Fantasie / クライスラーを聴きながら
「ああ、良いおもいができた」
「それはよかった」
「今回は記憶していた通りのものが観られたよ」
「嬉しい記憶は正確に記録されるものですから。時にお客様、次がラストオーダーとなります」
「もうじゅうぶんだ。いい夢を観させてもらったよ。ありがとう」
「この先の記憶を辿らなくても良いのですか」
「いいんだ。彼女は結局来なかった」
「さようで御座いますか……そうしますと、後味が悪うございましょう。嫌な思い出を残したままになりますが」
「いや、そんなことはない。私には良い思い出だった。あぁ、ラストオーダーということなら、その時が来るまでクライスラーを脳内に響かせてはくれないか」
「『前奏曲とアレグロ』でよろしかったですね」
「そうだ。小舟に揺られて聴くには最高の選曲だ」
「かしこまりました。しかし、これもあくまで記憶なので、正確な旋律はお客様次第でございますよ」
「わかっている。たぶん、一音も外さず記憶しているよ」
「承知しました。クライスラーの『前奏曲とアレグロ』を」
「ありがとう」
「こちらこそ。それでは彼岸までの、最後の記憶をお届けいたします。良き旅立ちを」
【 了 】
クライスラーを聴きながら 麻生 凪 @2951
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます