカンが残っていてはすぐに人物を特定される。ミカンにも自宅まで同行を願い自宅から必要なものをもちだした。ノートPCがあればどこででも小説が書ける。
特急に乗るため特急券を調達しなければならない。ホームの券売機を見つけた。人が並んでいる。最後尾につく。
「電車が到着しまーす。特急券は電車の中で買ってくださ―い」
ええっ! せっかく並んだのに。
到着の時刻すこしまえで券売機から特急券を買えなくなるらしい。剣だけ買って乗り遅れたら意味がないからそういうシステムなのだろう。
駅員が大きな声を出すから注目を集めてしまったではないか。こちらに視線を向けている人物もいるかもしれない。目立ちたくないのに、バカ。
列車がホームに入ってきた。中で券が買えるのか。どうやって? 券売機があるのかな。
乗ると、全席指定で指定の席にすわれと車内アナウンスは言うけれど、特急券がなければもちろん指定の席なんてありはしない。全員が乗り込んでから空いている席にちょこんとかわいくすわる。借りてきた猫だ。荷物は大きいけれど。
社内の説明が座席の後ろについている。自販機だのトイレだのはあるけれど、券売機の表示はない。ということは車掌がやってきて売ってくれるってことだろう。
つぎの駅にとまっても車掌はやってこない。一度デッキに出て乗ってくる人間をやり過ごし、全員が乗り込んでから同じ席にすわる。
なんなの、こっちはカネを払ってちゃんとすわりたいのに、キセルしている気分だ。やましいぞ。
車両のドアは大きく窓がとられていて通路に顔を出すと隣の車両まで見える。でも車掌はやってくる様子がない。
駅に止まるたびに席を立ってデッキに出てを繰り返した。
目的の駅に到着したとき、車掌は姿を見せなかった。
九乃カナはケチくさいけれど、サービスを受けておいて支払いをしないというのは気持ち悪いタチだ。改札の窓口へ行って特急券のカネを払いたいと言ったら、あっさり受け入れられた。けれど、レシートは出てこなかった。釈然としない。特急券が手元に残らないとしても、レシートくらい残らないと支払いをしたことが証明できないではないか。いいかげんなものだな鉄道会社なんて。
さらに列車を乗り換えて、やってきたぞ都会へ。
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