僕の異世界 あとがき

 


「誰だ、お前は……誰だ!!」


 リムサは困ったような顔をして、逡巡するように沈黙を挟むと、ゆるやなか口調で答え始めました。


「つまり、この子には予知能力があったのですね、だから確認できるはずもない未来の妊娠を知っていた……、ずっと気になっていたんです、田中君が嘘を言っているようには見えなくて、でもこれは予想外でした、本当にごめんなさい」


「お前、は、誰だ……いや知ってる、知ってるぞ、僕は知ってる!」



 はい、お察しの通り、お久しぶりです、田中君、私です。



「なんだ!? ふ、ふざけるな、なんだ、どこだ! どこにいる! どこから喋ってる! でてこい! 綴喜メクルっ!!」



 ごめんなさい、私の本体は今はその世界にはいません。

 これは、いわゆる行間から喋っています、物語の行間、書き手の言葉、君とキャラクターの間から話しかけています。



「な、なにを言ってるんだ、こいつは僕に何を言っているんだ、何かの能力に巻き込まれている? くそ、まずは時間を止めなくてはならない! 僕は力を集中させた!」



 すみません、もう田中君の一人称語りはできません、


 勝手なことだとは分かっているのですが、そろそろページ数も危ういので、今のツヨシさんの状況を説明させてください。



「この女が何を言っているかわからない、僕は夢か幻でも見ているのか、たちの悪い魔法だ、僕は思わず近くにあったコップの水を自分にかけた!」



 ごめんなさい、もう君がいくら一人称で語ろうとしてもダメなんです。

 今、この世界は三人称の世界、筆者は私です。

 少し時間はかかってしまいましたが、一時的に貴方の物語をいただきました。

 ここは私が創造した世界、私が世界を歩き、覚え、できる限り忠実に創作した世界です。君という物語を私が創作し捏造した、オリジナルの模倣世界。


 説明するのが遅くなってごめんなさい、これが私の能力。


 これが私のチート、『二次創柵ファンフィクション』です。



「うるさい! 黙れ黙れ黙れ!! まずは姿を現せ! 隠れているんだろ! 時を止めて探してやる!」



 それも無理なんです、私はそこより少し上の情報体として、この物語を書いています。そしてツヨシさんのキャラクタープロフィールから、『時間停止』のさせていただきました。


 この世界の神と呼ばれていた存在システムが貴方に譲渡していた莫大な情報量リソースを使って、この世界を構築しました。


 田中君の能力を奪ったお詫びに、この世界を君に送ります。


 この世界は君の物です。


 でも君はこの世界のものにもなりました。 



「僕、が……世界のもの?」



 はい、私の二次創柵には残念ながら限界があります。

 この物語には、『“打ち切り”』が存在しているんです。



「ま、待て、どういうことだ……打ち切りってなんだよ!」



 打ち切りは、打ち切りです、どんな物語にも永遠がないように、誰かが飽きたら、人気が無くなったら、記憶からなくなれば、存在は消えてなくなる、それを私は打ち切りと呼んでいます。


 でもまだ猶予があります、田中君の物語には、まだ少しだけ。



「飽きたら、打ち、切りって、なんの話だ、なんの話だよっ!」



 これは君の話です、君は主役に、ツヨシさん。



 あの時、私達と一緒に帰っていたら、私もこの世界に君を閉じ込める事はしませんでした。


 だけど君はあの時、私達を止めようとした、だから私は能力を発動しました。


 あれは最後のチャンスだったんです。


 そして田中君は自由を選んだ、多くの人間の不幸より、自分の幸せを選んでしまった。


 そこが分岐点だったんです、あの世界にとっても、現実の世界にとっても、君にとっても……私にとっても。


 ごめんなさい、それだけ君の能力は規格外だったのです……本当にごめんなさい。


 最初はこの物語の世界で好きに生きて貰えればと思いました。


 誰を犯しても、誰を殺しても、誰を悲しませても、誰を護っても、それは君の物語です。


 でも、安寧に生きる物語にしたのは私のミスでした。


 能力を消してしまった以上、あのままの世界で田中君が生き続けるには無理があったんです。


 だからできるだけ平和で、1人の男性として幸せな生涯をおくれるように物語を書き換えました。


 

でも、そのせいで、この物語からが急激に離れ始めました。



「観測、者? なんだよ、それ……まってくれ、理解が、おいつかないんだ」



 観測者はこの世界、この物語に情報量リソースを供給する存在です。

 この物語に向けられていた感情という情報量、それが減少を始め、既に世界の端では綻びが始まっています。


 このままではツヨシさんは世界と共に消えてしまいます、なので私がエピローグを一時的に作成し、乗っ取りました。


 これから、できるだけ物語が長く続くように幾つかアドバイスをするのでよく聞いてください。



「そんな……まってくれよ、まってくれ」



 一つ、生きることを諦めないでください、主人公が死ねばこの物語は終わります。


 二つ、読者達の興味を惹き続けてください、彼らは君の全てを見ています。


 三つ、諦めないでください、今まで得た物、見てきた知識に必ず突破口があります。この物語のラストを決める事ができるのは、君だけです。


 最後に、、声は絶対に返ってきません。



「ど、読者って、読者ってなんだよ……」



 誰なんでしょうね……、私も読者の方には会ったことがないので……。


 でも、この物語の主役は、この世界の主役は、君です、君、ただ一人です。


 そして観測者達は君を見ています。


 今この瞬間も見ているはずです。


 そしてページを、画面を閉じそうになってる人も。


 観測者が0になると、この物語は崩れ始めます、


 世界を構成する熱が消え、物語が解け始めます。


 読者による観測こそが、この世界を維持する熱、続きを渇望されるからこそ、情報量は生まれ続ける。


 そのためにも観測され続ける必要があるんです。



「ふ、ふざけんなよっ! 誰も見なくなったらこの世界が終わるっていうのか!?」


 

 ……本当にごめんなさい。

 でもできるだけの事はします。

 この物語がせめて田中君の生涯を賭けるに値する結末が迎えられるように、世界のどこかに、強大な敵を生み出しました、ゆっくりとですが、やがて来るです。



「は? ……魔王って、な、なんだよ、なんだよそれ、力も無いのに、そ、そんな理不尽に納得できるかよ!」



 ツヨシはそう叫ぶと時を止めようとします。


 しかし能力は発動することなく、自らの顔にかけていた水はゆっくりと床へと溢れて吸い込まれていくのでした。




「ま、まてよ! まってくれ! 俺の時間を返してくれ! 能力がなけりゃ無理だろ!!」




 自身の能力の消失に気づいたツヨシは絶望します。

 このままでは愛する二人を、この里を守れない、暗い絶望がツヨシを襲います。


 しかし愛する人を守ると心に決めていたツヨシは、たとえ時を止める能力が無くても、二人を守るために本当の強さを手に入れる日々を始めるのでした。


 己を鍛え、隣人を愛し、家族を守る。それは動く時の中でしかできない事。


 里のエルフ達に伝わる魔法、弓、召還、薬品、それら全てを会得し、来たるその日に備えるのでした。




「ま、待ってくれよ! お願いだよ……、頼む、時間を、時間を――」




 もう止まることのない時の中、本当の強さを手に入れるために、ツヨシは決意を胸に叫びました。





「止めてくれ!!」






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