第4話 大 詰

   

      ( 1 )


 どれぐらい眠ったかわからない。

 ヘリの振動が、疲れていた身体に眠気を誘ったのだろう。

 もう一つ、誘うものがあった。

 それはカンナの眠り顔だった。

 じっと見ていると、ついこちらも眠りの世界に入ってしまった。

 そして眠りの深海の底に沈んでいた。

 眩しさに、そっと目を開けた。

 今までのあの騒音とは正反対の沈黙の世界が待っていた。

 ゆっくりと身体を起こす。

 白いベッド。

 すぐ隣りにもう一つベッド。

 カンナが眠っているようだ。

 枕元には、カンナから貰った「都」の劇場紋が入った瓦の箱と、深草との屋根の立ち回りで失くした、新選組から貰った刀、そして深草が見つけた GHQの宝物の仏像がきちんと並べられていた。

 それらを見てはっとしてポケットに手を突っ込む。

 あのブローチはあった。

 きっと柳子がヘリを操縦しようとした時、舞台で見つけてくれたのだろう。

 あの切羽詰まった状況でも、このように処理出来る柳子に感謝した。

 さらに鐘也の観察は続く。

 装飾を排除した白いパイプのベッドは病院を思わせた。

 でも何かが違う。

 鐘也とカンナのベッドの真上に一台のスポットライトが設置されていた。

 一条の光。

 それは、蛍光灯でも白熱球でもなく、舞台で使われる照明器具だ。

 ふと小さな異変に気付いて前方を見る。

(センタースポットライト!)

 鐘也にもカンナにもそれぞれ一台ずつ、センタースポットライトが投射されていた。

 眠ってるカンナにはゲージが抑えられていて、100%ではなく、40%ぐらいだ。

 一方鐘也には、80%ぐらいの明かりだ。

 前方は真っ暗で見えない。

 今いるところは舞台なのか?

 前方は客席なのか。

 それにしても、ざわめきが聞こえない。

 客席に、人がいない舞台なのか?

 上手にあるドアがノックされた。

 静かに、ほとりが入って来た。

「ほとりさん!」

「気が付いたようね」

「今までどこ行ってたんですか」

「ずっとあなたのそばにいました」

「嘘ばっかり」

「嘘じゃないって」

「はい、わかりました」

 ここで押し問答しても仕方ないと思った。

「柳子さんは」

「大丈夫。別室にいます」

「ここは一体何処なんですか」

「舞鶴にある米国海軍駐屯地の病院です」

「柳子さんが送ってくれたんだ」

「そうよ。二人とも長旅でヘリの中で眠っていたのよ」

 鐘也は再び前方を見た。

 決して日常では当たらない光の存在が気になった。

「ほとりさん、教えて下さい。これは芝居なんですか?それとも現実、真実なんですか」

 じっとほとりは鐘也を見つめた。

「あなたは、真実を知りたいの?」

「もちろんですよ」

「今、あなたが目にするもの、触るもの、それが真実なんです。これは夢じゃないです」

「でもあの光は何ですか?現実にはあんな光は存在しない」

「鐘也くんは一体何が云いたいの」

「このベッドもドアも全て舞台装置。ここは舞台。前方が客席。全て芝居なんでしょう」

「じゃあそう思うならどんどん前へ行って確かめたら」

 云われて、鐘也は立ち上がり、前へ進みかけて立ち止まった。

「どうしたの」

 背後にほとりの声が突き刺さる。

 これ以上前へ進んだら、また別世界へ行って、ほとりさんともカンナさんとも別れてしまう。そんな気がした。

 じっと前を見つめる。

 さっきよりも暗闇に慣れて来た。

 少し顔を上げると、センタースポットライトの光りが目に入る。

 だから視線を下げた。

 暗闇だった。

 人影は見えない。

 客席の椅子も見えない。

 でも違う世界がぽっかりと大きな穴を開けて待っている。

 それは暗闇の怪獣が大きく口を開けて獲物を狙っているそんな空想が腹の底から湧き上がる。

 光りの渦の中で、暗闇の恐怖を感じる。

 矛盾する思いが交差した。

「わからない。これが今の僕の正直な感想です」

「若者は悩んで成長するのよ」

 どこか投げやりで、でも底辺は温かいいつものほとりの助言だった。

 黙って鐘也は再び今度はカンナのベッドに戻った。

「カンナさん大丈夫なんですか」

 いつまでも見ていたい寝顔だった。

「大丈夫。今、お薬が効いていて眠っているのよ」

「そうでしたか」

 再び自分のベッドに戻る。

 今までの宝物を見つめる。

「深草さんが、何故大提灯に宝物が隠れてるとわかったか?」

 ほとりは突然質問した。

 そう云えば、そこは聞いていなかったようだ。

「彼、実家が伏見の代々続く提灯屋なのよ」

「それでかあ」

 ふと疑問が生じる。

「でも不思議ですね。あの都座の表の二つの大提灯、毎年年末の顔見世歌舞伎興行の時に、新しく新調するんでしょう。だったら、宝物の存在、その時わかるでしょう」

 口から先に疑問が出た。

「だから云ったでしょう。代々彼の店が取り替えてた。そして中の仏像も代々、新しい大提灯に収められてた」

「でも提灯の中に仏像なんておかしいから都座に連絡して取り出すでしょう」

「生粋の京都人は、そう云う無粋な事は決してしない」

「ある意味、伝統を守り続けるって事ですか」

「そう云う事。鐘也君も大分わかって来たじゃないの」

「もう一つ、疑問があります」

「何よ」

「表の大提灯、正面向かって右にありました。何で右だったんですか」

「それはね」

 ここでほとりは、言葉を区切った。

「右は、つまり西の方向。西、つまり右でないといけないの」

「左では駄目って事ですか」

「そう、仏教世界では、西方浄土って言葉があるの」

「西に極楽があるって事ですね」

「そう、だから西、右の大提灯だったの」

「有難うございます」

 ほとりは、宝物を一つずつ手に取る。

「あなた、宝物は揃ったけど、あと大事な事忘れてるでしょう」

「僕の姉探しですね」

「よく覚えてましたね」

「忘れませんよ」

「どう手掛かりは見つけたの」

「それがからっきし駄目でした」

「鐘也君」

 じろっとほとりは見た。

「何ですか」

「まだ気づかないの」

「何がですか」

「もうあなたは、姉を見つけてるわよ」

 そう云って、ベッドの下から二丁の義太夫三味線を取り出した。

 さらにバチも渡された。

 一つは、鐘也が愛用していたもの。もう一つはほとりが持った。

「さあ、持って!」

 命令に近いものだった。

「これであなたが勝ったら、全てお話しましょう。では皆さんお願いします」

 ほとりは、上手下手袖にいた裏方に声を掛けた。

 裏方は上手下手合わせてざっと20名弱いてた。

 ベッドをそれぞれ上手下手に運ぶ者。

 後ろのパネル、ドアを片付ける者。

 そして鐘也、ほとり両名に素早くワイヤーを取り付ける者。

 その頃になると舞台の照明が急速に暗転になった。

 上手下手フロント室からそれぞれ、鐘也、ほとりにセンタースポットライトが投射された。

 このサイドフォローの明かりは、それぞれの顔だけの狙ったもので、つまり、ワイヤーつける様子を隠すものだった。

 ワイヤーは、三本あり二本は、鐘也、ほとりのそれぞれの身体につけられて、後の一本は義太夫三味線に取り付けられた。

 ワイヤーを取り付けた黒子は、セット完了の意味で肩をポンポンと叩いた。

 下手簾内から、

「ドンドン」

 と大太鼓が鳴り響く。

 それが合図だったようだ。

 二人の身体はふわっと宙に浮いた。

「あああ!」

 思わぬ展開に鐘也は戸惑った。

 宙に浮くと同時に三階席後方のセンタースポットライトもそれぞれ、当たった。

 つまり、一人二台ずつの光りの放射を浴びた。

「ほとりさん、これ一体何の真似、余興なんですか!」

 ほとりは答えず、鐘也に劣らないバチさばきで義太夫三味線を奏でた。

 場内から拍手の嵐が巻き起こる。

「ほとりさん、やっぱり芝居だったんですね」

 ほとりは、なおも答えず義太夫三味線を弾き続ける。

 鐘也の義太夫三味線とは少し違う、どこか哀愁を帯びたものだった。

 拍手の大波が、場内から舞台へとくまなく打ち寄せる。


  創作浄瑠璃「ほとり呟芝居小屋噺」 作 鳴滝ほとり

 白化粧して      迎えるお客様

 芝居小屋       案内致します

 今日も来ました    お客様

 今回の客は      私にとって特別なお方

 正体知れぬよう    念入り白化粧致します

 何が何でも勇気    持って貰うように


 今まで鐘也も、この都座で自身の創作浄瑠璃を披露したが、こうして、聴きに回る状況はもちろん初めてだった。

 創作浄瑠璃対決だった。

(よし負けられぬ)

 鐘也の闘志に炎が静かに灯された。


 創作浄瑠璃「ほとり劇場案内正体」

 ほとりさん     色々お世話になりました

 祖母の命を受けて  参りし都座

 嘘か誠か      動乱の移ろい

 あれは夢幻か    頬つねりし我が顔に

 眼前広がる     景色の数々

 本当に色々な出来事 走馬灯の如し

 新選組の立ち回り  スノコからの助け糸

 セッション楽しや  歌舞練場

 GHQ許しを得て  秘密の道行けば

 命の引継ぎ     赤いブローチ

 植物園将校ハウス  雷鳴騒ぎ

 こまち車の     都疾走騒ぎ

 闘争前夜の     熱き浄瑠璃

 全劇連の石つぶて  未来へ投げし

 劇場紋の家宝の石  祈願込めし投石す

 奇跡の虹渡りし   カンナとの音色比べ

 都座舞い落ちる   大きな鳥は

 ヘリコプター    爆音かき消す命

 梵天大提灯     二つの対峙

 大屋根での     雨中の対決

 摑まりし      大空舞う巨大鳥

 何が真実か     何が芝居か

 わからぬわからぬ  胸の内

 たった一つの    事がわかりしか

 それは誰にも    こころの奥底で

 灯されし      事象の認知と継承

 さあこれからも   引き続きお願いいたします

 それそれそれ    やれやれやれや

それそれそれ    やれやれやれや


 鐘也は義太夫三味線を弾き、歌いながら今までの都座バックステージツアーを思い返していた。

 それにしても不思議な感覚だった。

 今、場内に響く、自分が作った創作浄瑠璃なのに、まるであたかも前に覚えたものを口にしている、妙な感覚だった。

 何故か涙が溢れていた。

 鐘也は自分の涙で、バチ、義太夫三味線の皮が濡れ始めた。

 場内はいつからだろうか。

 浄瑠璃に対して手拍子が起こっていた。

 今まで色々な所で、創作浄瑠璃を披露してたけど、これほどの多人数での一斉の手拍子は全く経験した事なかった。

 最初は、自分のリズムと手拍子が合わず、苦労したがその内、手拍子が義太夫三味線のバックグランドミュージックになっていった。

 負けじとほとりの方もさらにヒートアップした。


 創作浄瑠璃「如何場内表裏案内噺」作 鳴滝ほとり

 如何でしたか  鐘也さん

 上手く宝物   手に入れし

 祖母の願い   大願成就

 おめでとう   ございます

 後に残りしは  姉探しです

 あなたの姉は  ずっとずっと

あなたをそばで 見ていました

 その答えを云う 前に、今宵は

  踊りましょう  歌いましょう

  さあさあさあ  さあさあさあ


 ほとりが「さあさあさあ」と云うと、場内から続いて同じフレーズが続く。

 いつの間にか、場内は総立ちとなった。

 最早義太夫三味線会と云うより、コンサートに近かった。

 宙乗りは縦方向だけではなく、グルグル場内を周り、一階席から三階席、さらに奥の天井桟敷まで二つのワイヤーが入り乱れて交差した。

 よくも絡まないものだと思った。


 創作浄瑠璃「姉探し結末」

 姉さん探して   来ました都座へ

 姉さん今どこに  いますか

 姉の名前は    常盤走流と申します

 皆さん      知りませんか

 返事して下さい  祈りし社へ

 芝居の神様    教えて下さい

 姉は今どこで   何をしているの

 元気にしてますか どこですか

 返事してますか  答えて下さい

 

 創作浄瑠璃「元気です姉の言葉」作 鳴滝ほとり

 焦らずお聞きなさい 弟よ

 私はずっとずっと  あなたのおそばにいました

 ただ、あなたが   気づかない

 可笑しいくらい   気づかない

 今正体現わす前に  ほれほれ

 お世話になった   方々にご挨拶

 さあ皆さん     大変お待たせしました。


 場内を宙乗りで、旋回した。

 最初、鐘也の背中で漂っていた、炎集団が四方八方へ散り始める。

 都座の大天井をふわふわ浮かぶもの、客席すれすれまで降りて、漂うもの、破風付近で止まるもの様々な形態で浮かんでいた。

 客の中には、おどけて炎を口の中に入れるものもいた。

 全然熱く感じない。むしろ呑み込んでうっとりとしているのだ。

 美味の料理をじっくりと味わうかのように、目を閉じてゆっくりと咀嚼していた。

 歌い終わると、大観衆の中、再び二人は舞台に戻った。

 鐘也は、ほとりに手を引かれて、客席に降りた。


      ( 2 )


 客席前から三列目の真ん中の席、すでに空いていた。

 二人はそこに座った。

「お疲れ様でした」

ほとりが声をかけた。

「お疲れ様です」

「どうだった、本邦初の宙乗り義太夫三味線ライブは」

「何だか皆さんの熱気と情熱で全然怖くなかったです」

 これが正直な感想だった。

 これが全く無観客で、静まり返っていたら、下の方が気になって恐怖心が出ただろう。

 さらに四方八方からのライトの光りのせいで、よく下が見えなかった。

 下が見えないと云う事は、今いる位置との落差の認識がないから、自ずから恐怖心は消えるのだ。

 落差を知るから怖いのである。

「ほとりさん、答えを教えて下さい」

「答え?ああ、その前に次の項目行っていいですかね」

「次は何ですか?」

「もちろん、フィナーレよ」

 ほとりは、片手をすっと伸ばして、指をパチンと鳴らした。

 舞台中央後ろに大きなバックで、淵がLED電飾で飾られたものが静かに降りて来た。

 上手下手の斜め御簾前の、今まで黒のパネルも取り払われて、中から色鮮やかなパネルが顔を見せた。

 地面を覆っていた黒の地面布も、左右から大道具係が一気に払いのけた。

 上手下手から江戸時代の衣装、かつらの町人が出て来た。

 同時にチャリンと音がして花道からは、刀を差した新選組の連中が出て来た。

 舞台に一列に並ぶと町人たちは、客席に向かって何やら投げていた。

 見ていた鐘也にも飛んで来た。

「大入り」袋だった。

赤地に白抜き勘亭流文字で

「都座バックステージツアー様」と書かれていた。

 客席通路のあちこちで、お茶子、男衆たちも出て来て、ポチ袋を配っていた。

 次に新選組が前へ出る。

 一斉に刀を抜き、二人一組で、立ち回りを始めて、やられて倒れる人、その上でガッツポーズ取る者もいた。

 中央を開ける。

 舞台奥から鐘也と立ち回りを演じた岩倉藤太、木野桜太の二人が出て来た。

 中央で一礼。

 客席で見ていた鐘也と目が合った。

 二人は一斉に刀を抜き、上段に構えた。

 思わず、鐘也は身構えた。

 その途端、二人は笑っていた。

 江戸時代連中が下がる。

 引き続き、花道から GHQ組が出て来る。

 2列に並んでいるが、思い思いの歩調なので、一糸乱れずの行進ではなかった。

 この辺が、日本でなくて米国らしい。

 舞台奥からも上手下手からも続々と出て来た。

 舞台中央の小さなセリが上がって来た。

 ドラムセットが組まれていた。

 トランペット、ギターなどもあった。

 都座の「秘密通路」を通って行った、祇園甲部歌舞練場でのジャズセッション組だった。

 早速ジャズが演奏されて、カップルが踊り出した。

 舞台奥のパネルが入れ替わる。

 京都植物園が描かれたバック絵が登場。

 そこに舞台奥から、将校ハウス連中とそれに反対していた民衆が、今度は手を繋いで出て来た。

 もう舞台はお祭り騒ぎだった。

 米国兵士に、刀を差し出して何やら講釈始める新選組隊士もいた。

 ブルトーザーが上手下手から出て来た。

 パケットが持ち上がり、舞台前へくるんと回転した。

 上手の中から茶山咲太郎が出て来た。

 思わず鐘也は、手を振った。

「元気ですか!」

 鐘也は大声で叫んだ。

「ああ元気だとも!」

 大歓声と音楽で、全然声が聞こえなかったが、口の開き具合で、そう読み取れた。

 茶山が下手のブルトーザーに手をやる。

 バケットがくるっと回転して中央を向いた。

 中からカンナの花束が出て来た。

 参列者がカンナの花を客席に向かって投げていた。

 同時に客席通路では案内係が、観客にカンナを配っていた。

 鐘也の所にも来た。

 黄色鮮やかなものだった。

 あまりにも鮮やかなので、ほとりに云おうとしたら、ほとりの姿はなかった。

「あれ?」

 ほとりはいなかった。

 フィナーレはまだまだ続く。

 参列者が、さあーと上手下手に別れた。

 大ぜりがせり上がる。

 都座の大屋根のセットが乗っていた。

 そこには、全劇連のヘルメット学生が顔を出した。

 右手に都座の瓦片。左手にゲバ棒。口元は手ぬぐいで覆っていた。

 同時に花道から機動隊員が盾とこん棒を持ち駆け足で出て来た。

 大ぜりの前に宝塚歌劇で見られる大階段が設置された。

 舞台奥、中央からカンナが顔を見せた。

 一度立ち止まり右手に持つ「都」劇場紋の瓦片をポーズとって見せた。

 全劇連の連中は口笛鳴らした。

 機動隊員は同時に盾を上下に振って、国家権力をアピールした。

 かんなは、上手下手交互に手招きした。

 上手から深草、下手からこまちが笑いながら出て来た。

 三人がゆっくりと階段を下りる。

 階段のそばでは、全劇連と機動隊員らが、ごちゃまぜになって迎い入れていた。

 さらに進駐軍兵士も加わるから余計に混沌としていた。

 最早綺麗に正面に向かって立つ人間はいなかった。

 テンポ良い音楽が一転して、重厚なものになる。

 ムービングライト20台が一斉に回転して、客席にまでサーチライトのように、あちこち自在に回転しながら、照らしていた。

 上手下手、さらに舞台上部から舞台演出で使われるロスコ煙が充満していた。

 その煙は、ムービングライトの光線のタッチを際立たせた。

 バリバリと爆音が鳴り響く。

 全員上を見た。

 どう云う仕掛けなのか、ヘリコプターが舞い降りて来た。

 舞台装置ではなくて、本物である。

 さらに舞台上部、破風のあちこちからアメリカ海兵隊の連中が顔を出して、ロープを下に投げると降下開始した。

 その数20名。

 その間にヘリコプターの機体の姿がどんどん顔を見せた。

 ヘリのローターの回転で、衣装も装置も吹き飛ばされそうになる。

 爆風は客席にまで及んだ。

 鐘也も手で顔を隠した。

 兵士の三人かがヘリのドア近くまで行く。

 ゆっくりとドアが開く。

 中から柳子が顔を見せた。

「柳子さん!」

 思わず鐘也は絶叫した。

 柳子は舞台中央まで来て、鐘也に一礼した。

「鐘也さん、舞台にどうぞ!」

 舞台にいる連中、客席の人達全員が鐘也を見て、拍手した。

 ゆっくりと立ち上がり、舞台に上がった。

 二人は向かい合って、きつく握手した。

「お疲れ様。よく頑張ったわね」

「柳子さん、有難う」

 何だか周りの連中を見ていると、また熱いものがこみ上げて来た。

 これが芝居とか事実とかもうどうでもよくなっていた。

 芝居なら、ここまで大勢で自分一人のために細部にまで作り込まれている事に感心、感動した。

 こんな大掛かりな事なら相当の稽古、リハーサル、照明、大道具などの裏方だけのテクニカルリハーサル(テクリハ)が行われたはずだ。

 そして事実なら、こんな稀有な体験はほかに例えようがなかった。

 いつの間にか、大階段の屋根セットが取り払われていた。

 そこに全劇連の連中、機動隊員、 GHQ兵士がごちゃ混ぜに正座していた。

 正座が苦手な GHQ兵士は胡坐組んでいた。

「今の感想を一言」

 柳子は自分の拳をマイクに見立てて、鐘也の口元に寄せた。

「感無量です」

「べたな感想を有難う」

 舞台と客席がわっと沸いた。

「やっぱり、鐘也くんは、喋りよりあれがいいのかなあ」

「あれって?」

「もちろんあれよ」

 裏方がすっと寄って来た。

 義太夫三味線とバチを渡した。

 と同時に大階段の全劇連の連中も義太夫三味線を取り出した。

 さらには、機動隊員、 GHQ兵士も鼓、太鼓、ギターなどの楽器を用意した。

「今のこころの内を、創作浄瑠璃で表してよ」

「今ですか?」

「今でしょ!」

 即座に柳子が云い返したので、場内に爆笑があちこで生まれた。

「ですよね。皆さん!」

 場内から拍手が沸き起こる。

「待ってました!」

 都座での「待ってました」の大向こうを聞くのは、本当に気持ちよかった。

 これが役者の気分、心持ちなのかと思った。

「わかりました」

 鐘也はそう云うと、まず義太夫三味線の調律をし始めた。

「あら、いつになく丁寧!凄い!」

 柳子が答えた。

「やはりフィナーレですからね」

「じゃあ今までのは、適当だったの」

「そんな事ないです」

「冗談よ」

 あまりにも真剣に鐘也が反応したので柳子は驚いた。

「どの場面も真剣でしたよ」

 鐘也は、大階段で居並ぶ連中に顔を向けた。

「よろしくお願いします」

 一礼した。

 大階段組も頭を下げた。


 創作浄瑠璃「繋ぐ歴史糸都座人々」     

 色々な事があった  バックステージツアー

 初めての立ち回り  殺陣の凄さ新選組

 スノコの恋の語らい 裏方の恋

 GHQとの闘い   秘密の扉開けて

 三線で参戦しは   祇園甲部歌舞練場

 義太夫三味線    音色は愛の色模様

 初めて見たよ    浄瑠璃BGMで恋ダンス

 初めて演奏した   ジャズとのコラボ

 音楽に分け隔てなし 人と人も隔てなく

 植物園での     カンナの命

 はかない命     貴重な人の命

 語り継ぐ任務    命の尊さよ

 涙流して剥がす   都座瓦よ

 祈念して投げし   劇場紋瓦

 虹の放水      奇跡の虹演奏

 都大路の      カーチェイス

 ヘリの爆音     都座大屋根揺るがす

 都人の驚き     幾万となりけり

 大屋根の立ち回り  大提灯ぬけ

 ヘリ追いかけて   大屋根伝う

 色々ありました   バックステージツアー

 皆さん有難う    有難う有難う

 いついつまでも   お元気で

 宝物持ちて     帰ります

 また逢いましょう  夢の都座で

 また語らいましょう 希望の都座で


 曲の後半から舞台、客席にひらひらと紙吹雪が舞い始めた。

 もちろん、これはスノコ担当の西院つよしである。

 鐘也の足元を円形で取り囲む炎。

 今回はゆっくりと規則正しく左右に揺れていた。

 まるで生きているようで、リズムを取っていた。

 鐘也の目の中の炎も今回は、激しさよりも、穏やかなゆらめきだった。

 金髪になった怒髪天の髪型も、少し硬さが取れて、揺らぎ出した。

 鐘也は手のひらで紙吹雪を捉えた。

 それはただの紙吹雪ではなかった。

 紙を小さな正方形であるが、七色であった。

 文字が書かれていた。


「バックステージツアーのお客様へ

 都座及びその周辺での体験する出来事は全て事実です」


    ( 3 )


 さっきまでのフィナーレの嵐から一転して、今は静寂の世界が取り巻いていた。

 舞台の明かりもムービングライトのシャッフル光線から、所々ついている作業灯に切り替わっていた。

 終演後、大道具・照明・音響などの搬出が終わり、裏方も大半は帰った。

 劇場は、目覚めから、再び眠りにつこうとしていた。

 その眠りを見届けるかのように、鐘也とほとりは誰もいなくなった客席に座っていた。

「本当にお疲れ様」

 ほとりが、型通りの挨拶を鐘也に行った。

「有難うございます」

 徐々にクールダウンして行く電子機器に比べると、鐘也の身体はまだ燃え盛っていた。

「日常の普通の世界への切り替えが難しいのよねえ」

 まるで鐘也のこころの中を代弁するかの様な、ほとりの口ぶりだった。

「家に帰ったら、これでも読んでみる?」

 ほとりは、鐘也の膝の上に両手でそっと一冊の台本を置いた。

「常盤鐘也人生台本」 作・主演 常盤鐘也  と書かれていた。 


「何ですか、これは」

「今までずっと、あなたが疑問に思っていた事への全ての答えが書いてある、台本です」

 付箋が挟まっていた。

試しにそこを開いてみた。

さっき、フィナーレで歌った創作浄瑠璃の唄も載っていた。

(いや、待てよ。あれは、自分の頭の中で、あの瞬間思い浮かんだ言葉だから、こうして印刷されて、台本になっているのがおかしい)

「でもおかしくないのよ」

 まるで鐘也のこころの中を見たように、ほとりは即答した。

「どうしてですか?やっぱり可笑しいでしょう。いや、怖いです」

「もっと怖がらせてあげようか」

 不敵な笑みを浮かべたほとりだった。

「つまり、あなたが思って口にした事も、全て神様がおつくりになったものなの」

「そんなバカな!」

「いいえ(人生台本通り)なのよ。これから先、どんな人生送るか、全部書いてあるから」

「未来の自分の行動、事件も書いてあると」

「そうです。試しにページめくってみなさい」

 付箋の先の次のページをめくりかけて手が止まった。

「やっぱりやめときます」

「怖気づいたの」

「じゃなくて、やっぱり自分の人生は自分で切り開くもんでしょう」

「べたなお答え、有難う」

「べたでも、下手でも僕の人生哲学はそうなんです。ほとりさんはどうなんですか。人生台本持ってるんですか」

「持ってたけど捨てた」

「ほら、やっぱり怖かったんでしょう」

 今まで意気消沈していた、鐘也は久し振りに攻めに転じた。

「じゃなくて、いちいち自分の運命がわかったとしても、それはそれで毎日つまらないでしょう。その通りにしないと逆にがんじがらめになる自分がいやになったの。わかるかな」

「例えば、どんなですか」

「簡単な話があるのよ。映画なんか全く見たくない気分なのに、台本では今日は映画を見に行くと書いてあって、いやいや、出かける自分にいやになったの」

「確かにそうですね」

 明日はどうなるか、わからないから毎日過ごせるわけで、わかってしまえば、本当につまらない生活だろう。

「そろそろ行きましょうか」


 二人は都座を後にして、京都御所病院に向かった。

 蘭世の病室へ行ったが、蘭世は治療中でいなかった。

 ベッドに宝物を置き、ソファに座った。

 二人ともフィナーレ疲れか、病院では沈黙を貫く。

 何もしないで、時の流れを待つのは苦行に等しい。

 何度もスマホを開いては、時間の経過を知る。

 五分がこんなにも長く感じたのは初めてだった。

 やがて、ベッドに祖母蘭世が戻った。

「残念ながら、今夜がやまのようです」

 医者は、言葉を振り絞った。

「何か急変したら、コールボタン押して下さい」

 看護師は、淡々としていた。

 一般人にとって、「死」は非日常だったが、病院内ではそれは「日常」なので、落ち着いていられるのだ。

 スライド式ドアが静かに閉まる。

「僕がいけなかったんだ」

 突然の告白にほとりはきょとんとした。

「どうしたの、急に」

「祖母は、あの時ここで僕に云ったんだ。必ず三日で戻って来てねと。出来なかったんだ」

 時空の旅をしていると、通常の時間感覚がはがれる。

 と云うのは、同じ日を時代をまたぐ場合がある。

 だから、何日かは、次第に意識から遠ざかる。

 その事を、ほとりは鐘也に云った。

「全然意識の片隅になかった。特に後半はね」

「でもこうして、無事に宝物持って帰れたんだから、上出来です」

 枕元に置かれた、新選組献上の刀、 GHQが隠した仏像、カンナから貰い受けた「都」劇場紋入りの瓦セットをほとりは見ながら云った。

「でもそれも徒労に終わった」

「まだ終わってないわ。鐘也くんには、まだ残された最後の使命があるでしょう」

「何ですか」

「さあ、出番ですよ」

 背中に背負った、義太夫三味線をポンと静かに叩いた。

「ああ、これですね」

 これが最後の義太夫三味線で弾く、創作浄瑠璃だと思った。

 蘭世の病室に、義太夫三味線特有の低い、腹にずしんと広がる音が、静かにひたひたと沁み込み始めた。


 創作浄瑠璃「愛誓い祖母約束宝物献上」

 祖母の命受けて  都座行かん

 ガイドほとりの  応援受けて

 都座場所     様々歩く

 今戻りし     宝物携えて

 今気づく     三日の約束

 後悔遅し     時間の漏れ

 姉探しも     中途半端

 姉さん見てますか この僕と

 一緒に祈って   くれますか

 祖母の命     助けてくれますか

 祖母の希望    一緒にやりましょう

 暗い夜に     光りを見せて下さい

 暗い世界に    光りを見せて下さい

 世間の人達は   きっと云うだろう

寿命だったんだよ 諦めなさいと

しかし僕は    決して諦めない

例え人生台本に  書かれていたとしても

台本に訂正補綴は よくあるでしょう

だから祖母の命  続く訂正お願いします

姉さん一緒に   祈ろうよ


光背も目の中の炎も青白く頼り投げなものとなった。

 鐘也の唄う創作浄瑠璃には、言霊がついているようだった。

 それを聞く人々のこころの魂を蘇らせて、感情の渦の嵐の中に投げ込まれるほどの高ぶりを与えた。

 その証拠にそばで聞くほとりは、涙を流す。

 涙は止まらない。

 どんどん、涙の洪水は目から顔を縦断する。

 それをぬぐおうとしなかったので、白塗りの顔の化粧は瞬く間に剥がれ落ちた。

 そして素顔が見えた。

「ほとりさんは・・・姉さんだったの」

 ぽつりと鐘也は呟いた。

「だからずっと云ってたじゃないの、そばにいてるって」

「ほとりさんの気休めだと思ってました」

「もう、鈍い子ねえ」

 ほとりこと、走流は答えた。

「姉さん、何で名前変えて、白塗りして都座にいてたんですか」

「それより、ほらっこっちが先でしょう!」

 ほとりは祖母を指でさした。

 見ると祖母、蘭世はゆっくりと目を開けてじっと鐘也を見ていた。

「おばあちゃん!」

「お帰り、鐘也」

 今すぐに色々話したかったが、すぐにコールボタンを押して医者を呼んだ。

「これは奇跡だ!信じられない!何があったんですか」

 飛んで来た医者は絶叫した。

「一体何があったんですか」

 鐘也は正直に、義太夫三味線での創作浄瑠璃の事を告白した。

「義太夫三味線ですか。ひょっとしたら、その義太夫三味線の音の響きが細胞を活性化させたかもしれない」

「嬉しいです」

「今度機会があったら、ぜひ聞いてみたい。病院義太夫三味線コンサートやって下さいよ」

 大絶賛の医者だった。

 三人が気軽に話せたのは、翌日の午後だった。

「鐘也や。本当によくやってくれました」

 改めて蘭世はベッドで上半身身体を上げて云った。

 それから蘭世とほとりこと走流が交互に今回の顛末を話してくれた。


 蘭世は、ほとりと事前に打ち合わせしていた。

「鐘也人生台本」は本当にある事

 バックステージツアーで起きた事は作り事ではない


 鐘也にとって最大の衝撃の事実は、

 バックステージツアー中、出会った出町柳子は、実は、蘭世の若かりし頃の姿で、それをほとりが演じていた  と云うものだった。


「ちょっと待って下さい!」

 畳みかけるように話す二人に、待ったをかけた。

「つまり、ほとりさん=走流姉さんで、ほとりさんは、柳子さん役もやってた。一人二役をやってたって事ですね」

 ゆっくりと一語一句、確認するように話した。

「そうです。鐘也、ちょっと振り返ってご覧よ。柳子さんが登場する時、必ず私、つまりほとりはいなかったでしょう」

「云われて見ればそうだ」

 鐘也の脳裏にフラッシュバック映像が雪崩れ込む。

 GHQ幹部との折衝、祇園甲部歌舞練場でのセッション、京都植物園、都座にヘリコプターが着陸して柳子が出て来た時、フィナーレで柳子が出て来た時、必ずほとりはいなかった。

「ああ!あの時だ!」

 一瞬の出来事を思い出した。

「柳子さんの軍服に白いものがついてましたね。あの時柳子さんは、将校ハウスのペンキだと。でも本当は、ペンキじゃなくて白化粧だったんだ!」

「今頃気づいても、遅い!」

 ほとりと蘭世は笑った。

「もう一つ、あなたに云っておきたい事があるの」

 ほとりは蘭世と顔を見合わせた。

 蘭世は無言でうなづく。

「今回のバックステージツアーは単なるツアーではなくて、芝居の神様検定試験でもあったわけよ」

「いきなり何を云い出すんですか」

「いえ、これも人生台本通り。て云うか、まだ気づかないの」

「何をですか」

「これらの宝物を見てよ、どこかで見たでしょう」

「僕がですか」

「そう。バックステージツアーする前に」

「前に?前世ですか?」

「そうじゃなくて」

 ほとりは半笑いした。

「チケット!お婆ちゃんからこの病室で都座のバックステージツアーの招待券貰ったんでしょう。それ見てよね」

 慌てて、鐘也はポケットをまさぐった。

 皺くちゃになったチケットが出て来た。

「あっこれだ」

 仏像が刀を持って立っていた。

 足元には瓦の破片の数々

 それらは、今、枕元にあるものだ。

「つまり、これらは全て神様が持つべきもの」

「あなたは、これから都座の劇場の神様です」

「僕が神様?冗談やめて下さいよ。僕に務まるわけないです」

「いいえ、出来ます」

「お婆ちゃん、姉さん、僕は普通の人間です。人間が神様なんて出来るわけないです」

「あなた、まだ自分の特殊能力に気づいてないの」

「何がですか」

「義太夫三味線です」とほとりが云う。

「創作浄瑠璃です」と蘭世がつぶやく。

「あなたが奏でる義太夫三味線は、通常の人が弾くものでななくて、人々のこころの平安を呼び込むものなの」

 云われて見て、鐘也は今回のバックステージツアーでの義太夫三味線、創作浄瑠璃でのシーンを振り返ってみた。

 確かにそうだった。

 あの機動隊との対決シーンで、カンナと虹の上で演奏した。

 あれが最もたる事実だ。

 普通ならあり得ないシーンだ。

「全部そうだったのか」

 自分に云うようにつぶやいた。

「決定打は、昨日この病室でお婆ちゃんに弾いて聞かせてあげて、蘇らせたでしょう」

「そう。黄泉の国から蘇りました。孫のおかげです」

「これで少しはわかった?」

「ああ、わかった。で、この宝物はどうするんですか」

 視線を枕元に戻した。

「これはあなたが持ってなさい。そして次の神様が決まったら、それを引き継ぐの」

「えっ?ずっとじゃないの」

「それ自惚れ過ぎ!契約神様。云っとくけど、毎日都座に行かなくてもいいからね」

「そうなんですか」

「毎月、8日は月参りで、都座の屋上の社で祝詞があがるの。それには参加。あと12月の顔見世歌舞伎興行の時は、初日、中日、楽日も参加。あと宙乗りをやるお芝居の時は、舞台で修祓式やるの。その時も参加」

「それなら、東京で働きながら出来るなあ」

「鐘也、もう東京引き払って、京都に戻って来なよ」

「そうだな、その選択枝もあるなあ」

「契約で都座の神様やってますと云ったら、どこの会社もOK出るよ」

「でも誰も信用しないでしょう」

「あっ京都の懐の深さ、お前にはわかってない」

 ひとしきり喋ったほとりは、今度は真顔で蘭世に云った。

「お婆ちゃん。今日ねえ、もう一人ゲスト用意しているの」

「誰なん?」

「きっと喜んで貰える人。ではどうぞお入り下さい」

 引き戸が静かに引かれる。

 イチジョージが顔を見せた。

「イチジョージ!」

 蘭世が目を見張る。

「イチジョージさん!」

 あのバックステージツアーで見たイチジョージは若かったが、今目の前のイチジョージは年老いた姿だった。

 その気配に気づいたイチジョージはこう云った。

「バックステージツアーでは特殊メイクで若作りしていたんだ」

 蘭世こと、柳子はイチジョージの戦争花嫁にはならなかった。

 逆にイチジョージはあれから、ずっと京都に住んでいた。

 しかし、最近、と云ってもここ30年は蘭世と音信不通だった。

 この連絡先を見つけるために、ほとりは、都座に乗り込んだそうだ。

 イチジョージの事だから、きっと懐かしさ求めて、バックステージツアーに来るだろうと。

 その読みは当たり、連絡が取れた。

「ああ、もう益々わからなくなって来た!」

 鐘也は頭をかきむしった。

「どうしたの?」

「一体何処からどこまでが芝居で、何処から真実なんだ」

「それならお安い御用。芝居の神様に聞いてみれば」

 ほとりの一言に一同は大笑いした。

「いやその、その芝居の神様、今僕なんですけど」

 ぼそっと鐘也はつぶやいた。

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