第40話 明日に向けて

「ふぅ……ひとまずフォルダー整理はこんなもんかな……」


 夕暮れの陽が差し込む部屋の隅でノートパソコンとにらめっこしていた数馬が、顔を上げると同時に大きく腕を伸ばす。

 ホームディスプレイには新たに二つのフォルダーが追加されていた。


 一つ目は『自然画 3』。中身は読んで字の通り、自然の景色を主とした風景写真のフォルダーだ。


 そしてもう一つが『放課後の部室にて』。中身は、千尋とミリアに対して本能の赴くままにとってしまった写真のフォルダーである。



 一香と千尋がミリアの家で作戦会議をしてる時、数馬はひたすら逃げていた事から向き合おうとしていた。


 彼自身、一香から『逃げている』と言われる前から自覚していた。千尋とミリアから距離を置こうとしていた事を。

 しかし、どうすればいいのか、よくわかっていなかったのだ。


 少なくとも、一香からのデートの誘いを断り、自らの言葉で一香にデートを申し込むまでは。


「───いつまでも、逃げてる訳にも、いかないよな」


 その手始めに、しばらくの間放置していたデータを整理する事にしたのだった。


 その結果、夕方ぐらいまで掛かってしまったようだが、無理もない。

 一つ目はともかく、二つ目が数馬にとって問題だったのだから。少しばかり、シラフの彼には刺激的なものだったのだから。



 そんなお疲れ気味の彼の元に三通のメールが届く。


『覚悟してて下さいね、先輩』

『絶対、逃がさないからね、チビ助くん』

『先に謝っておくね。……ゴメン』


「……一体、なんのことだ?」


 同時に送られてきた三通のメールに数馬はただ困惑するしかなかった。


 脅迫まがいの後輩に、少しヤンデレチックな先輩。さらには何故か謝ってくる幼馴染。

 何が何だか分からないのも、仕方ない。


 しかも、これらが彼女らの意図しない形で同時に到着しているのだから尚更だ。



 赤い髪をした小柄な女の子は、抜けがけよろしく自信満々に送り。

 銀の髪を靡かせる美人な女の子は、明日の布石にと意味深な言葉を添えて、送り。

 黒く爽やかな雰囲気の女の子は、せっかくデートの約束をしたのに変な事にも巻き込んでしまった申し訳なさを持ちながら送った。


 意図せず。偶然に。揃ってしまったのだ。



 そんな彼女らのメールに数馬は思わず、笑い出す。


「こんな同時に送られてくるなんて、もしかして一香と先輩たち仲良かったりしてな」


 と、口にして。



 勘が鋭いのか、鈍いのか。近からず遠からずの想像をした数馬。

 この場に彼女らがいたら間違いなく怒られているだろう。


 それだけ、禁句に近い事を口にしたとは数馬は微塵にも思っていないのだろう。


 そうでなければ、今日、彼女らが集まる事はないのだから。



 そんな事はつゆ知らず、数馬は次の行動へと移す。


「明日の服装、どうしよう」


 明日のデートに向けての準備へと。



 実際のデートがどんな事になるのかを知らずに───。

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青春モルモット〜クラスでは冴えない陰キャくんは、部活では学年一の美少女達に弄ばれています〜 こばや @588skb

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