後日談:結婚初夜

 結婚式が終わると、メイドさん達に着替えさせられて浴室に連れて行かれた。他人に着替えさせてもらうのも、洗ってもらうのも、ステラ様にとっては普通のことなのだろうか。私はまだ慣れない。

 ちなみに、一枚壁を隔てた先は男湯となっており、ステラ様のお兄様の夫となったルクスさんが入って居る。彼も私みたいに全身を使用人さん達に洗われているのだろうか。

 それにしても、他人に身体を洗われるのは気恥ずかしくて仕方ない。早く終わってくれないかとそればかり考えてしまう。


 ようやく終わったかと思えば、今度は身体を拭かれてパジャマを着せられて鏡の前に座らされ、髪を乾かされる。


「……王族って、毎日こんな感じなんですか?」


「はい。身の回りの世話は全て私どもが」


「明日からはお断りしても良いですか? なんか、落ち着かないです。着替えもお風呂も自分でやりたいです」


「かしこまりました」


 あ、意外とあっさり引いてくれるんだ。言ってみるものだな。

 ホッとしながら、メイドさん達に付き添われて部屋に戻る。先に湯浴みを済ませていたステラ様がベッドに座って「おいでなさいな」と自分の隣をとんとんと叩いた。隣に座る。


「初夜ですけど、どうしますか。エラ」


 質問の意味が分からず、彼女の顔を見る。真剣な顔をしていた。初夜。結婚。そうか、私達は婦婦なんだと、改めて意識をすると顔から火が出そうなくらい熱くなる。婦婦になったとはいえ、彼女とキスをしたのは誓いのキスの一回のみ。そして、あれが私のファーストキスでもある。その先は未知の領域すぎて、踏み入るのはまだ怖い。そんな私の気持ちを察したのか、彼女は「今日はもう眠ってしまいましょうか」と言って横になり、おいでと私を誘う。私も彼女の隣に並ぶように横になると、彼女の腕が伸びてきて、抱き寄せられる。「愛してます」と囁かれながら頭を撫でられる。それだけで私は心臓が飛び出そうなほどドキドキしているのに、彼女はあまりにも余裕そうで、その態度になんだかモヤモヤしてしまい、私はつい言ってしまった。


「えっち、しないんですか」


「あなたが嫌ならしませんわ。こういうのは同意の上でするものですから」


「嫌じゃないです」


「そうですか。では——」


 彼女が私を抱きしめたまま奥に転がって、私の上に跨る。


「……遠慮、しなくて良いのですね?」


 ここで初めて、彼女は余裕を装っていただけで、実際は待てをされている犬の状態だったことを知る。よしといえば勢いよく食らいついてくることは容易に想像できる。


「あの……お手柔らかに……お願いします。私、何もかも初めてなので」


「……分かっています。わたくしも初めてです」


「ほ、本当に?」


「えぇ。本当に。ですから痛かったり、嫌だったらおっしゃってください」


 そう言って、彼女は私の唇に口付けた。

 私の身体を愛撫する彼女の手は震えていた。初めてというのが嘘ではないことが、私を心から大切に思っていることが、ぎこちない手つきや唇から伝わってくる。

 幸せだ。今までの人生で一番幸せな瞬間だ。

 幸せすぎて、泣けてきてしまう。

 私の涙に気付くと、彼女は優しい声で「やめますか?」と問う。


「違います。これは嬉し涙です。幸せすぎて泣いてしまっただけです。だから……続けてください。最後まで、したいです」


「……分かりました」


 父が亡くなり、義母や義姉とは上手くやれずにいじめられ、奴隷のような扱いを受け、何度も死にたいと思った。生きることを諦めずに良かったと、今では心からそう思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

灰被りの少女と王女様 三郎 @sabu_saburou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ