第5話 エピローグ

  

 澄み切った爽やかな秋の空が広がっていた。

 京都市内中心部は、高層ビルも高速道路もないので、下から見上げる空は、大きい。

 都座では毎月8日が、月次祭で、八坂神社から宮司が来て、屋上の社で祝詞を上げる。

「興行の大入りと役者、従業員、裏方一同の安全を祈願する。

 宙乗りを扱う芝居などの時は、これと別に舞台で修祓式が行われる。

 月次祭でも10月は特に、「大祭」と呼ばれて、少し大掛かりになり。

 いつもは宮司一人だが、この時は二人来る。

 供物も、茄子、胡瓜、人参、昆布などのいつもの物に、大きな鯛が備えられる。

 祝詞、関係者の玉櫛奉納が済む。

 澄み切った青空を見ながら宮司は、

「えらい今度の神さんは、若いイケメンどすなあ」

 と云った。

「宮司様。そんな事がわかるんですか」

 華代は驚いた。

「もちろん。代替わりしはりました。今までで一番お若い神様どすなあ」

「へえ、見えるんですか」

「もちろん、私には見えます」

「ど。どこにおられるんですか」

 辺りをキョロキョロ見渡す、華代だった。

「そらあ、都座の神様さかい、劇場内にいてはりますなあ」

 宮司が去ろうとした。

「これ、この間、尋ねてはったもんです。どうぞ収め下さい」

 華代は、半紙に包まれたものを渡した。

「どこで、手に入りましたか?」

「色々劇場関係者に聞いて回って、八幡寿司の大将の八幡さんが何故か持ってました」

「有難うございます」

 宮司は、その場で半紙を広げた。

 中から、都座の瓦の破片が出て来た。

 丸に都の劇場紋が入ったものだ。

「これでよかったんですね」

「もちろん、有り難うございます」

 宮司はゆっくりと立ち去ろうとした。

「深草宮司様、来月もよろしくお願いします」

「はい」

 深草はにっこりとほほ笑んだ。


 一方、都座の新しい神様、こと鐘也はこの時、本当に劇場内にいた。

 場所は地下のボイラー室。

 ここで新しい梵天2本作り始めた。

 本来、梵天は十一月から毎年作り始めるが、今年初めてなので、一か月早く取り掛かる事にした。

 竹の先に、長方形の和紙をくるっと円錐形に形作ってどんどん押し込んで行く。

 その作業の繰り返し。5000枚。

 気が遠くなる作業の繰り返しだった。

「そんな大きな円錐形だと、すぐにいっぱいになって入らなくなるわよ」

「はい、わかりました走流姉さん」

「職場では、その走流姉さんはやめてくれるかな」

「はい、ほとりさん」

 指導していたのは、ほとりこと、走流だった。

 自分の目の前の梵天を見ながら、つい先日のバックステージツアーでの、梵天が引き抜かれて、その場所に、カンナ、こまちの二人が人柱として立っていたのを思い出した。

「朝から頑張ってはる」

 聞きなれた京ことばが耳に入る。

 振り返るとカンナが立っていた。

「カンナさん、お早うございます」

「作業続けて下さい。これいつものお昼のお弁当です」

 そう云ってカンナは、風呂敷に包まれたお弁当を置いた。

「いつも有難うございます」

 カンナも鐘也もほほ笑んだ。

「新米神様も大変ですね」

 少し茶化した。

「神様なのに、こんなに手荒な扱い受けるなんてなあ」

「はい、口動かしていいから、手は止めない」

 すぐにほとりの突っ込みが入る。

「ほらね。カンナさんは仕事慣れて来たの」

「はい。日々新しいお客様を迎えて頑張ってます」

 カンナは、都座の案内係として新しい出発を迎えていた。

「それはよかった」

 心底そう思う鐘也だった。

「ちょっと二人とも、今日仕事終わったら、つきあって欲しい所あるの。いいかな」

「ええ、私はいいですけど」

「僕もですけど。どこ行くんですか」

「まあついて来なさい」

 笑顔でほとりは答えた。

 ほとりが、連れて行ったのは、祇園、花見小路から一本東のわき道に入った奥の民家だった。

 普通の町家で、店の陳列ケースも看板もない。

 こんな場所に店があるなんて、絶対わからない場所だった。

 表札には「一乗寺」と書かれていた。

 格子戸開くと細長い庭が飛び込んで来た。

 Sの字の石畳を歩き、二つ目の格子戸を開く。

 玄関で靴を脱ぎ、廊下を突き進む。

 戸をスライドさせると、カウンターとテーブルが出て来た。

 カウンターの奥に小さな坪庭が見えた。

 大きな石の壺があり、楓の樹木が植えられていた。

 まだ葉っぱは緑色だったが根元にほんのり、エビ茶色が生まれていた。

 こんな所にも、小さな秋が顔を出していた。

 樹木、植物、花で人は季節の変わり目を知る。

 四季のある日本だからこその気配りとも云えた。

「いらっしゃい」

 カウンターの中から威勢の良い声が聞こえた来た。

「イチジョージさん!」

鐘也が驚く。

あのバックステージツアーで出会った GHQ所属のイチジョージではなくて、老いた姿であった。

でもあの人なっつ来い笑顔は健在だった。

「イチジョージ・・・ああ、それで一乗寺かあ」

 感心したようにカンナが笑う。

 カウンターの奥に蘭世がすでに座っていた。

「お婆ちゃん、大丈夫なんですか」

「病あがりなんでしょう」

「もう年寄り、病人扱いしないでくれるかな」

「でもそうなんだから」

 こうして五人が揃った。

 イチジョージは、皆の前にアルコールではなく、コーヒーを出した。

 カップではなくて、紙カップだった。

「これ、見覚えあるでしょう」

 紙カップ持ち上げてほとりが云った。

「ああ、懐かしいなあ。ほとりさんと都座の売店で飲みましたね」

「正解」

「あの後、いきなり GHQ時代へのタイムスリップでした」

「ちょっと待ってよ。いきなりはないでしょう。ちゃんと予告してたのよ」

「何で」

「だから、このコーヒーカップで」

 全くほとりの云ってる事が理解出来ない鐘也だった。

「ここですよ」

 イチジョージが、紙カップに書かれている英文字を指でさした。


GOD HOPE QUEEN


「ゴッド、ホープ、クイーン」

 一文字ずつ声を出して読んだ。

「ん?」

 はっと気づいた。

「何だ!そうかあ!」

「気づいた?」

「はい。それぞれの英文字の頭文字繋げると、 GHQです!」

「はい、大正解です」

「何だそうかあ」

 もう一度鐘也は唸った。

「あと、もう一つあるの。例の GHQが隠してた仏像の事」

「深草さんが、表の大提灯から見つけたものでしょう」

「そうです。 GHQが祇園甲部歌舞練場ではなく、都座にわざわざ隠したもう一つの重大な理由があるのです」

 イチジョージは静かに説明した。

 宝物を蘭世から上げると云われて、鐘也は銀行の個人貸し出し金庫に預けていた。

 スマホに記録として写真、動画で残していた。

 さらにこれらの宝物の写真を紙焼きしていた。

 スマホを起動させて仏像の写真をイチジョージに見せた。

「これですね」

「そうです。これ、何の種類の仏像かご存知ですか」

「両手を前で合わせてないので、観音菩薩でないのは確かですけど」

 蘭世から譲り受けてから、仏像の種類まで調べていなかった。

 すぐ「仏像の種類」検索した。

 そして、同じ仏像の写真が目に入った。

「梵天(ぼんてん)」

「ああああっ!」

思わず鐘也は持っていたスマホを落としかけた。

鳥肌が立ち、気持ちのこころの光線が全身を錯綜する。

「そうだったのか」

 鐘也が今作っている、梵天。

 それと同じ名前の仏像、梵天があったのだ。

 だから、 GHQは都座にこだわったのだ。

 大きな謎が氷解した。

 考えて見れば簡単な事だ。

 都座らしい所➡梵天➡大提灯(右・西・西方浄土)

 全て一つに繋がっていたのだ。

「だから梵天像は、梵天のある都座に収めたんです」

「わかりました。それで梵天像にある、マッカーサー直筆のサインは本物なんですか」

「それは、神のみぞ知る」

 イチジョージは笑って、大きくウインクした。

「あともう一つ、説明しておく必要があるの」

 じっとほとりは、鐘也の顔を見つめた。

「まだありますか」

「その顔つきだとすっかり、お忘れのようね」

 と云ったあとほとりは小さく笑った。

「もったいぶらずに、云って下さい」

「京都植物園の時、柳子が手に、灰色の欠片を持っていたのを覚えているかな」

「うーん」

 鐘也は頭を抱えて唸った。

「あれね、都座の大屋根の瓦だったの」

「それって、この紙コップの GHQと同じで、次の時代への伏線だったんですか」

「頭いい!」

「でも今頃気づいてももう遅いですよね」

「ううん、そんな事ない。資格充分よね」

「充分です」

 まず蘭世が答えて、イチジョージも

「イエス」

 と大きくうなづいた。

「資格ってなんですか」

「それは、また後ほど。ではさらに始めます」

 高らかにほとりは宣言した。

「何が始まるのかなあ」

 カンナは興味深い眼差しでほとりを見た。

「鐘也、あんたまだ忘れていた事あったでしょう」

「バックステージツアーでですか?」

「そう」

 再びじっとほとりは鐘也を見た。

 いきなり云われて鐘也は戸惑った。

 天井を見上げる。

「バックステージツアーの最初の頃」

「最初?」

 今度はカウンターに両肘をついた。

「もうその辺で勘弁してあげなさい」

 柔らかく蘭世が仲裁に入った。

「そうねえ」

 ほとりは、鞄から一つの手紙を取り出して、テーブルの上に置いた。

「ああ、手紙!」

 すぐに思い出した。

 偽の新選組との立ち回り、上から落ちて来た手紙を拾おうとして、腰を曲げたために、難を逃れた事、スノコへ上がり、大道具の西院つよしと出会った事が次から次へと湯水のごとく蘇る。

「どうしたんですか、この手紙」

「拾ったのよ」

「どこで」

「さあ、どこかしらん」

「中身読んだんですか」

「そんな事するわけないじゃん。それより、どうしてつよし君があなたに、この手紙を託したかわかった?」

「あの時も、そして今も全くわかりません」

「正直でよろしい。ほんまアホやさかいに」

 二人のやり取りを聞いていたカンナは笑った。

「そう思うでしょう、カンナさんも」

 ほとりは、カンナに同意を求めた。

「じゃあ開封する前に、この人登場ですね」

 ほとりは、イチジョージを見た。

 カウンターの後ろは酒瓶が置かれた棚だったが、イチジョージが軽く左にスライドすると大きな障子戸が出て来た。

 その障子戸が開き、中から西院つよしが出て来た。

「マジックショーですか!」

「ご無沙汰です」

 カウンター越しに、身を乗り出してつよしは、鐘也に握手を求めた。

「お元気でしたか、西院さん」

「お陰様で何とか」

「はいはい、挨拶それぐらい。さあ開封して、鐘也君音読、声出して読んで下さい」

 ほとりにせっつかれて読み出した。


「未来の自分へ

 きみは、今幸せですか

 今は何の仕事してますか

 今でも都座で大道具してますか

 それとも、別の仕事してますか

 それは、どんな仕事ですか

 仕事は楽しいですか?つらいですか?

 でもね一番良いのは、開封した時も元気で生きている事です

 もし誰かが開封しても、書いた本人がいなかったら一番悲劇ですから

 じゃあ頑張って下さい。

  未来の自分へ          西院つよし       」


「どうだった?」

 ほとりが感想を求めて来た。

「うーん」

 唸った。

「何かが違いますね」

 まず率直な意見を述べた。

「何が違うんですか」

 正面に立つ西院が今度は質問した。

 鐘也の視界に蘭世が入った。

 またあの映像が脳裏に生まれる。

 替え玉付きの出前うどんだった。

「どう云えばいいのだろう。間違っていたらごめんだけど」

「どうぞ」

「これ、本当に西院くんが書いたのかな」

「と云いますと」

「情熱がない。優等生作文。マニュアルみたいな文章でしょう。西院くんの個性が感じられないんだ」

「じゃあこれは偽物だと」

「はい、これ本物じゃないでしょう。替え玉。偽物」

 蘭世を見ながら答えた。

 蘭世は笑った。

「替え玉」

 うどんを食べる仕草をした。

 二人だけにわかるサインだった。

 次に西院の目を見ながら答えた。

 最初真顔だった西院に笑みが生まれる。

 次に笑い声が弾けた。

「でかしたぞ、鐘也!大正解!」

 入り口から格子戸越しに声が聞こえた。

 ゆっくりと開き、深草が顔を出した。

「深草さん!どうしてここへ」

「もちろん、本物の手紙を届けに来たんだ」

 深草がカウンター席に座り、語った。

 この本物の手紙は、鐘也との激闘の時、鐘也のポットから深草の胸の中に入った。

 でも長い間、行方不明になっていた。

 そこでほとりに頼んで、急遽替え玉手紙を用意した。

 しかし、当日、見つかり持参したのだ。

「そうでしたか」

「なあ鐘也、この本物の手紙、創作浄瑠璃風にして読んでくれよ」

「それいい。そうしなさい」

 蘭世が間髪入れずに答えた。

「でも今日は、三味線持って来てないんです」

「三味線ならここにあるから」

 蘭世が取り出した。

「この頃はお店に預けているの。年寄りは、腕も肩の力もないから、持ち運びしんどいのよ」

 いつぞや病室で見かけた義太夫三味線だった。

「わかりました。じゃあやりましょう」

「題名はどうなるの」

「手紙未来過去往来物ですね」

 店に拍手が起こった。


 創作浄瑠璃「手紙未来過去往来物」

 これより書きし   未来の自分へ

 僕は必ず都座から  次のステージ行く

 次の世界で僕は   どんな仕事と出会うか

 他の人には出来ない 職人芸がいいかな

 どんな人と     一緒になるだろうか

 決して後悔せずに  一歩ずつ踏みしめて

 途中で行き止まり  落ち込んだり

 しても一歩ずつ   着実に歩んで行く

 闇夜が支配しても  必ず夜明けは来る

 未来の道は輝く   未来の自分も輝く


 盛大な拍手が店の中を覆う。

「で、西院くんは、今はどんな仕事しているんですか」

「はい、都座大道具を」

「今でも続けているんだ」

「ではなくて、今は、伏見にある(深草提灯)で提灯作りしてます」

「えっじゃあ、深草さんとこで」

「後輩と呼びたいけど、俺は」

「警察官ですよね」

「俺も転職して、今は八坂神社の宮司なんだ」

「そうなんですか!」

「俺が本来跡を継がないといけないが、それを西院くんがやってる」

「じゃあ手紙の中にあった職人芸と云うのも当たっていた」

「そうですね」

「ああ、彼女どうしました。上賀茂ひとえさん」

「彼女は八坂神社さんの巫女さんです」

「彼女人気者でな。常連さんのお客さんがついているんだ」

「もうアイドル顔負け」

「第一名前がいいんだ」

「名前?上賀茂ひとえ?」

 普通の名前だと鐘也は思った。

「まだ気づかないのか。上賀茂ひとえ。賀茂の字を取ると、(かみひとえ)」

「ああ、かみひとえ!確かにそうだ」

 初めて、合点がいった。

「賀茂、客もカモ。カモにするか、敬うかもかみひとえなんだ」

「座布団三枚!」

 横からほとりが、笑って手を叩いた。

「実は、今日連れて来たんだ。もう入っていいよ」

 ひとえが入って来た。

「ご無沙汰してます」

「もうすぐ結婚します」

 西院が云った。

「おめでとう!」

「もちろん、八坂神社であげます」

「いいねえ」

 幸せのオーラが店の中に充満した。

「きちんと都座の神様に報告しないと罰が当たると云ってな、連れて来たんだ」

「そんなあ。契約神さんですから」

 少し照れて鐘也は、はにかんだ。

 こうして和やかな宴が始まった。


 京都御所病院。

 ナースステーション。

 婦長が挨拶していた。

「今日は、御所病院としては初の取り組みです。休日ですが、皆さん頑張って下さい」

「はい」

「では、一階のロビーへ各患者さんをお連れして行きましょう」

 婦長が部屋を出ようとした。

「こまち婦長」

「何ですか」

「本当に、治療効果あるんですか」

 一人の若い看護婦が尋ねた。

「百聞は一見に如かず。自分の目で、耳で確認して下さい」

 こまち婦長は笑みを浮かべ、力強く答えた。

 一階ロビー。

 ソファの位置を少し変えて、同じ前を向く形にした。

 一段高い即席の舞台を作った。

 総勢50人くらいが詰めかけた。

 一見すると小さなホールのように見えた。

 御所病院は戦前に建てられた病院で、天井が高く10メートルはあった。

 シャンデリア、ステンドグラス装飾は、贅沢な造りだった。

 ただ、ホールでの演奏会と違うのは、車椅子に乗った人が多い事と点滴ケース持って見る人、それらの人々をサポートする看護師がいた事。

 さらには、医者たちも後ろで立って見ていた。

 その中には、蘭世を担当した医者もいた。

「皆さん、今日は」

 元気よく鐘也は架設舞台に上がる。

 ここには、目も眩むばかりの照明も、屏風も毛氈で敷かれた舞台も見台もない。

 しかし、聞く人々の顔色、体調、仕草が手に取るようにわかる。

 一通り義太夫三味線の事を説明したあと、早速演奏に取り掛かる。 

 大きなバチで、義太夫三味線の糸に擦る。

 あの特有の低音が生まれた。

 その音を耳にした患者は、まず耳をそばだてた。

 次に顔色に変化が出る。

 義太夫三味線の演奏が進むに連れて、車椅子で今まで全く足が動かなかった年寄りが、自然に足元を軽くテンポを取り始めた。

 後ろで見ていた看護師は、目を見張る。

「う、動いてる!」

 自分が担当している、うなだれたままの患者の足が動き出していた。

 医者もその変化に気づいたようだ。

 事務長は、ハンディカメラで撮影していた。

 松葉杖の患者は、後半は自力で立ち、松葉杖を床にトントン叩いてリズムとっていた。

 明らかな変化だった。

「何かが作用してるんだ」

 口々に医者はつぶやいた。

 弾き唄いながら、鐘也のこころも浮足立っていた。

(そうですとも!もっともっと効果出ますよ)


 京都東山・将軍塚

 山頂からは、京都市街が見渡せる。

 夜ともなると、市街地に明かりが灯る。

 昔から京都の若者のドライブコースであった。

 山頂へは車しかなかった。

 桓武天皇が平安京を造営した時、国家の平安を願い、ここに鎧兜を埋めたと云われている。

 京都、国家に何か重大な危機が訪れた時、東山全体が鳴動すると云われていた。

 ここに、ふもとにある青蓮院門跡寺院の飛び地境内で、清龍殿と呼ばれている。

 清水寺の舞台の数倍の広さの、床が檜で出来た舞台がある。

 鐘也は、靴のまま上がるのは、忍びなくて雪駄で上がった。

 まだあまり知られてない観光スポットなので、数人の人影しかいない。

 京都市街を見ながらまず、一礼。

 義太夫三味線を弾き始めた。

 重低音に惹かれて、今まで市街地を見ていたカップル、人々が鐘也のそばに寄って来た。


 創作浄瑠璃 「 国家平安祈念噺 」

 幾たびの戦乱   潜り抜け

 幾たびの火事を  通り抜けて

 人々の営み    続いて来た

 これからも    平安祈念する

 疫病戦乱不安   世の中だろうとも

 それを乗り越え  今の暮らしあり

 時々の道を歩き  今に通じる世界

 いついつまでも  平和な時続くよう

 これからも私は  都座のお客様共に

 笑顔と拍手が   永遠に続くよう

 微力ながら    精いっぱい務めます

頼りない神と   云われても

 全力で皆様を   お守りいたします 

 これからも    よろしくお願いいたします

 

 鐘也の神様としての活動は、今始まったばかりだった。

 その事を桓武天皇はきっと、祝福しているに違いない。

 夕陽に照らされて、京都市街は、美しく輝いていた。


              (終わり)

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