第2章:アイカとリウノリと自分(機動人間)と自分(人間)

アイカ、散る花の中で

カシュフォーン記念財団(1)ヒューマノイド”アイカ”

「1,2,3,4……」

「5,6,7,8……」

 平日の夕方。どこの高校でも見られる、部活動の風景。グラウンドや校舎周辺をランニングする、スポーツウェア姿の学生たち。

「1,2,3,4……」

 いくつめかの運動部の女子たちが、数名ずつで軽やかに通り過ぎる。--集団の後方にいる少女も同様に。

 ただ、その少女の瞳には--人間のそれとは違う--緻密なワイヤフレームの景色が写っていた--。



 人間ってとても大変だ。

 こんなにたくさんの情報を目から入力して処理しているのって。

 1,2,3,4……の掛け声を繰り返す--というジョブをで流しながら、バックグラウンドでその少女は思考ルーチンを巡らせる。

 高校の校舎、ランニングロード、グラウンド。グラウンド全周400メートル。陸上部2年生チーム。インターハイを目指す。100メートル走の選手として私は出場予定だ。11秒を切ると世界レベルだそうだ--

「こんなところでお前の力を見せてしまっては」

 そう、あの人も言っていた。

「本当の目的には近づけないからな」

 私を、あの人は。


「おーい、はやしー」

 音声分析、コーチの声。この時は返事をする。一瞬で処理し、手を挙げて応える。

「はい、コーチ」

「お兄さんが迎えに来てるぞ。用事があるそうだ。今日は帰りなさい」

 。高校の関係者にはそう認識されている。


 カバンに制服を詰めて、ランニングウェアの上にジャージを通して、私は校門をくぐる。そばのコインパーキングの自販機で、タバコをふかすがいた。熱源反応。

「博士」

「お兄さんって呼ばれる方が気に入ってるけどな」

 人間の男性、40歳程度だと本人は言う。兄弟姉妹の年齢差としては、平均値内には無いと認識している。ましてやこの人は私の。

「ちょっといいクォーツが手に入ったんで--もらえないか」

「わがまま」

「は?」

 博士の口元から煙が吹く。有害物質反応。

「先日現代文の講義のときに、便利かと思い辞書を深層解析しました」

「そんなところにメモリ使わないで……アイカ」


 この長身の男性こそが、はやし 明羅あきらである。






 ジャージ姿の少女と、長身の男性は、ほどなくして車で高速道路をとばし--郊外の研究施設に向かった。その施設の入り口には、特段の表示はなかった--。


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