カシュフォーン記念財団(2)ヒューマノイド”アイカ”-2

 はやし 歩為花アイカ、それがわたしにつけられた名前ラベルだ。


 人間のよりよい未来のために作られたヒューマノイドは、世界各国で研究が重ねられている。腕や足だけ、頭部だけといった検証から、わたしのように実際の人間の生活をさせるといったものまで。


 人間は感情パターンが非常に多く、さらにその発動タイミングもランダムだ。目や耳からの情報処理タイミングさえ、まだ分析しきれていない。

 わたしのはやし 明羅あきらも、新しいアルゴリズムパーツの『クオーツ』と呼ばれる小石の大きさのガラス状多面体や、【バトルモード】のために装着するアーマーとの接合パーツが手に入るたびには、予想パターンにあてはまらないことが多い。



 メンテナンスルームに、虹彩認証で通過し、わたしはすぐに、クオーツが入っている首の後ろ--が見えるように髪の毛を束ねた。

 背面カメラの画像が投影される。『わくわく』した様子の博士が、小箱から取り出した『クォーツ』、今回は赤い12面体のダイス(賽子)のかたちをしていた。

「記憶書き込みは終わってるか?」

「はい」

 わたしが私の存在を認識してから、これまでの記憶メモリは消去されていない。それは、定期的に、あるいは任意で、を行っているからだ。リアルタイムに処理をするところは人間のそれほど完成していない。突然私の動力が途切れたりしたら、過去に記憶したから先の記録は、全て消えてしまう。


「じゃあ、また後で」

 返事をしたかどうかは、不明である。


 ……次にわたしが『再起動』したとき、わたしは『ぼうっと』した感覚で、外部の映像と音声の入力を再開した。バックグラウンドで、定期的なステータスチェックを走らせる。



「どう?」

「『ぼんやり』します」

「あと、新しいも試してほしいんだけど?」

 研究所の中庭でへの道筋は、林博士に手を借りた。重力操作はできているが、平衡感覚に『違和感』。そのデータも、短いスパンで書き込みをしておく。

 わたしのような人間に姿を近づけたものたちは、【バトルモード】のときは別途装備を身につける。現代で言う『剣道の小手』がひじまで伸びたものや、『スキーのブーツ』のようなものを手足に装着する。

 このとき駆動によって装備が外れないために、腕や足の表面から、接合パーツを取り出しておく。

 パキパキとバトルスーツを装着した。右腕のそれは、前のものよりも、より赤く塗られていた。


「OK、アイカいまの気分は?」

「再起動前よりは、不安定です。ステータスチェックを、フォアグラウンドに戻しますか?」

「ちょっと見てみようか」

 左わきにあるコネクターに、旧型のシリアル・ケーブルをつないで、博士は自分のラップトップ(ノートパソコン)で、記録をざっとながめた。

「うーん、カーネルレベルのログが無いなぁ」

 まだまだ、ヒューマノイドの活動研究も未知の事柄が多い。たまに博士が呟くことである。

「書き込みして。腕を試しましょうか」

「はい」

「あ、今回の装備はまあまあ電源を食うんで、稼働可能時間は3分から4分。アラートが出たら、【バトルモード】を止めていい」

「了解しました」

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