第2話 思いつかない12月2日

 とうとう「リアルタイム」の2話編集画面を開いてしまった。

 九乃カナはあとまわしにして、もう23:00だという事実に不安を覚えた。2日のうちに投稿しなくてはならない。残り1時間タイムリミットのあるサスペンスである。


 「リアルタイム」をあとまわしにしたくなるような心の重さは坂井令和(れいな)さんのツイートにある。

「じゃ、わたしを名探偵に!(そういう話じゃないって)」

 これである。「リアルタイム」はミステリーだったのか。作者も驚愕の展開。やりますな、無茶ぶり。


 ミステリーを考えなければならない。デスクに向かった九乃カナの部屋で? 殺人事件が起きなくてはならないことに。いや、殺人でなくてもよいのだけれど。でも、殺人だな。

 これはなかなか困難。奥の手を出すしかない。かれこれ2年くらいは熟成させたネタ。使い道がなかったとも言う。

 しばらく仕込みに時間を取られるけれど、仕方ない。編集画面のタブを切り替える。


 仕込みから戻った九乃カナは深くため息をついた。疲れたのだ。思ったよりタフな仕事だった。これでうまくいくのか試していない。リアルタイムに進むのだから仕方ない。失敗していても後で修正も効かない。リアルタイムを言い訳にしている。


「お望み通り殺してやった。犯人捜しを楽しむがよい」


 背を反らしてアーロンチェアの背もたれに目いっぱい体重をかける。シーリングライトの光がまぶしい。12時間前に用意した足元の湯たんぽはまだあたたかみを伝えてくる。えらいぞ。もう疲れて目がしょぼしょぼする。

 体を直ってパソコンに向かう。見つめたディスプレイに表示された文は不穏だった。


 望んだわけではないのだけれど。でも、坂井令和(れいな)さんが名探偵にしてくれとツイートしてきたときからミステリーになるしかないとはわかっていた。

 でもまさか、本当に殺人のミステリーになるとは。まさかとはいっても、カクヨムの編集画面に表示されているのだから九乃カナが入力した文にちがいない。自分で入力しておいて知らんぷりして発見したように感じているのだから、多重人格なのではないか。


 誰が殺されたのだろう。だいたい死体はどこにあるのだ。死体消失は連載中の「シタイ?キス:それとも;」のテーマである。「リアルタイム」でも同じことをしても面白くない。死体は見つけなければならない。


「というわけで、キミ。一緒にきてくれ」

 九乃カナは読者の手首をつかみ立ち上がった。

「え?」

「読者だからってずっと安全圏にいられると思うなよ?」

 有無を言わせず「リアルタイム」をあとにした。


https://kakuyomu.jp/users/kyuno-kana/news/16816700429319365054

↑つづきです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る