第2話 空のベビーカーに話しかける男女

 その日、私は家から歩いて15分ぐらいのところにあるショッピングモールに居た。

 スーパー、というよりは大きく、かといって商業施設か、と問われると小さいそのモールは、本屋も入っているし、フードコートもあるし、クリニックもいくつか入っていて、一日は無理でも、まあ半日ぐらいなら時間がつぶせる作りになっている。

駐車場を除けば、二階建てのそのモールをぶらぶら歩いていたら、前方にベビーカーを押しているカップルがいることに気が付いた。

 「可愛いねえ」

 「うん、本当に可愛い。天使だわ」

 仲良さそうだなあ、旦那さんが沢山荷物を持っているのもポイント高いなあ、なんて思いながら、二人の後ろ姿を見ていた。

 二人は二階と一階を繋ぐ、スロープ式のエスカレーターにベビーカーと供に乗り込んだ。エスカレーターで歩いてはいけない、と言われるが、片側が空いていたので、私はつい習慣で二人を追い抜くようにエスカレーターを下っていった。

 そして、なんとなくベビーカーの中に視線をやって、目を疑った。

 そこはタオルケットが敷いてあったが、肝心の赤ん坊がおらず、空っぽだった。

 きっと私が気が付かないうちに抱き上げたんだ、と思いたかったが、それを否定するかのような声が降ってきた。

 「よく寝てるね」

 「助かるね」

 はっと顔をあげるとカップル二人の視線は確かに空のはずのベビーカーの中身(?)を捉えている。赤ん坊を抱き上げた様子も、背中に背負った様子もない。そもそも抱っこ紐? ベビースリング? そのようなものを一切持っている様子がないのだ。

 愛おしげに何もない虚空を見つめる二人……私はぞっとする、というより、何か居たたまれない気持ちになってそのままずんずんエスカレーターを下っていった。

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