(断片)その名はドモンチョ。
眠熊亭では、朝から妙な光景が繰り広げられていた。
人形みたいに綺麗な、痩身で白髪の青年が、カウンターの真下に正座している。彼の真向かいに鎮座しているのは、背黒と腹白の体色にひれのような両手、リュックを背負った寸胴の鳥類。
白い青年の金色の双眸と黒い鳥のつぶらな瞳が、見つめ合っているのか睨み合っているのかは、傍目から判断つかない。
混雑する店の中、周囲に無頓着なふたりはひどく浮き上がっているのだが、常連たちも慣れたもので、気にせず自分の食事に夢中になっていた。
その喧噪の中白い青年の淡調な声は、周囲に届くことなく掻き消されていく。
「どもんちょ?」
「否、私は白夜だ。オマエはペンギンではないのか?」
「どもんちょ」
「ふむ。……さっぱり解らん。オマエはペンギンではないのか」
「あ゛ぁー、どもんちょ!」
「勘違いしたのは私だから、オマエが気にすることはない。だが、オマエの言語が解らんのは不便だ」
「……成り立ってねぇだろ、その会話」
不意に頭上から呆れ声が降ってきて、白夜は黙って顔を上げた。
黒い鳥の黒い瞳が嬉しそうに輝く。両ヒレをパタパタと振り回して「ぐゎー!」を連呼する彼に、魚屋はイワシを一匹ひょいと投げた。
クチバシでそれを見事にキャッチし、頭から一気に飲み込むと、彼は両ヒレを天井に向け華麗にくるりと一回転した。
歓声が沸き起こり、見るとも無しに見ていた客たちの拍手が埃と一緒に降ってくる。
「おー、お見事。じゃ今度は、氷上リンクで三回転ジャンプ披露してくれな」
「らくーっ、どもんちょ!」
高らかに宣言する寸胴鳥に惜しみない拍手を捧げ、ウヴァスは、きょとんとそれを見ていた白夜に視線を戻した。
「白夜。コイツは確かにペンギン族だけど、ペンギンって名前じゃねえぜ。コイツは、ドモンチョって名前なんだ」
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世界のおわりにみた夢。 羽鳥(眞城白歌) @Hatori
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