第4話 大事なことが書いてあるんです

  ここに書いていることは、大方(おおかた)において昔のことが中心であるのだが、これから書こうとするのは、珍しく最近の出来事である。最近、というか昨日遭ったことだ。

(ちなみに、予約投稿機能を使っているので若干のタイムラグがある)


 GW連休最終日。観たかった映画のレイト・ショーに行き、入手困難だと噂されているパンフレットも手に入れられて、満足して私は帰路についた。

 夜は、雨が降るかもしれない、という予報だった。

 折り畳み傘をバッグから出して、私は駅の構内から階段を駆け上がった。と、駅の出入り口に人影が一つ、ぼうっとあることに気が付いた。

 視線をやると、赤い帽子を被った老婆が、こちらを見ていた。

 その目には何か助けを求めるような色があって、私は老婆に近づいた。ここらへんはちょっと特殊な地理構造をしていて、道に迷う人が多い。老婆もそんな迷い人の一人かと、そのときの私は思ったのだ。

 「どうしました?」

 私が声をかけると、老婆は嬉しそうな顔をして、長三ぐらいの大きさの茶封筒を懐から取り出した。

 そして、それを私に差し出しながら、「受け取ってください」と言った。

 茶封筒は全くの無地で、それなりに厚みがあった。

 私は困惑して老婆を見た。老婆は続けて言った。


 「大事なことが書いてあるんです」


 私は「いえ……すみません」と言って差し出された茶封筒を受け取らず、慌てて、踵を返した。

 信号でいったん来た道を振り返ると、赤い帽子を被った老婆はまだ私を見ていた。


 それを見た私は、ぞうっとして、小走りで家に帰った。


 帰宅して、カクヨムのコメントボックスを開くと、一話で書いた

「バス停で佇む軍人さん」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889335900/episodes/1177354054889336238

の話にコメントを下さっている方がいた。


 そこに『シュレーディンガーの軍人さん』という一語を見た。


 シュレーディンガーといえば『シュレーディンガーの猫』だ。

 やや乱暴に解説すると、1/2の確率で『生きている猫』か『死んでいる猫』が箱の中に入っているとしたら、そのどちらが入ってるかは箱を開けて検証してみるまで分からない。箱が閉じている状態のままだと、確率論として、生きている猫と死んでいる猫が50%の確率で重ね合わせで存在している、ということになる。


 つまり私が見た軍人の格好をした人が、

本物の軍人(幽霊)なのか、サバゲーなどで軍人に模した服装をした人なのかどうかは、実際に私が検証しなかったため、永遠にわからない、とうことだ。


 コメントを下さった方は、さらに「それをサバゲーの人だと思い込む(認識する)のは、とても正しい行動である」と肯定してくださっている。


 私は臆病者なので、正直『あちら側』に触れるのがとても怖い。


 ただ、もし、あの軍人のようなものに話しかけてみたら……?

 老婆から封筒を受け取っていたら……?


 一体自分は、どうなったか。

 どんな世界が広がったのか。


 ほんのわずかだが興味はあるのも否めないのだ。

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