第39話 最善を尽くして

「───それじゃあ、明日はそういう事で。それぞれ最善を尽くしましょう」


 あれから、一香と千尋はミリアの言葉を黙々と聞いていた。


 これからどうするのか。

 数馬をどう誘惑するのか。

 それぞれの女の武器はなんなのか。


 などなど、色々な話を。


 始めこそ様々な反応を見せていた二人だったが、二つ目の話題、『数馬の誘惑』になった途端大人しくなった。

 色々文句を言えど、数馬に恋する乙女二人である事に変わりなく、目の色が変わったのが言うまでも無い。


 そんな二人がどうしてミリアの言葉をすんなり受け入れるのかと言えば、やり方はともかく、三人の中で経験値が高いのが彼女である事を知っているからだ。


 さらに言えば、同性愛者でもあるミリアが一香や千尋のどんなところに魅力を感じているのか、彼女らにとっては重要な事だった。


 それ故に、話を最後まで大人しく聞いていた二人なのだが───

「それじゃあ、解散!」

「「……やっと、終わった」」

 ミリアからの解散の言葉を聞くや否や、疲労感を隠すつもりの無い言葉が一香と千尋の二人の口から勢いよく漏れ出す。


「何よ、そんなに疲れちゃって。そんなに私の話、退屈だった?」

「退屈といいますか、なんといいますか……」

「話はとても興味深いものでしたよ。ミリア先輩だからこその話が聞けて。……でも、ですね」

「ん〜〜?」


 煮え切らない様子の二人に、あからさまに嬉しそうなミリア。


 彼女は知っている。一香と千尋がどうして煮え切らない様子なのかを。

 彼女は知っている。二人がどうして赤面して顔を伏せているのかを。


 そして、彼女は二人が自分に抗議を行うのも知っていた。


「「流石に遠慮なしに行うセクハラは勘弁してください」」


 その時のミリアの顔は、それはそれは嬉しそうだった。


「遠慮なしにセクハラって今言ったけど、具体的に何の話かなぁ〜〜」

「何の話って……言わなくても分かってる時の部長の文句ですよね、それ!?」

 ミリアに身を寄せられると同時に、寄せてる体の反対側にあるわき腹に手を添えられ、逃げ場をなくした千尋は、抵抗する事を諦めていた。


 諦めていると言うよりも───

「もしかしたら、分かってないかもしれないよ〜〜?」

「うぅぅ……この先輩、本当嫌ぁ……」

「そんな事言われると、さみしいなぁ〜、なんて」

 ミリアからのセクハラに心が折れている千尋。


 そんな千尋は「とりあえず、もう胸を弄るのは勘弁して下さい……」と泣きながらに訴えるとミリアは渋々引き下がっていった。大きな胸を持つミリアにされたのは、小柄な事を気にしている千尋にとって大打撃になったようだ。


 すると、今度は次の獲物と言わんばかりに、ミリアは一香に飛びついた。が、剣道部らしく、華麗な足捌きを披露し、ミリアからの飛びつきを回避する。


 しかし、それだけで治るミリアではなく

「で、剣道ちゃんはどんな事が嫌だったの?」

 と、千尋と同様に追い詰めようと試みる。


 が、千尋の件を見てるからか一香はミリアの思い通りに動く事なく

「……お腹をひたすらにさすられた事ですかね」

 と、自ら打ち明けた。


 数馬にしか見せない、一香にとって特別な部位を気安く触られたのだから嫌悪感を抱くには十分なものがあった。

 しかし、その割には妙に淡白な言い方に、ミリアのお気に召さないのか

「あら、あっさり。ちょっと残念」

 と、言葉通りに残念そうな表情をしていた。


 そんなミリアの表情に、珍しく一香は笑みを浮かべる。

「ミリア先輩がどんな事に喜ぶのか分かってきましたからね。そう簡単にはいきませんよ」

 と、積もった恨みなどを込めて呟きながら。



 こんなドタバタした午後を過ごした三人は、各々の気持ちを胸に、翌日に控える数馬への“説得”を心待ちにするのだった。




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