強くなれる理由を知った


ゲーム→ https://kakuyomu.jp/works/1177354054934585268/episodes/1177354055263502408

対戦相手→ https://kakuyomu.jp/works/1177354055373748120/episodes/1177354055374486765



 畳、板間、襖、障子、天井が出鱈目に立体的に組み合わさった奇妙な空間。ぼんぼりにより灯りは確保されている。


――――べべん!


 少し上の方、障子に隠れた部屋に三味線を弾く着物姿の女がいる。

 メルロレロは困惑しながらも前を見る。太眉の出世欲が強そうな男が刀を構えていた。


「親方様に認めてもらうこと、それが勝利条件だ!」

「え、どういうこと?」

「これからパワハラ気質の親方様が集会を始める! そこで何としても認められるんだな!」


 そして、男は書類の束を手に取って言う。


「お、ちょうどいいくらいの案件があるじゃねえか。こんな案件なら俺でもやれるぜ」


 妙に嫌な予感がしてメルロレロが手を伸ばす。刀の切っ先を突き付けられた。


「お前は引っ込んでろ。俺は安全に出世したいんだよ。そこそこの案件を一つ片付けて、定時で退社するぜ」

――――べべん!


 直後、男の肉体はサイコロステーキのようにバラバラに解体された。凄惨な光景にメルロレロも目を背ける。


「一体」

――――べん!

「どうなって」

――――べん!

「いるのよ⋯⋯!」

――――べべん!


 空間が切り替わった。困惑の表情で周囲を見渡す。同じように困惑した男女が五人。そして、強大な威圧感に顔を上げる。


こうべを垂れてつくばえ」


 全員の視線が集まり。



 理解不能の強制力。六人全員が土下座の姿勢を取っていた。隣のウェイター服の少年も土下座の姿勢は崩せないようだ。しかし、彼だけは怒りに歪んだ顔で殺意を剥き出しにしている。反抗心を失っていないのだ。


「何故集められたのか分かるな?」


 分かるはずもない。だが、謎の威圧感で土下座の構えを崩せない。辛うじて声を張り上げたのは、隣のウェイター服の少年。


「知る、か⋯⋯⋯⋯ッ!」

「誰が喋って良いと言った。

 貴様共の下らぬ意志で物を言うな、私に聞かれたことにのみ答えよ。私が問いたいのは一つのみ、何故なにゆえに下弦の社畜おにはそれ程までに弱いのか。十二役員に数えられたからと言って、そこで終わりではない。そこから始まりだ。より案件をこなし、より成績を上げ、私の役に立つための始まり」

「半分は当たっている。耳が痛い」


 綾鷹様の左腕が膨張した。サイケデリックなピンク色の触腕が余計な発言をした社畜おにを喰い潰す。


「ここ百年余り、十二役員の上弦は顔ぶれが変わらない。プロジェクトの成果を上げてきたのは常に上弦の社畜おにたちだ。しかし下弦はどうか⋯⋯⋯⋯たかが月二百時間の残業で労基に駆け込む奴もいる」

(そんなこと、私たちに言われても⋯⋯)


 メルロレロは胸中で呟く。


「そんなことを私たちに言われても――? 言ってみろ」


 聞かれた。目を付けられた。

 少女の肩がびくりと跳ねる。


(思考が読めるのか⋯⋯まずい!?)

? 

「お許しくださいませ親方様! どうか、どうかお慈悲を!」


 勝手にパニクった後ろの女が触腕に捕食される。肉と骨が砕ける音を聞いて、思わず顔を背けた。


「チャンスを!」


 メルロレロは叫んだ。


「案件を! 貴方様の取引先のリストを分けて頂ければ! 私はより有用な契約を取ってきます!」

「何故私がお前の指図で取引先リストを与えねばならんのだ。甚だ図々しい、身の程をわきまえろ」

「ちが、違います!」

「黙れ。何も違わない。私は何も間違えない。全ての決定権は私にあり、私の言うことは絶対である。お前に拒否する権利はない、私が正しいと言ったことが正しいのだ」


 そして、膨張した触腕をメルロレロに向ける。


「お前は私に指図した。死に値する」

(ぐっ、ダメなの!?)


 メルロレロが目を強く瞑る。


「――――おいッ!!」


 親方様の意識がそちらに逸れた瞬間、隣の少年が勢いよく立ち上がった。威圧が緩んで、一時的に身体の自由が効いたのだ。


「言わせておけば偉そうに! 俺がボコボコにして無理矢理認めさせてやるぜエ!!?」

(この人、対戦相手!?)


 その暴言に親方様の気が逸れた。メルロレロもようやく立ち上がる。


「ねえ!」

「ああンッ!?」

「私は労基隊の夢柱、大道寺真由美。貴方もこれを使って! これじゃないとすぐに再生されちゃうの!」


 投げ渡したのは陽の光を感じる日本刀。メルロレロが『創造』の魔法で生成したものだ。


「なに、労基隊だとッ!?」

「はッ! 俺は労基隊御座柱のボーイとかいう愉快な役職らしいぜェ。この得物は趣味じゃねエがなァ!」


 怯む親方様に、二人で刀を構える。抵抗出来ないように痛めつけて認めさせる。考えは同じだ。



「全集中――――夢の呼吸!!」


「卍解――――御座牙天衝!!」



 メルロレロの星光の如き太刀筋とは対照的に、少年の刀からは膨大なエネルギーが斬撃の形で放たれる。親方様は両腕を叩き潰された。


「え。なんか違くない!?」

「はぁア!? 刀といえばこれだろうが!」


 言い合いの間に、親方様の血肉が再生する。九つの触腕が膨張し、二人に振り落ちる。


「伏せるでござる!」


 その、直前。


「九頭竜閃――――ッッ!!!!」


 平伏から解放された赤髪の侍が触腕を全滅させる。その凛々しい目つきが親方様を睨む。


「拙者、労基隊の流浪柱にて候。共に奴を討ち取るでござる」

「いや、討ち取られると困「き、さ、ま、らあああああああ!!!!」


 激昂した親方様が立ち上がる。これでも大きなダメージではないだろうが、とにかく生き汚い彼は逃げの一手を打った。


「労基隊の異常者どもは、まともに相手してられん」


 そう言うと、まるでポップコーンのように弾け飛んだ。無数に散らばる肉片、その状態でも生きていられるのだろう。


「このまま逃したら厄介よ!」

「ああンッ!? どうしようもねエだろうが!?」

「くッ! 拙者が未熟だったばかりに⋯⋯!」


 万事休す。

 そんな絶望の光景に、光が差した。



「大地を斬り、海を斬り、空を斬り――――そして、全てを斬る」


 定年越えの老爺が刀を逆手に握る。

 彼は労基隊の勇柱、この場の最後の労基戦士。


「アベンストラッシュ――――ッッ!!!!」

「ぐおおおおおおおお――――ッッ!!!?」



 肉片に分裂した親方様が切り裂かれる。


「「「やったか!?」」」


 三人の声が揃った。


「⋯⋯いえ、やってません。私が斬ったのは1800の肉片のうちのせいぜい1500程度」

「ぐ、ぐぅ⋯⋯いい感じに世代が分かれよって⋯⋯⋯⋯ッ」


 親方様が再生する。だが、その力はだいぶ削れたはずだ。労基隊の柱が四人も揃えば勝てるはずだ。

 だが。


「が、私も一人だと思うなよ。代表取締役に刃向かったこと、後悔させてやる⋯⋯ッ!」

「へエ、そこからどうする気なんだよ! ギャハハハ!」

「さあ行け! 上弦の役員たち!」


 新手。

 四人は強大な社畜力の気配に息を呑んだ。


「此方も泊まり込まねば…⋯無作法というもの⋯⋯」

「デスマーチ中、俺は皆を凄く心配したんだぜ! 大切な部下だからな誰も欠けて欲しくないんだ」

「お前も社畜おににならないか?」

「年休を取るなああああ!!」


 四人は視線を合わせる。

 そして、メルロレロとボーイは言った。


「このゲームの終着点が分からねエ⋯⋯!」

「同感だわ⋯⋯!」


――――べべん!


 琵琶の音とともに、労基隊の柱たちは分断された。

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