ROUTE15 「セレ」と「ケンタ」のみちすじ

【セレのみちすじ】


 メスの柴犬、セレは迷い犬だった。


 ふらふらと街をさまよい、気がつくと知らない家へ連れていかれていた。


 正確には、家の横にある狭い敷地を申し訳程度に囲んでいる、ボロボロのスチール・ケージの中に。


 その中では、セレとよく似た小型犬が五頭から十頭、何度も頭数を変動させながら生きながらえていた。


 どこかから連れてこられる犬。外に出されることもなく、狭いケージ内をうろうろするしかない犬。とても十分とは言えない餌と水で飢えをしのぎ、爪は伸び、耳垢みみあかがたまり、歯と顎骨がっこつが日増しにボロボロになっていく。


 いわゆる「多頭飼育崩壊現場」だった。


 ある日、大きな地震があった。


 不安げにうずくまる犬、キャンキャンと吠えたてる犬の横で、セレはケージの鍵がわずかにゆるんでいるのを見つけた。その個所に何度か体をぶつけると、奇跡的に、扉が開いた。


 怖がって外へ出ようとしない仲間たちを置いて、セレはケンタだけをともなって外へ出た。



【ケンタのみちすじ】


 ケンタは六ヶ月前に生まれた。


 違う場所から連れてこられたのか、この家で生まれたのか、今となってはわからない。


 わかっているのは、ある日セレに連れられて一緒にケージから出たこと。


 セレはケンタを守った。ともに歩きながら、手に入れたわずかな食料はケンタにゆずり、夜はケンタを包むようにして眠った。


 突然飛び出してきたバイクからも、ケンタを守った。怪我を負ったセレは誰かの手によって動物病院へ運び込まれ、ケンタはひとりぼっちになった。


 近くの小学校に迷い込んで、そこでみゆりや子供たちと出会う。たくさんの笑顔に包まれた、幸せな時間。


 ある日、大きな地震が起きた。そのときケンタは、セレと過ごした狭いケージのことを思い出した。


 あそこへ戻れば、またセレと会えるだろうか。


 ケージの場所を求めてさまよった。突然、誰かにつかまれ、車に乗せられ、遠い場所へ連れてこられた。


 ケンタはまた、どことも知れない狭いケージの中にいる。


 力を失くしてまどろむケンタに、どこからか、セレの意志が語りかける。


 あなたの体は、少しの間わたしが預かってあげる。


 だからあなたは、この小さな体から抜け出して、あなたを大切にしてくれる人を捜しておいで。




 セレは目を覚ました。


 次は、ケンタが目を覚ます番。



●・○・●・○・●・○・●・○・●・○


つぎは

⇒ROUTE16 みゆりちゃんに、会いたい

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897258497

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