半笑いの幸福
サンダルウッド
2018年4月26日(木)
昼
第1話「愉快な情景」
インターフォンを押しても反応はなかった。
ジーンズのポケットから鍵を取り出し、鍵穴に挿入する。ガチャッという無機質な音が、眠気と疲労でふわついた脳を刺激する。
母は、リヴィングのソファーに転がっていた。
その横のダイニングテーブルには、空になったウォッカの瓶とショットグラスが同様にして乱雑に転がっている。グラスに数口ぶん残っていた――と推察される――ウォッカが、オーク材の滑らかな
真っ黒なショートパンツからは、
自室に入って荷物を置き、ジーンズを脱いでハンガーにかけ、
再びリヴィングを通って奥の脱衣場に行き、衣類を置いた。
手洗いとうがいをしたあと、服を脱いで洗濯機に入れ、アリエールのキャップに手をかける。しかし容易に動かず、外れたかと思えば根もとからまとめて取れてしまうというのは、なにも今回に限ったことではなかった。前回使ったときにきつく締めすぎたのかもしれないが、それ以上に、昨日の夕方から今朝にかけての闘いにより体力を消耗したことが主たる要因だろう。
液体洗剤の分量にはこだわりたい
今回の夜勤は過酷だったなと、私は中途半端な熱さのシャワーで洗髪をしながら思う。
滞在利用者数が五名や六名の福祉施設など、日本中を回ってもほとんど存在しないだろう。あれこれ
だが、しんどいものはしんどいのだ。今の施設しか経験のない私には、昨夜から今朝の十数時間は充分過ぎるほどの地獄だった。
手に力が入らないだけでなく、腕や足も疲労していた。多大な外傷や通院の必要こそないものの、
二十分ほど、上から下まで念入りに洗って浴室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます