それは制限つきのチート

 エリカが杖をかざした後、杖の先からまばゆい光が放たれた。

 その光は周囲に散らばるゴブリンに突き刺さるように直撃した。


 ゴブリンたちは何が起きたのか分かっていない様子だ。

 少ししてその場に倒れ込んだ後、ピクリとも動かずに絶命しているように見えた。


「相変わらず、彼女の魔法は凄まじいな……」

「はい、たしかに……」


 僕やセイラだけでなく、周りにいた人たちも唖然としていた。

 エリカの存在を知らなければ、何が起きたのか分からないはずだから無理もない。 

 

「――っと」


 エリカが上空から地面に着地した。

 衣服は通常に戻っており、周囲の様子を意に介さないように平然とした表情を見せた。


「さっきので緑のは全滅。ここは森みたいに木がないから狙いやすかった」

「そういえば、エリカはネブラスタの時は接近戦だった」


 セイラは何かを知っているような言い方だった。

 僕の知らないところでエリカが活躍したのだろう。


 ゴブリンが一掃されて肩の力を抜いたところで、スタンとクラークがやってきた。


「謎のショウジョー、なかなかやるじゃないかー」


 スタンが変なテンションで口を開いた。


「……トーマス、変態がいる」

「衛兵さーん、こっちで――」

「おいこら、待て! いらぬ誤解を招くじゃないか」

  

 スタンはしょうきにもどった!


「よく分からない絡みは面倒なので、単刀直入に言ってください」

「俺の活躍の場が奪われた……。そこの少女が魔法を使ったのをクラークが見た」


 彼の一言で、エリカとセイラがクラークへと冷ややかな視線を向けた。

 二人の動きは息が合っていて、まるで姉妹のようだった。


「ご、ごほん。見たままを口にしただけのことで……」

「二人は付き合い長そうなので、さすがにどうなるか分かりそうですが」

「それはまあ……ううむ」


 クラークは気まずそうに黙ってしまった。

 スタンほど個性が強くないわけだが、意外と小心者なのかもしれない。


「――そちらの剣士殿に戦士殿。見事なご活躍、恐れ入りました」


 よく分からない空気になったところで、ミネストレアの衛兵がやってきた。

 彼もゴブリンと戦っていたようで、鎧に返り血がついている。

 

「そこでお二人にお願いがあるのですが……」


 衛兵はかしこまった様子で二人を交互に眺めた。

 物腰は丁寧ではあるものの、いくらか値踏みをするような気配も見て取れる。

 彼は兜などの頭部の防具をつけていないので、表情が読み取りやすかった。

 

「ほほう、見る目があるな。何でも言ってくれ!」

「この男と同類と思われるのは不愉快だ」


 毛色の違いすぎる二人に気づいたのか、衛兵は困ったような表情になった。

 それから、何かを決意するような様子で口を開いた。


「公都への護衛をお願いできないでしょうか?」

「私でよければ同行しよう」

「……うむ、公都か」


 おやっ、いつもならセイラとスタンが張り合いそうなものだが、今回はセイラの鋭い眼光が輝いているだけで、スタンは気に留めていないようだ。


「俺はネブラスタに行かねばならぬからな。女剣士、お前が行けばいいじゃないか」

「ふんっ、指図されるまでもない」


 とりあえず、平和に決まったようだ。

 ところで、セイラは一人で行くのか……?


「はい、わたしも行く」


 エリカがスパッと手を挙げた。

 その様子にセイラの表情が緩んだ。


「トーマスも、一緒に行こうよ」

「うん、そうですね。イーストウッド以外ならどこへでも」


 村長に追い出された以上、しばらくは故郷へ帰れない。

 エリカの行きたいところへついていくのも業務の一環だ。


「じゃあな、冴えない三人組。俺はクラークと出発するぜ」

「では、お三方。どうかご無事で」


 僕たちの意見がまとまったところで、スタンたちは去っていった。

 彼らが離れたところで、衛兵が再び話し始めた。


「剣士殿はよろしいのですが、お二人の強さは……?」 

「ええと、僕はイーストウッドという町の役人です」

「わたしは魔法少女」

「……は、はい。承知しました」


 衛兵は反応に困っているみたいだった。

 そもそも、魔法少女が何なのか知らないと思う。


 少し間をおいて、彼は気を取り直したように話を続けた。


「公都からの定期的な使者はあっても、我々衛兵は公都へ行く機会がないのです」

「ええ、それで」

「公都までの道のりは危険がありますし、何が起きるか分かりません。それで、護衛が必要というわけです」


 彼が嘘を言っているようには見えなかった。

 起こり得る危機を想定しているように、緊張した様子が見て取れた。

 ただ、僕はミネストレアより先のことに疎く、いまいちピンとこなかった。


「盗賊、魔物、魔女……公都周辺にはそういった危険がある」

「剣士殿、公都へ行かれたことが?」

「ああっ、過去に一度だけ」


 たしかセイラは放浪の旅をしていたのだった。

 公都はベルリンドで一番大きな都市なので、行ったことがあっても不思議ではない。


「ちなみに肝心の報酬なのですが、あちらに着いてからの成功報酬というかたちでお願いできればと」

「ねえ、トーマス。それでいいよ」

「僕はエリカがそう言うのならかまいません」


 セイラはどうかと思って様子を伺うと、僕に目を合わせて頷いた。


「それじゃあ、だいたい話はまとまりましたね」

「本当にありがたい。今からでは日が暮れるまで長くないので、明朝出発します」


 衛兵は深々と頭を下げた。

 それから、彼の紹介だと話せば安く泊まれる宿を紹介してくれた。


「では、ゴブリンの回収が残っておりますので、失礼します」


 衛兵は機敏な身のこなしで去っていった。

 その出で立ちや風貌から、ある程度は実力がありそうだった。

 彼でも怯むほど公都への道中は危険なのだろうか。

 無双の強さを誇る二人がいるとはいえ、少しばかり不安になる。


「セイラ、魔女って何? 魔法少女とは違うの?」

「私はまだ魔法少女のことをよく分かってないが、魔女は恐ろしい存在だ」

「へえ、魔女って本当にいるんだ」


 緊迫した状況にあっても、エリカはのほほんとしていた。

 そんな彼女の様子を見ていると、いくらか緊張がほぐれる気がした。

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