結/のじゃ姫の大団円




「皆は無事なのか? って寝てんじゃん!」



 そこではスースーと安らかな寝息が聞こえてくる。


 親切設計で安眠枕もセットされていた。



「ふぅ。どうやら命に別状は無いようですね」



 そのソーヤのセリフにクワッと目を見開ぎながらロキソが叫んだ。



「当たり前やろ。必要なのは乙女のヨダレだけや! しかも、よう眠れてヨダレを垂れさせる為に特製の低反発マクラを提供しとる」



「うわぁ変態だ、変態がいる! お巡りさーーん!」



「ち、違うねんて。そーゆー設定やねん。ワイの趣味やあらへんわ……コホン、気を取り直して……そしてワイは邪神を呼び出してこの世界の〇ーゲン〇ッツを全部我が物にするんや!」



「あーそうね、態々の説明あんがとさん。てか野望小さくね? でもまあこれ以上はさせないぜ?」



 ソーヤは腰から呪紋短刀を引き抜くと構えを取る。



「クックックッ。そうはいかんのだよ明智君! ロック“ビ”ゴーレム。君に決めた!」



「その発言は禁止ーーっ!」



「フッ、だがことわる!」



 左手で顔を覆う奇妙でいてスタイリッシュな格好のまま、何かが封印されていそうな赤白の球を投げる。


 ボワンと煙が上がり巨大なゴーレムが姿を見せた。



『グォォォ!』



 六つの首がそれぞれ叫び声を上げてソーヤを襲いかかろうとする。



「くそっ! ロック“ビ”ゴーレムって六つの首を持った土のゴーレムの事かよ。って石じゃないんかい!」



「クククッ。石やのーてもその重量は〇鵬数十人分に匹敵するで!」



「マ、マジか! ……って重くて動けないじゃん」



 が――そうなのである。胴体の太さに比べ圧倒的に六つの首が大きすぎて、殆ど身動きが取れずにいたのだ。



「し、しまったぁ! ワイはポケっと門スターターキットの情報に騙されてもーた」



「いやなんか混じっててギリギリだから!」



「こやつ……バカじゃの」



「関西人にそれはあかん。言うならアホと呼ぶんや! さぁりぴーとあふたーみー。せーの『アッホ』!!」



「ア、アッホ! くぅ、関西ネタはよう分らんのじゃ」



「いや、そんな問題じゃないでしょうが! 姫さん!」



「しかし……王宮の礼儀作法では返答するのが当然と習ったのじゃよ」



「だから今はそんな事どうだっていいでしょうが!」



「もぅおそぉぃわぃ! その隙にワイは魔法陣を起動や! ポチッとな」



 ロキソは手に持っていた機械のドクロのボタンを高らかに押した。



「くっ、しまったぁぁ! ワラワがいながらこうも易々と!」



「押したドクロのボタンも気になりますが、姫さん! アンタ叫んだだけで何もやってないじゃん!」



 地面に描かれていた魔方陣から禍々しい漆黒の光を溢れ出す。


 その中央には一人の魔族と思われる少女が抱き枕に抱きしめられつつ、眠そうに目を擦っていた。



「き、君は…」



 ソーヤが恐る恐る幼女に血が付きながら声を掛ける。



「うん? わたしゅの~ふぁ~~なみゃえは~~じゃしーんクラメンテだよ~~ふわぁぁぁぁぁ……」



「なっ邪神を召喚させたのか? くっ、ここは、そやさんや、れいさんや、少し懲らしめて……いや、優しく起こしてやるのじゃ!」



「洗濯物を干さなくてはいけないので帰ります」



「あっ、うん。ソダネ」



「ちょ、姫さん。いいのかよ! 世界の危機だぜ!」



 ソーヤはフェルシアの言葉に戸惑いを隠せずにいる。


 その間に邪神クラメンテは漸く抱き枕から解除され、その身をゆっくりと起き上がらせた。



「ふわぁぁぁぁ……眠い」



「お、おぉぉぉっっ!!! よくぞ目を覚まされた! さあワイに世界を与えるんや!」


「めんどい、勝手にやって」



「な、ならばワイに世界を牛耳る力を」


「あい。魔王を復活さしたげたよ」



「そっ…………」


「もう還る! …ネムネム……」



 その声と共に魔方陣の光は薄れていき、邪神もろともその姿を消した。


 辺りに沈黙が満ち満ちていた。



「で、魔王は何処に?」



「えーっと……知らん。わやや! もうわやや!」



 トテトテとロキソの前にフェルシアが近寄って行った。



「フッフッフッ。これだけの騒ぎを起こしたのじゃ、覚悟はできておろう? いざ爆発魔法じゃぁぁぁ!」



 フェルシアの前に巨大な円球がプラズマを帯電しながら渦を巻いている。



「あかん。それはホンマにあかんヤツやん」



 顔面蒼白でロキソがそう呟いた。



「飛んでくのじゃ!」



「あベノみーークーーすぅーーっ! くそぉ、お・ぼ・え・て・ろ・ぉぉぉぉぉ!」



 ズゴンと言う音と共に大爆発を起こしたロキソが、屋根を貫いて絶叫を上げながら空の彼方に飛んで行った。


 キランと星が輝いていた。



「うむ。これで悪の芽は断たれたのじゃ!」



 ウムウムと何度も頷きながら満面の笑みでそう言い放ったフェルシアに、ソーヤは大きく肩を落とした。



「はぁ。これも一件落着になるのかねぇ」





 連れ去られていた娘達は無事に保護され、それぞれの家へと帰って行った。


 この騒動を聞いた王都の人々は口々に王女を褒め称えた。


 そして、王都の一角を爆破した事で、周囲の建物三棟が全焼した事件を聞いた宰相ナーガンの毛根は酷いダメージをおったとか。



「おおっ髪よ! 失われし聖髪に祝福を!」



 全て世は事もなし





おしまい

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のじゃ姫の世直し漫遊譚 鳥野29音 @torino29ne

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