生と死の歌

書き出しから素晴らしい表現である。パレードのような息子の足取りに対して、葬列を歩むかのような母親の足取り。この対句表現だけでもクラリと惹かれるものがある。「生」に対して「死」を照らし合わせている。そのシルエットが美しい。

生きることに貪欲までにひたむきな息子に対して、死ぬことに知らずに囚われつつある母親の構図が徹底されている構図が素晴らしいと感じた。

この世を全身全霊を傾けて生きる息子はーー多弁ではあるものの、この物語の主人公ではないだろう。むしろ死を見つめる寡黙な母親の一挙手一投足にドラマを感じさせる。息子が躍動的に行動することにより、母親の内省的な思考が際立ち、小説の根幹となるテーマを読み手にヒシヒシと訴えているようだった。

この物語は「生と死」の歌なのだ。灯が明るいほど影は濃くなっていく。陰影の美を唱えた詩といっても良い。この構想に酔わないわけにはいくまい。現代社会における教育制度という問題を通して、壮大な交奏曲に耳を傾けているような感覚を抱いた。

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