エピローグ

 魔王討伐後の世界を襲った脅威。

 その脅威から世界を救ったのは、皮肉なことに、魔王だった。この歴史は、不都合な真実として隠蔽され、後の世に語り継がれることはなかった。


◇◇◇


「元の世界へは、戻らないのですか?」

 サレスの邸宅。草花豊かな屋上でクレアが尋ねる。緑化の進んだ屋上は、色とりどりの花が咲き、華やかな光景を演出している。

「はい」と美月が頷く。そして、美月はこう続ける。「魔力配達の続けて、この世界の役に立ちたいと思います」

 硬かったクレアの表情が、一気にやわらぐ。

「ありがとう。嬉しいわ」

「まあ、俺は、転生した身だし。なんつうか、ここで働かせて下さい! って感じだけどね」

 そう話すのは、転生者の翔だ。

「はい、もちろんです。翔には、アランの代わりになってもらわないといけません」

「いや俺、あんな強くないっすよ」

「大丈夫です。一緒に、修行しましょう」

 ええー修行ー、と大げさに叫ぶ翔の姿に、クレアと美月は、顔を見合わせ、笑い合った。


◇◇◇


 最強の力を手に入れた魔王ダンテ。

 彼は、大いなる力の危険性を、十分に理解していた。

 そして、魔王を信頼しこの世を去った勇者を裏切らないためにも、彼のやるべきことは決まっていた。

 魔王はたった一言だけ女神に言い残し、忽然こつぜんと姿を消した。

「エウロパを頼む」と。


◇◇◇


「エウロパ殿」

 謁見の間、だった場所で、女神の声が響く。王宮は全壊し、天井には、青空が広がっていた。それは、ジュピター四天王との戦いが、かくも壮絶だったことを物語っている。

「あなたは、先の危機において、暴走し、この世界を滅亡へと――」

「半分はおばちゃんのせいだよ?」

 エウロパが女神の言葉を遮る。

「お黙りなさい。あと、おばちゃんはやめなさい」

「はーい」

「はい、素直ですね」と言いながら、女神がほほ笑む。二人のやり取りは、保育士せんせいと園児のようだ。

「おほん」と、女神が咳払いをし、仕切りなおす。

「よいですか。この世界が、より一層、滅茶苦茶になってしまったのは……、ええ確かに私の責任も多分にあるでしょうが、あなたにもその一端はあるはずです。そうです。この王宮なども、ぶっ壊したのは、あなたのお仲間なのですからね」

「うーん」と上半身を横に折り曲げるエウロパ。納得がいっていないのか、それとも、言葉が難しくてわからないのか。

 そんな様子のエウロパを無視して、女神が続ける。

「あなたは無邪気過ぎます。もう少し大人にならないといけません。なので、例に漏れず、これから魔力配達を命じます」

「めいじます?」

「魔力を配達するのです。もちろん一人ではありませんよ。彼女らと行動を共にし、様々なことを学ぶのです。いいですね」

「はーい」

「はい。お利巧ですね」と女神がまたしてもほほ笑む。

 元気な姿のエウロパに、美しい天使が近づく。

 不意に、エウロパが疑問を投げかける。

「ダンテとアランも一緒?」

 女神が、表情を曇らせる。エウロパの隣にやってきた天使も、顔を伏せる。

「二人は、遠くであなたを見守っています。いつも、あなたのそばに、いるはずです」 

 女神の無理に作った笑顔が、はかない。

「会えないの?」と聞く、エウロパは目をぱちくりさせている。

「いいえ。会えます。きっと、会えます」と女神がいい、誰にも聞こえないような小さな声で、こう続けた。「死んだわけではないのですからね」

「うん!」と元気に返事をするエウロパの声が、その場に流れてた悲しい雰囲気を払拭する。

 その明るさに励まされ、女神も天使も、顔がほころびる。

 そうしてエウロパは、天使に手を引かれ、女神の元を後にした。

 女神の目には、エウロパのそばに立つ、魔王ダンテルビを入力…と勇者アランルビを入力…の雄姿が、映っていた。

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魔王の魔力宅配便 朝山力一 @mazenta

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