(断片)仲良くなったひとは、故郷を奪ったひとだった。


 ざ、ざく、というかすかな音とともに、少しずつ床へ降る茶色い髪。

 視線をうつむけ、カナイはナイフを器用に滑らせて、指先でもてあそびながら毛先を丁寧に切りそろえてゆく。


「だから、あたし。北へ行く。あのひとを捜して、ちゃんと言わなきゃ」

「過去をゆるすと伝えるのか? カナイ」


 背中合わせに触れた場所から、静かな声が伝わる。カナイはふと手を止め、立てた膝にあごを沈めた。


「ねぇ、シロ。……あたしは生き延びて、こうやって今も生きてるケド。あの子たちはあの炎の中で死んじゃった。外の世界に出て、美味しい食べ物とか優しいひとたちとか、そういう出会いに恵まれたかもしれない未来を、奪われたの。だから、あたしには、ゆるす資格なんてないよ」


「それなら、糾弾きゅうだんしに行くのか?」


 静かな静かな声が、問う。カナイは顔を埋めたまま首を振り、それから頭を上げた。手ぐしで髪を一房つかみ、再びナイフを当てる。


「ううん」


 ざ、と切られた髪が落ちる。こつりと音がして、右手から滑り落ちたナイフが床に転がった。背中のぬるい温度がふわっと離れ、白い青年の細い肩に少女の腕が回される。


「忘れないでって。アナタが刺し殺した、その手の感触も、血のニオイも、炎の痛さも。ぜんぶ、あの子たちが生きて死んでったあかしだって。あの子たちがあの場所で生きてたコト、忘れないでって。伝えなきゃ」


「……オマエは残酷だな、カナイ」


 細くて長い指が、少女の手にそうっと重ねられた。甘い慈しみが込められた彼の声音に、カナイはいっそいさぎよいほどに優しく笑って、答える。


「うん、だって。忘れたって、楽になんかなれないもの」





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 コラボ途中頓挫とんざでお蔵入りになったワンシーン。「白き夜の涯」第二部・無限螺旋編の終盤に入るシーンだったように記憶しています。

 仲良くなった女性は、故郷を焼いたあの人たちと同じ国の騎士でした、っていう。


 この辺になると、白夜びゃくやは人の形も取れるようになっていたのですが。ケスト嬢はコラボ提供キャラだったので、書くならまるっとプロット作り直し……ですねぇ。


 このシーン自体は(ビジュアルイメージ的にも)すごくお気に入りだったので、いつか、機会があれば。

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