チャンネルが全部開いてるらしい私が見聞きしたこと

福倉 真世

第1話 バス停に佇む軍人さん

 病院からの帰り道。とあるバス・ターミナルから、終点である車庫に向かうバスに私は乗った。

 当時住んでいた家は駅近ではなかったけれど、代わりにバスの車庫が近かったのだ。うちを訪ねる人たちからは不便がられていたけれど、慣れるとバスも悪くないものだ。座席もゆったりしているし、一日券を買えばいろんなところを巡れる。

 その日は六月の初めで空はどんより曇っていた。雨が降りそうで降らない。肌寒いような、でも上着を着ていたら着ていたで、むしむしするような、そんな日だった。


 私は携帯電話(当時はスマホではなく二つ折りの携帯電話が主流だった)を弄るのにも飽きて、窓の外に目を向けた。

 バスの中、乗客はほとんどおらず、ほぼほぼ貸し切り状態だった。平日だし、時刻も午後十五時ぐらい。学生は学校でまだ勉強中だろうし、勤め人も仕事中のはず。

 私は当時、ホワイトな職場に勤めていて、通院だと言えば容易く月一回の有給がもぎとれた。(忙しい時期は半日休をとって午前中だけ仕事をして午後、通院する、という手もあった)

 通院のためとはいえ、休みというのはいいものだ、と窓の外を過行く街並みを見ながら思った。

 バスは蛇行し、大きな公園の横を通った。ここらへんは都内だが、桜の名所でもある公園に面する道は街路樹も沢山あって、緑が目に飛び込んできた。

 「次は〇〇公園前」と、フロントパネルに表示されたとき、わたしはつと、バス停に目をやった。誰かいる、と思ったと同時に息を呑んだ。


 くすんだ色のヘルメットを目深に被り、緑色と茶色の中間色をしたつなぎを着ている男性が銃のような長細く大きいものを持ってバスを待つようにバス停の横に立っていた。


 彼の目は、ヘルメットが邪魔して、見えなかった。ヘルメットがあってよかったと思った。唇が寒そうな紫色をしていたのは見えた。


 バスが止まって、この怪しい人を乗せたらどうしようかと思ったが、バスは何も反応せず、さーっとバス停を通り過ぎた。


私はほっとして……心の中で三回唱えた。


大丈夫、きっとサバゲーの人。

大丈夫、きっとサバゲーの人。

大丈夫、きっとサバゲーの人。


軍人じゃない。

軍人じゃない。

軍人じゃなくて、きっとサバゲーの人。

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