概要
人付き合いは不得意、仕事へのモチベーションも低く、パッとしない見た目で、将来の夢も展望もなし。もちろん、恋人などできたことはない。
有名大学卒業という学歴だけをただひとつの誇りとして漫然と日々を流してゆく彼の生き方は、たいそう哀れなものに違いない。
それでも、毎日、懸命に生きている。
傍からみればくだらないことを気に病み、くだらないことに全力を注ぎながら。自分なりの幸福を掴むために。
穏やかな日常のなかに潜む多様な感情を事細かに、かつ赤裸々に掘り起こした意欲作。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!誰がなんと言おうと、これをしてるときが幸せだって言いたい
皆さんにとっての幸せは何だろうか。
百個以上コレクションした、ペットボトルや空き瓶のキャップを机に並べて悦に浸ることだろうか。
僕がこんな事を言うと、大抵は白眼視するか、鼻で一笑に付すだろう。
だけれども、一見すると取るに足らないこの趣味は、おそらく誰かの幸福なのだ。
僕がこの作品を二周したとき、そういえば最近、寝る前に「いい一日だった」と思えたのはいつだっけ? と自問した。
この物語の主人公、悦弥に恋人はいない。介護の職場で、夜中に大声を出す厄介な患者と日々格闘している。昼時のカレー屋で見かける美男美女のカップルを見るたびにやるせない気持ちになり、職場の上司の不適格さに違和感を覚え…続きを読む - ★★★ Excellent!!!非リア充の日常系
読者に負担を掛けない平易な文章でありながら、格調は落とさない。
おそらくアマチュア作家のなかでは上位数パーセントに入る文章力の持ち主であると言って良いだろう。
その典雅な文章で語られるのは、さぞかしシャレオツーな男女がバスタでも茹でながら「やれやれ」などと詠嘆し交尾……じゃない、愛を確かめあったりするリア充の生活なのだろうと普通は思う。
ところがである。なぜか文章とは不釣り合いな非リア充の生活が描写されていく。
喩えるなら、小田和正の美しい声で嘉門達夫を唄われたら感じるであろう不思議な感覚である。
私は書き手としても読み手としても、あくまでも虚構性を強調した作品を志向している…続きを読む - ★★★ Excellent!!!確かな、そして好ましい変化と深化
時系列では半笑いの情熱に続く2作目になるのでしょうか?
大学を卒業し、二十代後半に入った主人公の日常を描いた物語です。どこか世の中を斜めに見ていつつも、斜に構えたところがあるのは相変わらずですが、一人称で書かれた彼の心情には、小学生時代にあった小賢しさがなくなり、成長、進歩からくる変化を感じさせられます。
灰汁だと思っていた部分が人格の深みに変わったような、そんな人柄を感じられました。
変に格好つける事のない点、隠してしまいたい事も赤裸々に書ける所に、この物語に登場する人物が、皆、現実に生きているようなリアルな魅力を与えているように思えます。
リアリティがあり、本来、相反す…続きを読む