第4話 三人団、王都へゴー!


 迷宮都市テルミナの北門を抜けると駅馬車の駅舎がある。次の駅馬車の発車時刻はいつか分からないが、駅舎の窓口で王都までの3人分の切符を買い、出発時間を調整している二頭立てのほろ馬車仕様の駅馬車に乗り込んだ。


 幌馬車の中にはまだ誰も乗っていなかったので、今のところ俺たち3人の貸し切り状態である。


「妙にいてますね。こういったときは、よく道中どうちゅう山賊などが出没するって噂が立った時なんですよね。山賊出ないかなー」


 主要街道に山賊なんかが出るようじゃ、旅もおちおちできないわな。旅はまだいいかもしれないが物流なんか止まるんじゃないか?


「どの程度の混み具合が普通なのか知らないから何とも言えないけれど、この馬車だと乗客の定員は10人くらいだよな。発車まで時間がまだあるならそのうち客も来るんじゃないか?」


「この馬車は正午発車と思いますから、もうすぐ発車すると思います」


 アズランがもうすぐだといったとたん、ゴトンと音がして馬車が動き始めた。


「ほーら、私たちだけでした。これは期待大!」


 トルシェが盛大に立てたフラグが回収できるかどうかはわからないが、これから二週間も馬車旅だと考えると、馬車の御者ぎょしゃには悪いがそういったイベントもあった方がいいと思う。


 そういうことなのでイベント発生時には、御者を守りながらという制約付きでクリアを目指そうと思う。その程度の制約では俺たちにとってハンデにもならんな。


 山賊が出没するせいかどうかはわからないが、確かに街道を行きう人も少ないし、馬車もあまり行き来してないように思える。


 俺の隣に座っている誰かがテルミナの南の数区画を瓦礫がれきの山にかえてしまった(注1)関係で、復興需要が高まり資材などを運搬する荷馬車で街道の行き来が増えているのではと思っていたのだが、そうでもないようだ。




 馬車旅の初日は何事もなく半日馬車に揺られ、その日泊る宿場町にある駅舎に到着した。


 宿場町には馬車客専用の宿屋があるようで、格安で泊れるし、食事もそこそこおいしいのだそうだ。


 別にお金に不自由しているわけでもないので、格安宿に泊まる必要などないのだが、物は試しということで、その宿に泊まることにした。駅馬車は、明日の8時に駅舎前から出発するので、その時間までに駅舎に戻って馬車に乗っておく必要がある。


 宿屋で出された食事は、量も多く、十分満足することができた。ついでに、はたから見るとビールにそっくりな酒を注文したのだが、確かに見た目だけはビールっぽいのだが生暖かい飲み物で泡も立たず、大外れだった。


 仕方ないので赤ワインを頼んだところ、こちらは当たりだった。トルシェもアズランもお酒はダメなようで、俺一人手酌てじゃくで飲んでしまった。


 もちろんいくら飲んでもこの身が酔うようなことはないのだが、それでも久しぶりの飲酒で非常に気分が良くなったのは確かだ。


 十分食事を楽しんだので、部屋に戻って寝ることにした。取った部屋は四人部屋で当たり前だがちゃんと俺用のベッドがある。非常に久しぶりだ。部屋にあった水シャワーで体の汚れを落とし、最初の店で買った貫頭衣かんとういのような寝間着に着替えて体をベッドに横たえたところ、フーっと声が漏れてしまった。


 きもちいーーーい!


 まさに魂の叫び声が漏れてしまった。


 目をつむって寝ようとしたら、


「ダークンさん、もう寝ちゃうんですか?」


 そりゃあ寝るだろう、何もすることなんてないんだし。


「どうした、トルシェ?」


「今日は午前中は買い物もして時間が潰せたので我慢できましたが、明日はおそらく朝から夕方まで、途中の休憩以外、丸一日馬車の中ですよ」


「それはそうだな」


「つまらなくはありませんか?」


「それを言っても仕方ないだろ」


「うーん、アズランはどう思う?」


「……」


「あれ、アズラン、もう寝ちゃった?」


「は、はい! いま起きます! ムニャムニャ……」


 寝ぼけてるのか? いいのか元アサシンがこんなので。だいたい、アサシンなんていついかなる時でも気を張っているんじゃないか? いや、知らんけど。


 まあ、俺たちと一緒にいれば安全だと思って気を許しているんだと思えば悪い気はしないな。


「アズランも寝ているようだし、俺たちも寝ようぜ」


「はーい」


 もちろん、トルシェだけはマッパで寝ている。毛布もいつもはだけているし、腹が冷えないのだろうか?


 俺自身、久方ひさかたぶりの睡眠だ。目を閉じてベッドの柔らかさに感動していたら、そのうち眠ることができた。とはいっても、半分意識は覚醒していたようだ。眠っている半分の意識を覚醒している方の意識で見守っている状況なのだが、その不思議な感覚が結構気持ちがいい。



 翌朝。


 支度を終えて宿の食堂で朝食をとり、早めに駅舎に戻って、そのうちやってきた昨日の馬車に乗り込んだ。


 今日も俺たちしか乗客はいないようで、時間になったところで俺たち三人だけを乗せて馬車は出発した。


 出発した時から何もすることがないので、トルシェなどは朝食を食べて間もない時間だったが、ピスタチオもどきを取り出して食べ始めた。殻はベルトから元の形に戻って馬車の床の上で転がっているコロに食べさせている。


 ゴトロン、ゴトロン。……。


 こういった単調な振動と音が続けば眠くなるのだろうが、昨日寝たのが午後8時だったので、さすがにまだ眠くはならない。


 女神になり骨の周りが筋肉などで覆われてしまったため、暇つぶしに最適な骨音楽(注2)もできなくなってしまった。トルシェではないが、出てこーい! 出てこーい! 山賊出てこーい! といった心境にもなる。





注1:テルミナの南の数区画を瓦礫の山に変えてしまった

『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』の「第109話 迷宮都市テルミナ半壊」https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020/episodes/1177354054918700168


注2:骨音楽

ダークンはスケルトン時代、自分の骨をたたいて音楽を奏でることを趣味としており、左右の手で別々の音楽を奏でることもできた。得意な曲は『もしもしカメよ』と『ももたろさん』、ベートーベンの『運命』も得意だが、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーンの後を知らないのでそこまでしか演奏できない。

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