第17話 中国人のお坊ちゃまがクリームパンのせいで入院

 

 昔、知り合いの中国人留学生のお坊ちゃまが、クリームパンの食べ過ぎで入院しました。


 はい、嘘~って思った? 思うよね、私でもそう思う。でも本当なの。本当にクリームパンの食べ過ぎで入院したの。


 その人は良家のご子息ってやつで、中国にいたときは健康にうるさいお母様からヘルシーな食生活を強要されていたのだそうです。しかし、日本留学を機に、ひとり暮らしという自由を手に入れた彼は、日本では乱れに乱れた食生活を謳歌したのだそうです。

 いろいろ食べた中でも一番好きだったのがクリームパンで、日本のパン屋を巡って一番おいしいクリームパンを探すことにしたそうです。


 何週間もクリームパンしか食べない生活をしていたところ、

 ある日、買い置きのクリームパンに当たってしまって、お腹を壊してしまった。


 おぼっちゃんですから、古い物を食べて当たるなんて初経験なわけです。さて、どうしたらいいのかと悩んだ彼は故郷のお母さんに電話で相談したそうです。


 お母様は「病院に行きなさい。でも町医者は医療ミスがあるかもしれないから、大学病院に行きなさい」と言うので、彼は素直に大学病院に行き、血液検査やら何やらされて、そのまま入院となってしまったのだそうです。血糖値でも高かったんですかね?

 お医者さんから「食生活の乱れを直して」と言われたとか。

 そりゃそうだ、クリームパンしか食べてないもんね。



 入院するほどクリームパン漬けだった彼が選んだ、日本で一番美味しかったクリームパンは「ヤマザキの薄皮クリームパン」だそうです。1袋に小さいのが5個横並びで入っているアレ。パン屋めぐりはどうした。わかるけど。あれ美味しいけど。わかるけども。



 で、そんな思い出のヤマザキの薄皮クリームパンが5個から4個になると聞いて、私の胸に去来した思いとは?

 こう……切ない? いや違う。悲しい、わけでもなく。思い出と今がリンクして、過去を打ち砕く感じの……やるせなさ? それも違う。じゃあ何だ。このもやもやは。

 ずっと考えていて、わびしさだと、やっとわかりました。きっと私はわびしい。もう彼がどうこうではなくて、パンやお菓子が小さくなることに対するわびしさで胸が苦しい。未来への不安とか苦労とか心配とかを全て背負っている、ヤマザキの薄皮クリームパンが5個から4個になるという知らせは。


 この思いをはき出したくて、今回、筆をとった次第。

 暗いね。でもだからって明るい話は特にしないぜ! この暗さを胸に抱えたまま、今夜は湯豆腐を食べようと思います。みんなも食べよう、湯豆腐。あったかいもので物理的に体を温めましょう。


 ではまた!

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光るウミウシのように生きたい ゴオルド @hasupalen

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