出逢ったから… 5

 黄昏刻の川端三条。

 そろそろ星が瞬いている。

 何処かから、猫の啼く声が聞こえたかも知れない。

 三条大橋の橋の下で、一人の少女が消えるのに気付いた人はいなかった。



 鴨川の向こう、西の空を見上げていたその少女──中里宏枝は、一度しゃくりあげるように肩を震わすと、音もなく消えた。

 彼女のいた橋脚と橋台の間のアスファルトには、はらりと、布切れの落ちる気配だけが残る。

 アスファルトの上の、男物のハンカチ。


 丁寧にたたまれたそれを、女の白い手が拾い上げる。

 女は、そのどこか猫を想わせる目を伏せ、掌のハンカチを見つめた。

 折った膝の上で、表情もなく、そっと吐いた小さなため息。

 つと顔を上げ、少女の見上げた空の同じ星を見て云った。


「これが終わりというのじゃ、あんまりでしょ……かみさま?」


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