エピローグ

 その後のレベッカは、これから起きる出来事を経験した。東日本で起きた大地震、その時のレベッカは知る由もなく、いつも通りの日常を送った。異変に気づいたのは16時頃だった。じしんやばい、津波やべえ日本やべえの声を聞いたレベッカはすぐさまにテレビをつけた。東日本は大惨事になっていた。仲間の安否確認をするも、いずれも音信不通だった。どのチャンネルも全て特番ばかりか、一部生活に支障が及んだ。仲間の無事を祈るレベッカであったが後日、「マリア愛美が緋音捜しの最中、大地震に見舞われて重傷を負う」「ミント彩香が屋上で座っている」「ガジュが入所している木枯らし荘が半壊、部屋中の家具が散乱した」という目撃情報があった。今のレベッカでは現場へ向かうことができず、ただ見ていることしかできなかった。ところが震災から6日後、アレックスともう一人、意外な人物が駆けつけてくれた。その意外な人物とは、中学生時代より友である「七面緋音(シチメン)」。シチメンの提案「ガンバレJapan」に乗り、二人とともに慈善活動するレベッカであった。そんな中、しょぼくれたガジュにレベッカは「いっしゅのちゃれんじせいしん」な言葉を贈った。

「大地震であんなふうになり、落ち込んでるね。でもね、そんな絶望の中、生を諦めない先に希望がある。さあ、元気出して立ち直り、希望を掴むんだ!!Feel the flow, Girjunior!!(かっとビングだ、ガジュ!!)」


 昨年の事件や前述の災害による傷痕が大きく残る一方、平和のための慈善活動をする人もいる。今年より軽音楽ユニット「カルウとブチョ」が本格的な音楽活動を開始した。前者が年上のベース担当者、後者が年下のドラム担当者、中学生高校生が混在するこのユニットで人々の注目を集めていた。この二人は前述の災害で部屋中が散乱したり、津波ショックでガジュの魔法の言葉を聞くまではずっと沈黙状態だったり、色々あったが、慈善活動する人を見て立ち止まってはいられない、かっとビングでなんとかなると双方とも立ち直った。「ジェシカ・孔雀」ことダイスはハルミ、ビートとともに来日した。シチメンがレベッカのもとへ来たというのはダイスの提案であり、またシチメンは実は昨年、彼氏「アダム」とともにニューヨーク州に亡命したらしい。小学校卒業後、ダイスはニューヨーク州に帰国してから、一度もシチメンに再会する機会がなかったが、5年の歳月を経ての再会とは夢にも思わなかったとダイスは語っていた。2年前以来の海水浴、縁日でシチメン姉妹は水着、浴衣姿を披露して、久々の楽しい日々が盛り上がっていた。ミュゼット、デイカ、アマデがガジュのもとへ遊びに来た。新しい仲間が次々と現れ、その新世代の仲間達を見守るレベッカであったのだが......。


 昨年の事件での悪意や絶望により堕ちた女がいた。その女とは、アビスこと「音無涼香」。堕ちる前はおしとやかな、天然かつよく呆ける不思議系だった。噂によると幼少の頃、いつも父親にぼこられて徹子の元へ逃げ込んだらしい。「大神徹子」、彼女はアビスの保護者的な存在である。高校時代よりシチメンはその二人とは仲が良好だったが、昨年の事件により袂を分かったらしい。そのアビスが10月よりシチメンの前に現れた。それと同時に例のあの人が再びレベッカの前に現れた。また同じことの繰り返しではないかと危惧されるレベッカだが前回とは違い、かっとビングや希望がある限り、けっして退かない決心がついており、巨悪に屈せず抗っていた。また、11月より3年前以来のフェスティバルが復活したらしく、昨年鬼籍に入った「ニコ・ロデオン」に代わり、「ミヤモト」が主催することになった。前回とは違い、トーナメント形式での競技が実施されるものだった。ガジュ、レベッカ、ダイス、ハルミ、ミント彩香が今回のフェスティバルに参加することになった。「石部イワーク」といった個性豊かな選手を打ち倒し、順調に勝ち上がってきたガジュ。トーナメント表の中に傀儡チームがいるらしく、目的のためなら手段を厭わないナラズモノのチームが汚い手でも勝ち上がっていた。その正体は、Dr.デカボットの手から逃れてきたあのAIで、レベッカを模した黒いパペットを媒体とした怪物だった。決勝戦でガジュは苦戦するものの、自身以外では目視できない幽霊と自身の化身を重ね合わせることで誕生した「ゼクサルモード」で打ち勝った。この大会で二度の巨悪に打ち勝ち、優勝したガジュを称えるレベッカ達だが、アビス事件はまだ解決していない。翌年までは充電することになった。


 2012 February, シチメンはアビスとの関係を修復するべく説得するために、組織に乗り込んだ。幹部クラス「桑田キョウ」「安広浅香」を片っ端から下していき、組織の中枢までたどり着いた。戦わずにして説得を試みるも、アビスの底知れぬ絶望により撤退を余儀なくされた。得体の知れぬ何かにとりつかれたアビスはシチメンの手には負えない状況に。相手が絶望なら希望は、2010年伝説の英雄「レベッカ」で対抗すると軽く考えたシチメンはレベッカに希望を委ねた。希望と絶望の対決が始まり、アビスは自身の心の闇を一挙吐くものの、レベッカがアビスの虚言全てを論破した。結果、希望が絶望に打ち勝ったはいいが、アビスは未だに闇に染まったまま、完全とは言いきれない。それでも昔同様、おしとやかで天然な性格に戻った。これにてアビス事件は解決した。


 アビス事件から一年三ヶ月後、発生源不明のリバース式ゾンビ事件が勃発した。どこからなのかわからないまま「安広浅香」、「大神徹子」といったアビスの仲間が記念すべき最初の犠牲者となった。アビスの尽力やゾンビミュゼット説を嗅ぎつけ駆けつけてきたDr.デカボットの協力でなんとか鎮めたが、これは序の口に過ぎなかった。二ヶ月後、現象の調査へ向かった「アレグロ雪郎」、アメリカ帰りの「ハーヴ」、借り物の力を望まない「ミント彩香」、リサイクルをこなす「アンジー楓」が更なる犠牲者になってしまう。第三者によるものだった。現地の人々が対処して何気なく解決した。二ヶ月後、感染者に押し潰された最後の犠牲者が三名(ヒメ、ダイス、パピニタム)出た。以後、新規感染者が続出することはなかった。発生源の中枢まで辿れたカルウは、元凶を探している最中に出会ってしまった、カルウのもうひとつの可能性、もうひとつの自分。その正体は並行世界のカルウで、悪魔のような笑みを浮かべていた。自分(あなた)もいつか悪魔になるときが来ると告げる悪魔カルウだが、カルウはそれを否定し、ベースを構え自分の邪気を払った。レベッカは埋もれた栄光を再生しようとするシチメンに会った。半年渡ってあんなに流行っていたリバース式ゾンビは終わりを迎えようとする。何年経ってしまった古い事を有効活用する、そんな簡単なことなのに誰もやらないのかに疑問を抱いたレベッカは、シチメンの提案に乗ることになった。レベッカは考えた、原作者が望んでいた古き友との再会。原作者安泰のためにレベッカはガーディアンとして原作者の領域を守ることになった。レベッカに使命を背負わせることでシチメンは晴れて、三年越しの卒業となった。ゾンビ事件をきっかけに、アビスはDr.デカボットと結婚する形でアビスの組織はドクターズに吸収された。シチメンはニューヨーク州に帰り、アダムと結婚して幸せに暮らしていた。こうしてレベッカの物語は今度こそ終わりを迎えた。


 原作者とレベッカの存在は人々の記憶から薄れていく。本来ならシチメンだけが二人に関する記憶を保持しているはずだった。しかし、一人だけではとどまらず原作者の記憶があるやからが複数人いた。ならずものの集まり組織「B.I.P.P.R.G.」が原作者の別称を口にすると言う手で掘り起こしてきた。禁忌な手口のおかげで、せっかく塗り固めていた結界が崩れ、むき出しになってしまう。混乱する原作者、何らかの拍子でかけがえのない友に嫌われた挙げ句、サークル内の内部分裂が引き起こしてしまい、原作者は追放された。原作者はかつてないほど荒れていき、理解に苦しんでいた。

「......なんていまいましい魔女だ。」

原作者の甘い行動で、サークル内の裏切り者の愚行に嵌められレベッカもろともデリートされた。2017年に入るまでは、いかなる時でも表に出ることはなかった。「B.I.P.P.R.G.」に掘り起こされた影響で皆は忘れ去られただろうレベッカに関する記憶が次々と甦っていった。記憶を取り戻したレベッカの仲間は早々に連絡を取る。すると、意外なメッセージが送られてきた。

「君たちを巻き込むわけにはいかない。いかなる場合も、自分の幸せは自分で守れ。」


 2015 May, 試験的に運用されているDr.デカボット製次元転送装置を使い、レベッカは原作者とともに大都市ニュードミノシティに転移した。この大都市では、D・ランナーが主流である。ジャミングのせいかインターネットが使えないので、隠れ蓑にちょうどいい。元の世界に帰らず、そのまま過ごしていた。同姿同名の別人「大原雅史」「ラファエル・アトラス」「ダイアナ・アトラス」が多数いるほか、元の世界にはいない「林友美」をよく見かける。この次元の民にとってレベッカは世界を救った英雄として奉られているらしい。元の世界に比べてこの次元は平和なので、このまま一生大都市で暮らそうと一度は考えた。だが長くはいられなく、翌年4月より次の次元へと転移した。おとぎの国ハートランドは、ガジュの生まれの国といっても過言ではないほどであった。2010年の事件(元の世界で起きた事件の衝撃波?あるいは共鳴?)による滅び、今は廃墟となっていた。どの次元でも全滅していて、中川家の生き残りは中国まで流されていた「中川朱美」の他にいたらしい。「中川メリッサ」はハートランド出身の中川家唯一の生き残りで、「鵲マイケル」のそっくりさん「マイケル・パロ・キング・ハートランド」に拾われたらしい。彼の口からガジュの真の出生を知らされることになった。「ミーナ・トゥルー・クイーン・ハートランド」、ハートランドの真のプリンセスなのだが、なんらかの事情により1998年出生してまもなく、レベッカのいる世界へ送り込んだという。それから一年の間、レベッカと原作者はこの次元でやり過ごした。2017年に入ると、Dr.デカボットが迎えに来てくれた。レベッカと原作者は元の世界へ戻ることになり、荷造りしてさっさとおさらばした。元の世界へ帰れた二人。レベッカがいないこの2年間は、自分を差し置いて「インポスターレベッカ」や「鵲マデリーン」、「近藤邦雄」、「セレーネ」、「ネメシスレベッカ」がよく目立ち活躍したらしく、その事情を知って腑に落ちない顔をするレベッカであった。


 2017年6月14日、いよいよ迎えた運命の日。しかし、実際は何も起きず、世界は滅びなかった。それどころか翌月、例のあの人のアカウントは停止された。

『該当ユーザーのアカウントは停止されています。』

以降、例のあの人との連絡手段はなくなり、裏切り者の悪行の心配はなくなった。散々悪行を繰り返してきた者の末路だろう。

 October, ニューヨーク州出身のランドルフとレジーナは遊園地の招待状が届いたらしく、遊園地へと向かった。中国出身の「中川朱美」や「細貝聡志」も同様の招待状が届いており、遊びに出ていた。招待状が届いていない、あるいは横取りしたとしても選ばれし者ではない人間は弾かれる。レベッカは昨年同様、4人を見守ることができず、あえて幸運を祈るしかなかった。5日後、帰還した4人は遊園地の感想を述べていた。黒幕の身柄を確保、賞金はレジーナのものに。朱美や聡志はただ、遊園地を楽しんだだけだった。


 2018年、不思議なことに未来人三人を除いたレベッカの仲間達が再び集まってきた。10年前の仲間に加えて、「ミーナ、またの名をガジュ」の他に、「ネメシスレベッカ」、「椿姫カナ」「西園寺凛」、「鵲マイケル」、「鵲マデリーン」、「近藤邦雄」、「セレーネ」、「インポスターレベッカ」、「黒澤ジャック」「ベリンダ・ハドソン」「チェルシー・バーガー」、「中川朱美」、「細貝聡志」、「大原雅史」、「藤田ハンナ」、エリートガードの皆様、ドクターズの皆様が揃いも揃って、同窓会でもやっているかのようだ。これまでの、10年間の軌跡を語るレベッカであった。


 2019年、気がつけば3月31日。9年前の戦場だった、日本海と東海の間に存在したあの帝国が一夜にして消え去った。レベッカの敵がいなくなったことで、9年間にわたる戦いに終止符を打った。昨年同窓会よろしく集結した仲間が持ち場に戻るべく再び離れていき、今度こそ存在理由を見失ったレベッカ、再び原作者の膝に頭を乗っける。そしてレベッカが健やかに、休息していく。


 膝の上で完結するレベッカの物語。


END

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Rebecca Trilogy / レベッカトリロジー 桃太郎V @Rebecca-Nobel

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