ROUTE16 みゆりちゃんに、会いたい

 ケンタが目を覚ますと、何か騒々しい音が聞こえ、何頭かの犬が吠え立てている。


 ケンタがいるのは、昼でも薄暗い狭い小屋の中。慣れないにおいを感じて、壁のすき間から外をうかがってみた。


 車が何台もやってくる。来た順に近くに止められ、中からたくさんの人がやってくる。


 ケンタは怖くなって縮こまった。また、ぼくやほかの犬たちにひどいことをするの?


 でも。弱った鼻を小さくひくつかせると、とても「大好きなにおい」が混じっているのに気がついた。


 みゆりちゃんだ! かいくんもいる!


 ふらつく脚を持ち上げて、ケンタは声を上げた。


 小屋の外から、懐かしい声が聞こえる。


「ケンター!!」



  ◇ ◇ ◇



 甲斐かい折賀おりがの「バイト先」が、総力を挙げてケンタの居場所を捜し出した。


 彼らは、普段はまったく別のものを捜すために世界中に張り巡らされた情報網を駆使している。その情報網が、一頭の小犬を捜し出すために惜しげもなく使われた。


 ケンタと他の犬たちは、無事に飼育崩壊現場からレスキューされた。


 動きたがらない犬もいるので時間がかかったが、やがてすべての犬が車に乗せられ、病院へ運ばれた。


 このあと犬たちは、メディカルチェックを受け、必要なワクチンを接種し、避妊手術を受ける。そのあとでようやく、「新しい家族探し」が始まる。




 甲斐と折賀は、みゆりの腕に抱かれたケンタを満足そうに見つめていた。


 甲斐にはもう、ケンタの言葉はわからない。この先それを聞いてあげるのは、新しい家族であるみゆりの役目。


「俺にはたまたまケンタの気持ちがわかったけど、本当は動物の気持ちを正確に理解することなんてできないんだよな」


 甲斐がそばにいる連れに向かってつぶやく。


「人間に大事にされて幸せそう、って思うのはあくまで人間側の視点で、本当は動物たちがその生き方を選んだわけじゃない。人間社会の都合に押し込めていることに、変わりはないんだ」


『それでも人間とともに生きてくれる動物に、感謝の心を忘れてはいけないな』


 精霊・黒鶴くろづるが、甲斐だけに見えるあでやかな微笑みで締めくくった。



●・○・●・○・●・○・●・○・●・○



【さいごのごほうび! どちらか選んでね!】


◆⇒ROUTE17 みんなでお外遊び

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897258509


◆⇒ROUTE18 みやちゃんの手作りおもちゃ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897258518

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