(断片)イメージワード:『川を渡った』


「あんたは、来ないのかよ」


 さほど広くも深くもないこの川が、此処ここ彼方あちらを隔てる境界だ。渡りきれば最後、二度と戻れぬと知っている。

 足にまとわりつくひやりとした水流が、早く進めとうながす。

 それでも。踏みだす一歩を阻むのは、流れのせわしさゆえではなく――、


「この場所が僕には、相応なのさ」


 ひらりと手を振る彼の笑顔は、紛れもなく拒絶の意志だ。それを理解してなお立ちすくむのは、待ちたいからだ。

 まだ、なんにも返してないのに――……。

 自分はきっと、泣きそうな顔をしているだろう。さとい彼は、とっくに気づいているだろうに。


「迎えてくれるヒトがいるなら、君はこんな場所にいちゃいけない」


 細められた紺碧こんぺき双眸そうぼうが、どこまでも鮮やかな空に似て、ひどく遠い。

 ぐ、と手のひらで涙を拭って背を向ける。

 いってらっしゃい、と。

 遠ざかる川岸から水音に紛れ、ささやかれた声が、聞えた気がした。




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 掲示板交流が主流で、文字制限があった頃の。

 当時は約300字から500字くらいが、ガラケー向けだったでしょうか。


 登場キャラの名前は明記していませんが、わかる方にはわかるかと思います。こんなこと言う「紺碧の双眸」なんて、奴しかいないですね。

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