偽物の絶望

 「…………ん????」


 思わず2度見どころか3度見くらいしてしまった。


 いや、まあ確かに自分はそんなこと言うやつだけど…まあそれは置いといて…




 「なんで3分前に呟いているんだ…?」


 そう、明らかに自分は3分以上の時間をこの白い空間で費やしていたし、検査前なのでラーメンもしばらく食べていなかったはずだ。


 呟けるはずがない。




 「そうだ、日付はどうなっている…?」


 ツイートした日時を確認すれば、検査からどれくらいたっているかわかるはずだ。


 急いで日付を確認する。




 「えーっと、検査から3日後!?」


 なんと、自分が記憶を失ってから3日間が経っていたのだ。




 「嘘だろ…」


 だとするとあの白い空間に3日間も閉じ込められていたというのか。


 しかも飲まず食わずで。




 「…ん?飲まず食わず?」


 そう、僕はずっと飲まず食わずで過ごしていた。


 しかも腹も空かすことなく、喉の渇きも覚えなかった。


 そして、そのことに今まで何の疑問も抱いていなかったのだ。




 「どういうことだ…?」


 混乱しながら、自分のアカウントのツイートを遡る。


 そしてついに3日前のツイートへとたどり着いた。






 「人生初のMRI緊張したなあ、まだ結果出てないけどなんもないでしょ。」




 僕は絶望した。






 「嘘だろ…?まぎれもなくこれを呟いたのは僕だ。じゃあ、今ここにいる僕はなんだ…?」




 「飲み食いもせず、それで起こる不具合もない。異世界でもなさそうだけど、明らかに現実世界とも思えない空間にいる僕はいったい何者なんだ…?」




 「どういうことだ。自分が偽物なら何か破綻してるはずだけど、はっきりと今まで生きてきたことは覚えているし、感情もある。幻覚にしたって、こんなにはっきりとしたものは見えないはず…」


 そこでふと昔読んだライトノベルのワンシーンが頭をよぎった。


 


 「まさか、魂をコピーしたっていうのか…?」


 自分が今立たされている状況や、それに対して抱く絶望感は、まさしくかつて読んだ物語の場面そのものだった。


 技術的にできるのかは知らないが、いや今ここにいるからできるのだろうが、何にせよ、それがぴったりと今の状況に当てはまってしまった。




 「はは…ははは…は…」


 まだ、自分の思考回路を読み取られて、本物の自分が別にいるように感じる、ツイートの画面を目の前で生み出されていると言われた方がよかった。


 ただ、どうにもそんな風には思えない。


 この白い空間にどうやって、自分を閉じ込められるのか説明できないからだ。


 結局、魂をコピーされて、自分は偽物だと言われた方が理解できた。理解できてしまった。




 「僕も消えるんだろうか…?」


 ラノベでは偽物の魂は、自分が偽物であると認識し、バグって自壊してしまったはずだ。


 確かに深い絶望感にさらされてはいるが、今のところ思考回路が焼けきれそうな感じはしない。


 そのうち耐えきれなくなって自壊するのだろうか。


 だとしたら、この状況を生み出した人は相当たちが悪い。




 「あ…」


 あてもなく、この3日間のツイートをスクロールしていたら、急にログアウトさせられた。


 きっと本物の自分が不正なアクセスだとしてブロックしたんだろう。


 パスワードも変更されたようだった。


 余計にそのことが自分を偽物だと認識させて、悲しかった。

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