涙も出ない悲しみ。

 懸命に主題の分析と統合を試みようとしているところが素晴らしいと思う。「泣く」という行為をとことんまで突き詰めて、そこからネガティヴな解答ではなく、一握りのポジティヴ(或いは希望)を掬い取ろうという作者様の人間賛美の声が聞こえてくるようである。
 どこまでも内側に沈んでいくような内省的な内容に心を打たれた。それは危険なほど内側に沈んでいくのである。暗いところはいくらでも見つけられる。しかし、仄かに明るい要素を見出そうとする作者様の苦労が垣間見える作品だと思う。
 また、現実の中に微かに込められた幻想的な描写にも注目したい。素敵な構図である。まるで一葉の写真のようにまざまざと想像できる。「泣き虫の庭」というタイトルに相応しい情景描写だと思う。これはある種の寓意物語なのだろう。
 「泣く」という行為は立派な感情表現であり。他者との繋がりを心から恋願う動作なのである。他者に無関心な者は、そもそも涙など流さないものなのだ。しかし、それを理解できない主人公を取り囲む人間たちの愚かさを憎んではならない。そして、彼女はまた「泣く」のである。渾身の力で涙を流すのである。その姿は健気で美しい。少なくとも、私はそう思った。