第3話 三人団、再始動3


 翌日の朝食は結局俺が三人分作った。


 昨日はパンであれほど感動したのだが、朝方食べたステーキは涙が出るほどおいしかった。女神であるこの身に胃があるかどうかはわからないが、胃はもたれなかった。


 実際のところ、もたれるどころか腹が張るわけでもなく、その上まったく尿意も便意もないので俺の腹の中がどうなっているのかは謎だ。なかで異次元に通じている可能性もあるが、そうだとすると、異次元の人が可哀かわいそうではある。





「そろそろいい時間だから、街に出てみるか」


「リンガレング(注1)はどうします?」


「ここの留守番に置いていてもいいだろう。コロ(注2)とフェア(注3)だけ連れていこう」


 実は俺自身、リンガレング並みの能力がある気がするんだよ。フフフ。


 コロはいつもの肩掛け紐の付いた鉄箱に。フェアはアズランの肩の上の定位置に。成体となったコロには鉄箱はちょっと小さいかと思ったんだが、コロ自身体の大きさを自由に変えられるようで普通に鉄箱に収まってくれた。


 さあ、俺たちの冒険の旅に出発だ! 




 大げさに言ったところで、いつもと変わらないし最終回でもないのだが、気持ちは新『三人団(注4)』の最初の行動だ。おれたち三人の中には一人もジェニュインほんものの人間はいないので、三人団の『にん』というのはおかしいのだが、今さらなのでこれで通すことにした。



 俺たちの拠点にあるいつもの黒い渦(注5)の中に入り、迷宮都市テルミナの迷宮出入り口にやってきた。俺を見たダンジョン前に立つ冒険者ギルドの職員が俺に頭を下げたので俺も軽く会釈してやった。


 顔は忘れてしまったが、この職員は以前俺がここで『闇の使徒(注6)』の連中に絡まれているところを助けてやった人物なのだろう。ちゃんと恩を忘れず俺に頭を下げるところは高評価だ。



「まずは、予定通り衣料品だな。トルシェ案内頼む」


 この街に詳しいトルシェに道案内を頼む。


「任せてください。今のダークンさんに似合いそうな服が置いてある店を知ってます」


「とにかく鎧の下がマッパだから、下着だけでも早めに欲しいからな」


「買い物はいいとして、これから私たち何をしていきます?」


「そうだなー、手始めにこの国の中だけでも見物して歩こうか?」


「それならダークンさん、王都に行きましょうよ。それに今のダークンさんならスケルトンの時と違って問題なく王都までの馬車にも乗れるし、アズランのなんとかって暗殺ギルドに落とし前を付ける仕事も残ってるし」


「そうだったな。アズランは以前、いまさら復讐する気はないと言ってたけれど『常闇とこやみの女神』の眷属が舐められたままというのは良くないものな。とりあえず叩き潰しておくか。アズランも構わないだろ?」


「もちろんかまいません。そういえば王都には、あの『闇の使徒』の本部があるかもしれません」


「あの『闇』をかたる不届きな連中な。それなら、ついでにそっちもってしまうか。

 作戦は、殴り込んで皆殺し。そのあと俺が『神の怒り』で焼き払う。これでどうだ?」


「ダークンさん、作戦はシンプルでいいと思いますが、焼き払う前にちゃんと金目の物はいただいておきましょうよ」


「そこはトルシェに任す」


「任されました! ウフェフェフェフェ」


「ダークンさん、リンガレングの『神の怒り』が使えるんですね」


「まあな。リンガレングは小さい方への力の調整が苦手だったようだが、俺はある程度力の調節ができるから、中心点から50メートルも離れていれば十分だ。街中まちなかで半径5キロも焼き払ったら、街が無くなるものな」


「それじゃあ、ダークンさんの服を買ったら、旅支度の買い物をしましょう」


「そうだな」




 今回トルシェが連れていってくれた店は、前回マントを購入した古着屋などよりよほど大きな店だったため、全身鎧を着た俺でも店の中に入って品物を見ることができた。


 旅に出るならそれなりの数の衣類は必要なので、トルシェ、アズラン、三人でかなりの量の衣類を購入した。店の中に試着室があったので、ダーク・ストーカーから、買った下着と簡単な上下に着替えておいた。上は白のブラウスに下は明るい紺の膝丈のスカート。靴は薄茶で編み上げのハーフブーツといった感じでまとめてみた。


 全身鎧姿の俺が店に入ってきた時、店の連中は驚いていたが、女性服姿の俺が試着室から出て来た時には店の連中だけでなくトルシェとアズランまで驚いていた。


 衣類の次は、乾物屋にまわって、干し肉や乾燥果物などの乾物を大量に購入した。『暗黒の聖水(注7)』は大量にストックしているので、トルシェもアズランもお腹がすくことはないと思うが、何か口に入れたいという欲求はあるだろう。


 これから旅に出るににあたり、俺が肩から下げたコロの入った鉄箱が邪魔なのだが、どうにかならないか考えていたら、コロが自分で鉄箱の蓋を開けて、するすると肩から掛けた紐を伝わって、俺の体にくっ付いてきた。


 そこから、腰のあたりまで下りてきて、そこで体を伸ばして巻き付いてかなり太めのベルトになった。テカテカ黒光りしているので、エナメル風の非常に高級そうに見えるベルトだ。コロのヤツ、気が利くな。


 コロがちゃんとおさまったので、鉄箱をキューブに納めることができて楽になった。


「それじゃあ、別に拠点に帰る必要もありませんから、このまま駅馬車に乗って王都まで行ってみますか?」


「そういえば、行く前にベッドを買っておきたいな」


「ダークンさん。そんなのは王都に行って、殴り込みをかけたらいくらでも手に入りますよ。良さげなのが見つかればちゃんと取っておきますから安心してください」


「そうだったな。だけどシーツはきれいなのにしてくれよ」


「もちろんです」


 こういった面ではトルシェにかなわないな。



 そういうことで、このまま王都まで行ってしまおうと、乗合馬車の出るテルミナの北側の外壁の外にある駅馬車の駅舎まで三人で向かった。


 俺たち三人が歩いていると、道中、道行く連中からじろじろ見られて非常に不愉快な思いをしてしまった。俺は黙っていたし、アズランも黙っていたが、トルシェだけは、


「ダークンさん、すごく視線がうっとおしいので、二、三人、頭を吹っ飛ばしてやりましょうか?」


「騒ぎを起こして、馬車が出るのが遅れたら嫌だから放っとけ」


「なーんだ。どこまで頭蓋骨が上まで吹っ飛ぶか挑戦したかったのになー」


「まあ、王都について、殴り込みをかけたら存分にやってくれ」


「分かりました。でも楽しみだなー」







注1:リンガレング

邪神を封じ邪神を討伐するために作られた蜘蛛型の究極兵器。


注2:コロ

最凶のスライム生命体。ダークンのペット。


注3:フェア

アズランのペットの妖精。圧倒的俊敏性を持つ。


注4:三人団

ダークンたち三人の冒険者としてのパーティー名。三人とも冒険者ギルドの最上位ランクのAランク冒険者で、金のカードを持っている。


注5:黒い渦

ダンジョンの出入り口。ダークンの拠点にある黒い渦は迷宮都市テルミナのダンジョンの出入り口の黒い渦につながっており、直接ダンジョンの外との出入りが可能となっている。


注6:闇の使徒

『闇』を騙(かた)る不届きな宗教団体。迷宮都市テルミナにあった『闇の使徒』の拠点はすでに叩き潰している。


注7:暗黒の聖水

テルミナ大迷宮内の回復の泉から流れ出る水。気力・体力の回復を促す。渇きはもちろん、飢えをも満たす。現在ダークンたちは樽や水袋に入れて収納キューブ(注8)の中に大量に保有している。


注8:収納キューブ

5センチ角のサイコロ型をしたマジックアイテム。多くの物をその中に収納することができる。

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