Revolutionｰ現代社会に巻き起こる渦、そして宇宙へ

第25話 新やまと到着

　『１５時に会議室に集まってください、現地での打ち合わせをします。資源開発監督　山田亮介』

　石油プラント担当責任者である御代田エンジニアリングの狭山健二は、到着の翌日このメールをもらい、メールに示している道順に沿って指定時間の５分前に指定の会議室に到着した。

　コの字に並べた机に１５席程度の椅子が用意されていて、真ん中に５０からみの白髪が目立つ男性が座っており、さらに男性４名と女性１名が座っている。

「石油化学プラント担当の狭山です」声をかけて狭山が座る。

「おくつろぎのところを、お呼びたてして申し訳ありません。資源開発監督の山田亮介です。あと２名来られるので少しお待ちください」

　１５時前にさらに男２人が入ってきて、席に着くのを確認して山田が口を開く。

「ご苦労様です。今日はお集まり頂きましてありがとうございます。それでは点呼をさせていただきます。まず、鉄鉱鉱山の開設担当米山さん」頭を下げるのは４５歳程度の大柄な男性だ。

「石炭採掘所の開設担当今山さん」５０歳くらいの中肉中背の白髪混じりの男性だ。

「石油採掘担当の山崎さん」狭山も面識のある５２歳のベテランだ。

「石油化学プラント担当の狭山さん」狭山も呼ばれる。

「石灰岩採掘所の開設担当の石川さん」比較的若く４０歳くらいのがっちりした男性だ。

「砕石所開設の担当の赤井さん」若い３５歳くらいのほっそりした男性である。

「ボーキサイト採掘所の開設担当の市丸さん」やせ型の５０歳くらいの男性である。

「最後に、植物資源担当の吉田さん」最後に残った小柄な４０歳くらいの女性である。それぞれに皆に向かって頭を下げた。

「以上で、今回先発の資源開発担当責任者の皆さん８人となります」と山田が言う。

「この中で、狭山さんの石油化学プラントは、実際は工業部門なのですが、採油所と一体に開発する方がいいということで加わってもらっています。

　皆さんは、それぞれ新やまと開発に欠かせない資源開発を担っていただきます。しかし、ほかにも様々な微量金属等の採掘も必要ですし、今後それらの採掘所は開設されます。しかし、これらは使用量が比較的少ないので地球からの移送が容易ということで、当面は地球から運ぶことにして遅れて開発されます。

　皆さんにはすでにデータを送っていますが、担当される資源の鉱山等の位置はすでに特定済みです。しかし、植物資源については、現状では木材のみの特定であり、ほかの有価資源はいまからの調査に近いので、近々に江南大学を中心に調査チームが派遣されます。

　また、皆さんはそれぞれ作業チームを率いてこられているわけですが、当然それぞれ自動操業の重機に汎用作業ロボットの割り当てがあり、これもすでに連絡済みのことと思います」皆がうなずく。

「さらに、必要なプラントについては、準備が間に合ったチームのものは貨物機で一緒の船団で運んで来ましたので順次現場に送ります。

　現地では、まだ宿舎等生活に必要な設備については、基礎工事はほぼ完成して上物は組み立て中です。従って、最初の１週間程度はこの旅客機または貨物機を宿舎に使っていただいて、宿舎を完成して必要設備の設置のところから始めるわけです。

　皆さんの採掘場及びサイトは中央基地になる真珠市の４００㎞以内の範囲で比較的近傍です。各チームは、当然お連れになった要員もその作業をやっていただきますが、建設班から援助要員の派遣および輸送機の割り当てがあります。これは、お手元の端末に示した通りです。これについてはご意見、要望等はございますか？」

　みな、手元の端末（スマートフォン状のタブレット）を見入っており、なかなか発言はなかったが、

「ええっと、食料はどうなっているのでしょうか」

　一人の質問に、山田が回答する。

「ああ、それはＦＰという表示で示されており、携帯食を人数分の１００日の分量で配布されます。内容は、国防軍の食事で味や内容は悪くないはずですよ。外国の軍隊からはうらやましがられているようですので。

　なお、最初皆さんは真珠市に着陸しますが、そこで、マーケットを開きますので食料を含めて嗜好品やほしいと思われる日用品がお買いになれます」

　その他さまざま質問があったが山田等の各監督が答えていく。

　その後フロアに用意された、３つのミーティングルームの一つで狭山達のグループがミーティングをした。狭山が割りあてられた設備と役割等の説明をする。

「では、ミーティングを始める。皆の端末に我々の班に配分される、建設班、重機、汎用ロボットのリストを送ったので見てくれたと思う。建設班から１０名の建設作業に熟練したスタッフが送られてくる。

　かれらは、３人が重機担当、これはブルドーザ１台、バックホウ２台、コンパクタ１、コンクリート練機１㎥が１台、クラッシャー１台およびダンプ５台で、汎用ロボットが５台でいずれのオペレーター不要の自動運転だ。

　さらに２人の一般建設作業担当者と汎用ロボット５台で、この人たちには家屋とか水・電気関係の必須インフラの組み立てに従事してもらうことになる。

　これらは、我々が持ってきている、樹脂製造の８万トンプラントを、一刻も早く組み立てて運用を開始するために優先的な割り当てを与えられたものだ」

　狭山の話を聞いていた９人のメンバーは既に大部分知っていることの確認なので黙ってうなずく。それを確認して狭山が話を続ける。

「まず、今回の仕事では、問題はコンクリートプラントがないことだ。セメントは必要量確保しているが、砂の確保、砂利の確保の問題もあり、プラントのべた基礎を作るほどの量はない。

　そこで、すぐ近くに砕石できる山はあるということなので、川砂利などが見つからなければクラッシャーで砂利を作って道路等については砂利敷として鋼管杭基礎とする。鋼管は十分な量を用意しているからね。

　また、油層の位置は知らせてもらっているが、正確な油井の位置はまだ決定されていない。周辺の航空写真・航空測量の結果は、皆の端末にある通りだ。これらは現地にいる石油資源担当の篠原さんのおかげで、我々が出発の寸前の便で送られてきている。

　幸い、当該地は草原で、樹木があまりないので、測量の結果は殆ど信用できる。いずれにせよ、油井班と調整のうえでサイト位置を決定する必要があるが、これが到着後の最初の仕事だ。しかし、今から１０日の間に、概略の配置案は決めておきたい。

　まあ、今回は地権者のことは一切考慮する必要が無くて、純粋に技術的な都合だけで決めていい点は楽だな。位置が決まったら、真っ先に取り組むのは、宿舎の建設と並行して荷下ろしだ。貨物機は出来るだけ早く開ける必要があるからね。これは、位置選定と合わせて、５日以内に終えたい」

　その後、３時間かけて担当者ごとの詳細な協議を行った。その後、各メンバーは協議の結果を踏まえて、それぞれ配置案の検討、工程計画の見直し、資材リストの再チェック等を行って、現地到着前に可能か準備を続けた。

　到着日の１１日目が来て、アナウンスがあり、近づく新やまとが各部屋に備えられている５０インチのスクリーンに映る。

　まさに青い世界だ。上に見える白い極冠が北とすると、東側が昼間であり、ちょうど東側が太陽とほぼ緑に覆われた大陸がみえる。青い海洋と白い雲が輝いている。南側から正面に見えるのは最大の大陸である“きぼう”大陸であろう。

　目的地である“のぞみ”大陸は今から明けてくる中央付近に見える。これらの大陸は、雪を頂いた高山および北端の地域があり、砂漠であろう砂の色がみえる地域もあるが、緑に覆われた地域が多い。

　徐々に明けてくる”のぞみ”大陸は、何度も見た映像の通りである。２億２００万㎢の面積で、東西に１万㎞近い細長い陸地の中央に温帯が通っており、全体として過ごしやすい気候であるはずだ。内陸の真珠湖がうっすらと見えてきた。３１万㎢の広大な湖である、その北岸に首都真珠市が建設される。

　狭山は年甲斐もなくわくわくしてきた。あれはまさにフロンティアだ。いま、あの大陸には今はまだわずか３００人しかいないのだ。手つかずの自然が美しいこと！この景色を妻の順子に見せてあげたい。今回、ここに来れて本当に良かった思う狭山だった。

　その景色を背景に、６０歳くらいの男性がスクリーンに現れた。

「皆さん、ようこそ新やまとに。私は調査部隊の隊長の澤山義彦と申します。皆さんが来るまでに、極力必要な調査を終え、最低限の準備をしようと頑張ったのですが、中途半端なままです。その点はお詫びします。

　皆さん、新やまとは、とりわけのぞみ大陸はいいところですよ。ご覧ください、この美しい山並みを、また真珠湖の美しさ。まもなく皆さんは、着陸されますが、着陸したらまず外に出て、新やまとの空気を味わってください。そして、周りの景色を見てください。

　貧しいものですが、私どもが準備した食事もありますので、ともに楽しんでいただければ幸いです。なお、着陸するところはある程度切り開いて、整地はしていますが当然荒っぽく不十分な状態ですので足元には気を付けてください。それでは、着陸をお待ちします」

　着陸は、真珠市の都市計画では宇宙港の予定地である平坦な土地で、真珠湖からは最も離れた位置になる。そこは、大体１㎞四方位が荒っぽく切り開かれて整地されている。

まず旅客船が着陸し、そのあと順次２０機の貨物船が着陸することになる。

着陸時には、船の最下層階から広い階段が３ｍ下の地面までかけられ、最初は下層階の乗客、他は順次船内のエレベーターで降りてきて順次地上に降り立つことになる。

　着陸した広場には、２５０人ほどの男女が待っている。男性が７０％程度だ。

　待っている人々の周辺には、ブルーシートが数十箇所位敷いてあって、中心には食事らしきものが用意されている。１時間ほどして、３千人が降り終わったころ、各人が持つ端末から声が聞こえる。

「ようこそ、新やまとへ、今日は幸い晴天に恵まれたので、このように屋外に食事を準備しました。十分な量はありませんが、食事と一応アルコールも少しですが準備しました。どうぞシートに座って、お召し上がりください。それぞれのシートに一人ずつ私どもの仲間がおりますので、なんでもお聞きになってください」

　狭山と部下たちが座ったシートには、５人ほどが待っていて、中心になっているのは中年の女性のようだ。狭山は驚いた。おいてある食事はそれほど量もなく、内容も豪華なものではない。しかし、ここにある人々は並大抵の忙しさではないはずだ。

　わずか３００人で、各々の専門分野において、全く新たにこの世界を調べて調査結果をまとめなくてはならないのだ。その中でこれだけの準備をするのは、やはり、本当に歓迎するという心が無くては出来ないことだ。

　狭山と仲間が、ありがたくその貧しい食事と、用意された焼酎を飲んで、和気あいあいと現地メンバーで世話をしてくれる数人と語りあった。また、途中で貨物機の乗員たち２００人余が来て加わった。

　その宴の中で、篠原氏は彼を探して来てくれた、共に仕事をする先行組の石油資源担当の篠原氏と会うことが出来た。彼とは中東で一緒に仕事をしたことがあって面識があったのだ。彼とは仕事を共にした時の話、さらにその時の仲間のその後などの様々な話をして楽しんだ。

　彼とは、明日石油採掘担当の山崎氏も交えて打ち合わせが予定されている。その日の宴は、２時間ほどで終わり、夕方となったので、ひとまず旅客船に引き上げて休んた。

　翌日、起床時間の７時より早く６時に起きた狭山は外に出て、冷たい空気を思い切り吸った。真珠市の位置は北緯３５度であるので、ほぼ日本の地球における緯度と同等であり、温帯に位置するが、今の季節は春の半ばということで２カ月ほどすればだいぶ熱くなるという。

　１日は２２．５時間、公転周期は４２５日であるが、今のところ１日は割り切って２２．５時間、１年はその４２５日として、１カ月は基本的に３５日で、１，３，５，７，９、１１月を３６日としている。

　作りかけの宇宙港は周囲の１㎞四方が切り開かれて、均しただけの地面に旅客機が１機、貨物機が２０機着陸している。

　夜の間にも、ロボットが貨物を下したのだろう、貨物の大きな山がいくつもできている。また、２００ｍほど離れたところに、店のような仮設の建物ができていて、沢山の段ボールが積み上げられている。

　切り開かれた周辺は、草原に灌木がまばらに生えているという植生であり、緑に包まれて美しい。地形はなだらかであるが、遠くにあまり高くないが山地がみえる。地図で見た高千穂山地は４００㎞も離れているので、違う山だろう。広大な真珠湖に対して、今の位置は１００m以上高台になっているので、広大で美しい湖がはっきり見える。

　そうして、ゆっくりあたりを歩いていると、柴田ほかの部下も出てきた。

「狭山さん、外でしたか。今日は、１０時から店が開かれるそうですよ。今のうちに買うものを買っておかないと、携帯食一色になってしまいますから、できるだけ買うようにしないと」長身の柴田が言う。

「そうだな。一応端末にどういう商品があるかは出ていたけど、食品、日用品については会社の経費で買ってもいいので、出来るだけ必要そうなものは買っておいてくれ。ただ、あまり買い占めてほかの人にわたらないようでは困るのでその点は気を付けてほしい。

　私は、調査をやっていた篠原さん、油井開発の山崎さんと１０時から打ち合わせだ。柴田君も一緒に立ちあってくれ。そういうことなので買い物は頼むよ」

　狭山は部下たちに頼む。

「わかりました。任せて下さい。ちなみに、我々の現場への移動は、プラントを積んだ貨物機でという点は変わらないのですね？」

　狭山の言葉に応じて若手の広田が言う。

「うん、そうだ。ただ、石油掘削機も一緒になっており、貨物庫はほぼいっぱいだぞ」答えた狭山の言葉に広田が言う。

「はは、重力エンジン機は重量が増えても関係ないし、わずか４００㎞の飛行ですから、積んでいる設備に隙間だらけだから、相当な量は詰め込めますよ」

　その日は、同じサイトで協同する篠原、山崎氏との協議の後、協力してくれる建設班の班長とも協議を行い、さらに貨物のチェック、購入品の積み込みなどで一日が済み、翌日午前８時に貨物機で油田位置に向けて出発した。

　狭山達一行１０人と、油井開発担当の山崎達一行６人および篠原氏も同行している。作業ロボット、および重機は同じ貨物機に載っている。建設班は、別の貨物機でそれぞれの離れた位置の開発班に人員及びロボット、機器類を配送するために遅れて到着する。

　開発予定地の油田の位置には、わずか１時間で到着した。地形はなだらかで、植生は真珠市の周辺と同様に灌木が散在する草原であるため、鉛直に着陸できる貨物機の着陸には問題ない。

　まず、現地の状況を把握するため上空から視察することにして、小型トラック程度の大きさの小型飛翔機を引っ張り出して、貨物機の乗員の手で操縦する。千ｍ上空から、篠原、山崎氏と、自分の班のスタッフである安道および柴田も一緒に地形を観察する。

　篠原氏が指さしながら説明する。

「油井はあそこの少しくぼんだ位置で掘れば、間違いなく出ます。油田の埋蔵量は、５千万kl以上はありますので、石油化学材料のみの消費であれば、数十年は十分使えるでしょう。僭越ながら、化学プラントの用地は５００ｍ程度離れますが、あの東側の平地が広く広がっているところがいいと思いますよ」

　その言葉に狭山はうなずいて言う。

「ええ、私どもも送っていただいた測量図からあの一帯と考えていました。油井の位置も篠原さんが言われた位置でいいなら、当初考えていた位置より近いので助かります。山崎さん、油井の位置は、篠原さんの言われた位置でよろしいのでしょうか」

　山崎も同様にうなずく。

「ええ、私もあの位置だと思っていました」

　山崎の同意を受けて、篠原と山崎の顔を見ながら狭山が言う。

「そうですか、篠原さんの予備調査のおかげで、主要施設の位置は大体決まったようですね。じゃあ、この一帯には石油化学プラントの他、プラスチック工場その２次製品工場等ができて、最終的にはそれなりの町になります。

　その際に、その従業員が住む街の位置としては、プラントの位置から西側の丘にかけての位置として、進めてよろしいでしょうか」

「ええ。いいんじゃないでしょうか。広さも十分ありそうですし。また、あの丘を越えたところに川が流れていますので水源を確保する意味でもいいと思いますよ」

篠原そう言って同意して山崎も同意したので、狭山は話を続ける。

「ありがとうございます。じゃあ、当面の宿舎は将来の街の現場に近い位置、あの木があるところあたりにしましょう。そこで、荷下ろしは、まず宿舎の資材をあの位置に下ろし、次に、油井建設のためのボーリング機と鋼管等をあそこに着陸して下し、その後私どもの用地の位置にプラントの機材を下します。それでよろしいですか？」

　これにも篠原と山崎が同意する。「じゃ、貨物機の近くに降りましょう。柴田君は、安道さんと貨物機に乗り込んで、パイロットに位置を案内してください」

　機が着陸して、部下の柴田、安道が降りた後、狭山はさらに提案する。

「篠原さん、出来ればこの一帯の様子をもう少し見ておきたいと思っています。とりわけ、骨材になる砂利や砂を見つけたいのです」

　その声に、山崎も同意して飛翔機は再度離陸する。すぐ幅１０ｍほどの川を見つけたが、砂利、砂は見当たらない。

「じゃ、下流に向かいましょう」

　３㎞ほど下ったところで、地形の勾配が緩くなって、砂や砂利が両岸１００㎞以上に堆積して、５００ｍほど続いている。さきには真珠湖の湖面がみえる。

「これはいい。これだけあれば、当面は大丈夫だ」狭山と山崎が期せずして言う。

　貨物機２０機および旅客機１機は１週間後にはすべて引き上げていった。

　狭山達の現場は、予定されていた建設班も入り順調に建設が進んでいる。２日後には、建設班も含めた宿舎は出来上がり、現在は街が作られる予定地の一部の整地が進んでいる。川の近くに浅井戸が掘られ十分な量の良質な水が得られている。

　排水については、環境を汚染しないことが厳しく要求されていることから、生

活に伴っての排水は持ってきた小型の膜を使った汚水処理システムによって処理される。１カ月後には、とりあえず川渕町と名付けたこの新都市に当面住むスタッフおよび家族、２百家族が住める宿舎、いや住宅と呼ぶべきであろう、および小規模な商店等が完成した。その段階で建設班の応援部隊は真珠市にひきあげた。

　狭山達１０人は、どんどん持ってきたプラントの組み立てを進めてきた。１ヶ月を過ぎる頃、皆で集まって飲む焼酎を眺めて、柴田が言う。

「ああ、もう少しで酒も切れるなあ。飲兵衛の広田君は困るだろう」

「ふふふ、ははは！私にそこに抜かりはあるものですか。あれほどの資材を持ってきて、しかもドンガラばかりのものが多いのにその空間を生かさないなど、ありえない。見よ！」

　安田が、黒い紙パックのケースを取り出す。

「あ！焼酎黒霧島。どうしたそれは」柴田が叫ぶ。

「これは、俺が持ち込んだ、千パックの一つだ。１６０万円、貯金を全部はたいたもんね。みな、飲むときはちゃんと金を払ってね」

「えらい！安田！お前は偉い。でもその知恵を仕事に生かせればな。焼酎の新やまとでの生産はわりに早いと聞いている。たぶん、２年後にはできるだろう。

　今、千パックあるので１．８㎘、で一日２升３．６㍑として９００日、年間４２５日だから１日２升で約２本だ。１０人で割れば１日１人２合、いいところだ。安田でかした」

　ベテランの芝崎がほめる。

　狭山は内心は、『安田でかした』と思ったが、そうも言えず苦笑した。

「しかし、みな承知してほしいのは、さっきの計算は１０人としての話だ。人数が増えるとあっと言う間になくなることは判るな。我々がこれを持っているのは、絶対の秘密だぞ。わかったな」柴崎が気合を入れる。

　しかし、２日後端末をみていると、『酒類は真珠市購買部で買えます。十分量は用意していますので、どうぞお買いください』との案内がある。

　値段は黒霧島が１５００円で、広田が買ったより安い。どうも重力エンジン推進の場合は重量は問題にしないことから、運搬物に空間が多いことは気が付いた人がいて、有効活用したわけだ。

「ええ！そんな。俺がどれほど買った焼酎を苦労して機器の間に忍び込ませたか」安田が、頭を抱えて嘆く。

「まあ、そうは言っても当面買わなくても、焼酎はここにあるから心強いよ。皆でお前のその心意気は無駄にしないよ」

　柴田が慰めた。

　そんなことがありながら、現場の仕事は進んでいって、１．５か月後には油井施設が完成し、試運転が始まった。石油層は被圧されているので当然石油は自噴する。そこに山崎以下の油井開発班は集まっており、篠原も来ている。

　また、すでに油井施設の運転班に、狭山達が建設している化学プラントの運転班も石油化学会社から派遣されて来ており、ともに立ち会っている。山崎がバルブを持って言う。

「この油性の圧力は１．２バールですからバルブを全開すると１０ｍ以上吹き上がります。最初に、少し開けて質の調査をします」

　ベテランの彼にしても、この瞬間は緊張して口がからからになる。茶色の原油がビーカーに溜まる。

「簡易試験をします」いくつかの機器を使った試験の後に説明する。

「うーん。軽質油で硫化物も少なく質は最高ですね。今作っている化学プラントで問題なく生産に使えます。ひところ前なら、大財産だったのですがね」

「今でも石油化学の原料としての値打ちはそんなには変わりませんよ」狭山が慰めるように言う。

　その１週間後、狭山達が作っていたプラントが完成した。すでに、油井からの配管は完成していたので直ちに試運転に入る。現在隣接地には、出来たポリエチレンや塩ビから様々な２次製品を作る工場が建設中で、来月には一部稼働の予定だ。

　これは貨物機で運んできた工場の資材が、極力プレハブ化されたものであったため、１カ月強で稼働状態に入れるというすぐれものだ。この工場の能力は、狭山達が組み立てた年間８万トンのプラントに合わせたものだが、今後建設される年間原油１００万トンを生成した樹脂に合わせて大拡張される予定になっている。

　今後、新やまとの建設は、樹脂製品をできるだけ多用して、木材資源を極力消耗させないように考えられている。

　樹脂工場は稼働を始め、２次製品の工場開始までに作りためをしておく。

　狭山達は、本施設の設計の最終段階であり、それに並行して用地の造成に入っている。この工場は、基本的には大プラントを１つ作るのではなく、年産２０万トンの施設を５系列作ることにした。ＦＲ機建設において巨大機を少数作るのではなく、最大で１００万㎾の規格化されたものを多数つくることで、稼働機を早く使いたいという考えと一緒である。

　３月末、あと半月後には、妻の順子と娘のなつめおよび息子の章一も来る。詳しいことはまだ聞いていないが、妻から送られてきたメモリーの映像にそう述べられていた。ちなみに、地球との通信は地球から着く船にメモリーとして運ばれることになっている。

　また、社員の家族も同じタイミングで来ることになっている。すでに、それぞれの家も用意できており、みな張り切っている。

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あとがき

のぞみ大陸の図のURLです。参考にしてください。

https://19004.mitemin.net/i208138/