(小ネタ)黒曜姫はレジオーラ卿と婚約したい


「あら、またルゥイ(ルウィーニ)さまに駆りだされましたの? ラスさま」


「いいや、単に皆恐ろしがって行き渋るから、私に回って来ただけだ。それもこれも、原因は貴女の手紙だぞ、姫」


「まぁ、お返事携えて来てくださいましたのね? ありがとうラスさま」


「有り難い内容の返事ではないがな」


「……(読)……(潤目)……ひどいですわ、レジオーラ卿っ」(まなじりハンカチで押さえつつ)


「恐らく書いたのはフェトゥースだと思うが」


「ええ、フェトさまはご親切だから、わたくしを傷つけまいと言葉を選んでくださってますわ。だからひどいのは手紙ではなく、レジオーラ卿でしてよっ」


「解らんな。順序立てて説明いただけると非常に嬉しい……いや別に知りたいわけでもないんだが」


「だって、即答ですのよ? そ・く・と・うっ。せめて幾許いくばくかでも、悩む素振り見せてくださったらよろしくなくて?」


「結果が同じなら宜しくもないだろう。それより、ロッシェの代わりに手紙を書かされるフェトゥースが気の毒だと思うが」


「勿論ですわ! それも含めてひどい方ですのっ。わたくし今までたくさんのお見合いを断ってきましたけれど、振られたのははじめてですわよ!」


「それなら貴女も酷い女になるのかな」


「いいえ! 殿方がレディを振るのは、逆よりずっと重大なことですのよ?」


「成る程。それなら、そんな酷い男はあきらめて、別の相手を捜すのが宜しかろうよ」


「よろしくありませんわ。わたくし、あきらめる気なんてありませんもの」


「…………(溜息)」


「…………(微笑)」


「というか、本気ではないだろう、黒曜姫」


「本気ですわよ? レジオーラ卿は確かに、貴族としての身分は高くありませんけれど、その手腕と軍才はわたくし良く存じておりますわ。あの方はわたくしと利害が合う上、カミル様の目にもかなう、稀有けうな方ですのよ」


「ならなぜ手紙を見て、ルゥイがバカ笑いするんだ」


「ルゥイさまは呼吸の代わりに大笑いされる方ですものね。全然問題なくってよ」


「大笑いは問題ないにしろ、タイミングが問題だ」


「だって、わたくしはラスさまでも全然問題ありませんけれど、わたくしがラスさまと婚約したら、カミル様がきっとへそを曲げてしまいますもの」


「……悪い。私も遠慮させていただく」


「えぇ。端から候補外ですからご心配なさらないで。子ども扱いばっかりで全然振り向いてくださらない灰竜かいりゅう(カミル)さまなんてあきらめて、わたくしこれからは、レジオーラ卿を押しまくることに決めましたのよ」


「歯牙にも掛からぬだろうに」


「何か仰いまして?」


「…………(溜息)」


「…………(超笑顔)」




 ***




「なぁ、ロッシェ。また来てるんだけど……黒曜姫からのラブレター、おまえに」


「ああ。断っていいよ」


「もういい加減、断る文面のレパートリーが尽きたんだけど?」


「それじゃ、シンプルに太文字で『断固拒否』、これで万事オッケーだね」


「……書けるか」


「大丈夫さ、どうせ彼女本気じゃないだろう」


「君らのそういう所、きっと僕には一生理解できないだろうな……(深く溜息)」





 ----------



 掲示板で「エレナーゼTRPGシェアーズ」の企画をやっていた時、共通舞台の時間軸が「旅物語」の五年後でした。(「英雄譚」だと十年後)

 これも、ロッシェがセロアやルベルとともにティスティル帝国を訪れたあと、ライヴァン帝国に戻っていろいろなことが一段落した頃合いの小ネタになります。


 黒曜姫は、本命をカミルに悟られないよう「成立しそうにない相手への片想い」を演じているのですが、ちょうどいい相手としてロッシェが目をつけられてしまったわけです。



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