危険?な道中

 僕たちは衛兵に紹介してもらった宿で夜を明かした。

 うら若き女の子と同じ部屋は役場的にNGだと心配だったが、宿が空いていて一人一部屋ずつ案内された。

 どうやら、ゴブリン騒動の影響で宿泊客が普段より少なかったそうだ。


 というわけで、僕とエリカ、セイラの三人は宿を出て、衛兵との待ち合わせ場所に向かった。

 朝の時間帯ということもあるが、通行人が昨日よりも減っているので、ゴブリン騒動の影響をここでも感じた。


 街の様子を眺めていると、ゴブリンが出てきた痕跡がところどころに残っている。

 ミネストレア関係者が復旧に汗を流しているところだが、一日では難しいだろう。


 しばらく歩いていると、衛兵の姿が見えた。

 昨日の鎧ではなく、衣服を身につけている。

 彼は僕たちに気づくと、深々と頭を下げた。


「おはようございます」

「これはどうも。待たせちゃいましたね」

「いえいえ、お気になさらず。ところで、皆さんに見せたいものがあります」


 衛兵が歩き出したので、僕たちはついていく。

 

 少し移動したところに一台の馬車があった。

 幌がついていて、多少立派に見えるものだった。

 

「旅の負担が少しでも軽くなればと思い、こちらをご用意しました」

「わたし、こんなに近くで馬車を見るの初めて」


 エリカのテンションが微妙に上がったみたいだ。

 さすがにセイラは馬車を見たことがあるようで、特に変化はなし。

 ちなみに僕はといえば、馬に乗ったことはあっても、馬車に乗ったことはない。

 故郷イーストウッドの町長が馬車に乗るのを見送った経験があるだけだ。


 一人、感慨に浸っていると衛兵に促されて、エリカとセイラが馬車に乗った。

 二人に続いて、僕も馬車に乗りこむ。


 誰が馬を操るのかと思ったら、衛兵が御者台に座った。

 どうやら、彼が目的地まで連れて行ってくれるみたいだ。


「お三方、申し遅れましたが、私はミネストレアの衛兵、ガイルです」

「ええと、僕はトーマス、こっちがエリカ、もう一人がセイラです」


 僕とガイルは簡単に自己紹介をした。

 それから、公都に向けて出発した。


 馬車はミネストレアを出ると街道を進み始めた。

 辺境のイーストウッドに比べれば道は整備されているように感じた。

 公都に連なる道のため、いくらか予算が振り分けられているのかもしれない。


 馬車が出てからしばらくの間、僕は周囲を警戒していた。

 しかし、盗賊も魔物も出てこない。

 セイラの話では魔女がいるのはもっと先の場所らしい。


 身体に力が入っていたせいか何だか疲れてきた。

 馬車の揺れが心地よくて、徐々に眠気を催していた。




「――トーマスさん、起きてください」

「ふわぁ……は、はい!」


 いつの間にか眠っていたらしい。

 馬車はどこかで停車している。


「ここは中間地点のミドルの町です。少し休憩してから出発しましょう」

「もう真ん中あたりまで進んだんですね。馬車は便利で快適だなあ」


 馬車から外に出ると、昼ぐらいの明るさだった。

 そろそろ、昼食の時間だろうか。


「よかったら、町の食堂で昼食をどうぞ」


 ガイルも同じことを考えていたようで、僕たちを気遣ってくれた。


「ガイルさんはどうするんですか?」

「私は用意してきましたので、それにちゃんと食べないと妻がうるさいのです」


 彼はそう言いながら微笑みを浮かべた。

 なるほど、既婚者だったのか。


 それじゃあ、後の二人に声をかけよう。

 近くでエリカが伸びをして、セイラが剣で素振りをしている。

 

「二人とも、昼食を食べに行こう」

「うん、わかった」

「では、行こうか」


 ミドルの町に入ると、わりとこじんまりとした雰囲気だった。

 三人で食事のできる場所を探して歩くと、短い時間で一周できてしまった。

 最初にガイルが食堂と指定したのは、そこしかないからだと気づいた。


「知らない町の食堂、ワクワク」

「エリカは楽しそうだね」

「楽しいよ、初めて見るものばかりだから」 

  

 エリカの透き通るような瞳が輝いて見えた。

 最初の頃は見知らぬ世界で不安そうだったが、だいぶ落ちついたようだ。

 もしかしたら、姉のような役割のセイラのおかげもあるかもしれない。

  

 僕たちは談笑しながら、食堂に着いた。

 看板には「木こりの秘密基地」と書かれている。

 独特なネーミングだと思いながら、食堂の扉を開いた。


「いらっしゃいましー」


 中に入ると初老の女性が挨拶をした。

 一人で店を切り盛りしているようで、彼女が店主のように見えた。

 小綺麗な店内で席の数はそこまで多くない。 


 僕たちは空いた席にそれぞれ腰かけた。

 席から調理場の方が見えるようになっており、先ほどの女性が料理を作っている。


 少しして、彼女は他の客に料理を運び、こちらの席にやってきた。


「うちはサンドが美味しいんよ。初めて来るお客さんにはおまかせを食べてもらうことが多いね」

「私はそれで」

「じゃあ、わたしもそれがいい」

「二人とも早いね。じゃあ、僕もそれで」


 女性は注文を受けてから、調理場に戻っていった。


 それから、エリカやセイラと話すうちに料理が運ばれてきた。


「ほいよ、お待たせね」


 三つの皿がそれぞれの前に置かれた。

 サンドと聞いてサンドイッチを想像していたが、届いた料理は異なる形態だった。

 切れ目の入ったバゲットにスモークサーモンと野菜が入っている。


 早速、食べてみるとサーモンの臭みはほとんどなく、野菜は新鮮で美味しかった。  

 お腹が空いていたこともあり、すぐに完食した。

 セイラは僕と同じぐらいに食べ終わり、エリカはその少し後だった。

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転生魔法少女と辺境役人の異世界放浪記〜町長に職場を追い出されたので二人で旅に出ます〜 金色のクレヨン@釣りするWeb作家 @kureyon-gold

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