灰ノ夜

 原作は下記になります。


https://kakuyomu.jp/works/16816452218783142493


 かなり長いので途中までの改稿とさせていただきました。

 表現自体はかなり好みです。 しかし、一文が長い、段落の切り分けが甘く一段落が長い、使用する漢字の難度に比べてルビが極端に少ない、と三つの要素でものすごく読みづらくなってしまっています。

 それと視点の把握の甘さが見られましたね。




 びゅう、と砂塵を巻き上げる旋風が顔面を覆う前髪をさらった。 途端に開ける視界へ飛び込んできたのは火山灰がうずたかく降り積もる、退廃色グレイに染まった町の風景だ。

 瓦葺の屋根と石造りの壁に支えられた家々が所狭しと立ち並び、表通りもどことなく顔色の悪い住人たちがぽつぽつと行き交うばかり。 およそ喧騒とは縁遠い、うら寂しい空気が町全体を流れているようだった。


 彼は何かを諦めるように息を吐くと、精一杯の笑顔を浮かべる。 憂鬱な内心のせいか若干引きつっているのを彼自身も感じていた。 しかしそれも仕方のないことだろう。

 もうほんの少しだけでもましな笑顔をつくろおうとするように、手のひらで頬をね回す。 しばしそうして納得できたか、一つ頷くと彼は町の入り口をくぐってすぐのところにある居酒屋のドアを押し開けた。


 店内の様子は首を巡らすまでもなく、店に入った瞬間に見渡せた。 カウンター席、ボックス席がそれぞれ片手で数えられる程しかないこじんまりとした店構えだ。 きちんと掃除はされているはずだが、外から灰が吹き込んでくるせいかどことなく薄汚れた印象を受ける。

 誰もいない店内を見渡しながらスツールに腰掛けると、それまで退屈そうにグラスを磨いていた店主がすかさずメニュー表を差し出してくる。


「あのう、旅の者ですけれど……今って営業してます?」

「いらっしゃい。 こんな田舎町に旅人なんて珍しいね。 グラージャ山を登ってくんのは大変だったろうに、何か用でもあるのかい?」

「ええ、まあ。 でも私は魔法が使えますからそんなに苦労っていう苦労もしてないですよ」

「魔法使いなのかい? そんなすごい人がナターリアなんかになんでまた……ここにゃ観るものも娯楽もろくなもんがないってのに」

「まあちょっとした依頼クエスト絡みでして。 ここにしかない素材を探しにですね。──この牛ホホ肉の赤葡萄酒ワイン煮込みってのは美味しそうですね。 ちょうど肉を食べたい気分なのでこれをお願いします」

「あいよ。 飲み物はどうする? っても麦酒エールとジンくらいしか置いてないが」

「ご心配なく。 持参した水がありますので」

「……なんだい、下戸かあ」

「飲めなくもないんですがね。 生憎とこの見た目では外でドリンク一杯を頼むのも一苦労でして」


 旅の魔法使いはなるほど、確かに美しい容姿をしている。 よく手入れされた栗色の艶やかな髪は腰にまで届き、長い前髪が顔の一部を隠している。 白く透ける肌と華奢な体格が儚げな雰囲気を醸し出しており、繊細な造作の整った美貌を嵐の空のような灰色の瞳が彩っていた。

 質素な茶革のロングコートと、モノトーンで統一されたシックな旅装が勿体なく見える。 女物の服で着飾りでもしようものなら大抵の男どもが放っておかないだろう。 


 この外見ではさぞかし苦労も多かろうな、と店主は察してしまった。 飲み物を注文しないのは過去に薬だの何だのを盛られた経験があるからなのだろうと、そう思い、不憫すぎて居酒屋で酒を呑まないことをマナー違反だと怒る気にもなれなかった。


 料理を用意しながら横目で見ると、安心して酒を飲むこともできない不憫な客は自前の水筒の中身をコップに注いでいた。 それをちびちびと飲みながら何かを書いている。

 店主はこっそり覗き込んでみるが、魔法文字で書かれたそれは単なる一般人には全く読むことができない。


「覗き見はマナー違反ですよ」

「はいはい、悪かったよ。 女の一人旅なんて珍しいどころじゃないからついね。 もうしないよ」

「……何を勘違いしてるんです? 私、女じゃないですよ?」

「……は?」

「いや、だから男ですよ、男」

「ええ……そりゃないよ。 あからさまに女みてぇなカッコしてるくせに……」


 旅の魔法使いは店主に怪訝そうな目を向けるが、店主としてはよっぽどこちらの方が不思議に思っているのだがとツッコミを入れたい気持ちだったろう。 数秒、苦虫を噛み潰したような顔で彼の美しいかんばせを見ていた店長は、肩を落とすと出来上がったばかりの料理を差し出す。

 切り分けた柔らかい肉を口に運ぶと、ぱっと華やいだ顔になる。 美味しそうに食べるその様子は大変に愛らしく、これで男だと言われてもいまいち信じきれない。


「旅の魔法使いさん、さっき素材探しがどうのって言ってたけど……ナターリアは見ての通り、なぁんにもない町だよ。 行商すらろくに来やしないんだ。 あんたの言う素材なんて本当にあるのかねえ」

「ありますよ。 ちゃんと情報を集めていますから。 でなければ、わざわざ山登りまでしてここを訪れていません。──それにしても美味しいですね。 隠し味にチェリーを入れてますか?」

「おっ、よく気づいたね。 チェリーを潰して果汁と果肉をソースにこっそり入れてるんだよ。 甘くてフルーティだろう?」

「ええ……あの人にもふるまってあげたかった」


 ええ、の後に口にした言葉はあまりにも小さく、店主には聞き取れなかった。 聞き返そうかとも思った店主だが、男の浮かべるあまりに切ない表情に結局、何も訊ねられずに口を閉ざした。


「ごちそうさまでした。 それでは」

「毎度……って、あれ!? ちょ、ちょっと魔法使いさん!? これ額がおかしいから! いくらなんでも、さすがにこんなには受け取れないよ!」

「え? でもせっかく美味しいご飯をいただいたので。 それはお気持ちということで。 ……お子さん、いるんでしょう? たまには家族サービスしてあげるのも悪くないのでは?」


 男の意味ありげな視線を追い、店主も店の外を見やる。 灰と埃で曇った窓の向こうから、ひょっこりと子供が顔を覗かせていた。 年中灰の降る町でもきらきらと輝く虹色の瞳が、興味深そうに店の中を──外からきた珍しい旅人を見つめていた。


「なんだぁ、坊のこと言ってたのか。 こいつはうちの子供じゃないよ。 町外れに住んでるガキさ。──坊、そんなとこで何やってんだ。 さ、中に入りな。 そこは灰で煙たいだろう」


 店主が店のドアを開けて入店を促すと、子供はおずおずと店内に入ってくる。 着古したシャツにズボン、その上にボロボロのジャケットを羽織ったみすぼらしい見た目の少年だ。

 歳の頃は14、15といったところだろうか。 まだ幼さの残る柔和な顔立ちは灰で煤けて汚れている。 本来なら真珠のような光沢のある美しい髪も、すっかりと灰を被ってしまいその輝きは鳴りを潜めている。


「あんた誰? 見ない顔だね。 おっさんの知り合い?」

「お客さんだよ。 魔法使いなんだと。 ここへは探し物に来たんだとさ」

「ふーん。 俺、夜ヨルってんだ。 なぁ魔法使いさん、俺も連れてってくれよ! どうせ山頂に行くんだろう? なら道案内してやるよ! あの辺は俺の庭みてーなもんだからさ」


 あどけない顔つきは凍りついたかのような無表情だったが、唇からこぼれ落ちてくるのは年相応に朗らかな誘いの言葉だった。 機械人形じみた顔つきと明るい声色のギャップが凄まじいな、と思いつつ魔法使いは首を横に振る。





 とにかく読みづらい点の改善として、段落として切って構わない箇所を切る、作品の雰囲気を壊さない程度に空行を入れる、長い文章を切るために一部の表現を変えたりなどで改稿をしています。



「瓦葺の屋根と石造りの壁に支えられた家々が所狭しと立ち並び、どことなく顔色の悪い住人たちがぽつぽつと行き交う表通りは活気に欠け、うら寂しい空気が流れている。」

 長いこともそうですが連用中止法が重ねて使われているのでくどく感じます。 どこかで切るかせめて連用中止法が一つになるよつ表現を変えた方がいいですね。



「「彼」は、これも仕事のためだ仕方ないと自分に言い聞かせ、精一杯の笑顔を浮かべて町の入り口をくぐってすぐのところにある居酒屋へと立ち寄った。」

 内心の台詞に相当するものが地の文に入っているのはまだいいとして、二文が区切りもなくというのはやはりおかしいです。 ここは匂わす程度に様子を描写する形で書き直しました。



「外から灰が吹き込んでくるせいかどことなく薄汚れた印象を与える。」

 これ、すごく微妙で難しいです。 どちらでも通じるのは確かなんですが、主体をどう捉えるかで『与える』になるか『受ける』になるかが変わります。 私としては見る側が主体と感じるので『受ける』が正解だと思います。


 なぜそう感じるかと言えば『どことなく』の一文ですね。 例外はあると思いますが印象を与える側は概ね明示的になります。 『どことなく』『何となく』といったように漠然となるのは受け手側の感覚なので、この一文があることで主体は受け手側にあると捉えられるんですね。

『店内の様子は』とか『埃っぽい空気は』など印象を与える主体を示す文言があれば『与える』で正解です。


 ついでに私が書き直した文についての解説をしておきます。 『こじんまり』についてですが『こぢんまり』の間違いじゃないかという声がたまにあります。 しかし『小+ちんまり』で『こぢんまり』と『小締まり』から転じての『こじんまり』のどちらもあって、どちらを使っても間違いというわけではありません。



 会話文を読んで感じたのは、店主の言い回しが大きな原因なのですが落語を文字に起こしているようだと、そんな印象です。 不自然で大げさに感じてしまいました。 特に「おや」や「なんだって」といった言葉は普通なら口にしないので違和感が大きいです。

 それと会話にしてはセリフの一つ一つが長い。 言葉のキャッチボールになっていないように感じてしまう。 なので私としては珍しいのですがセリフには大きく手を加えさせていただきました。

 会話の前でメニューを差し出しながら声をかけてきた、としながら続いたのが主人公のセリフなのも違和感がありますね。



「ドレスか、せめて女物の服で着飾れば大抵の男どもが放っておかないだろうに。」

 この書き方だと美しいのに飾り気のない女性に対する文になっています。 『せめて』がキーポイントです。 主人公は男なのでまた違う言い回しをするべきですね。

 実際にはその後で彼女と書いているので女と勘違いした店主視点の三人称だからそう書いた、ということなのでしょうが、彼と明記した神視点での描写からシーンも切り替わっていない状況なのに突然、店主視点に切り替わるのはアウトです。

 その後の描写も店主が勘違いしているのを客観的に描くようにするか、そもそも最初の時点で彼と明記せずに性別をぼかしておく手法を取るべきです。



 料理をしながら主人公が書いているものを覗き込むシーンですが、料理をするスペースは客と向き合うカウンターの後ろ側にあるものとイメージされます。 特に煮込み料理など鍋がカウンターにあっては邪魔ですので。 なので料理をしながら覗き込むのは難しいのではないかと感じますね。



「せっかく真珠のような光沢のある美しい髪をしているのに、それもすっかりと灰を被ってしまっている。」

 灰をかぶっているのなら真珠のような光沢云々は見た目から分かりません。 この書き方は見た場面を客観的に書いている形の神視点に感じるのに見えるはずのないことを書いてしまっていて違和感があります。 少し書き方を変えた方がいいですね。

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自主企画 あなたの小説、第一話を私が書いてみます 黒須 @xian9301

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