出逢ったから… 4

 これで、終わり……。


 通りの先に、宮崎くんの姿が消えて、見えなくなった。

 気が抜けるよう、息が漏れた。

 頃合いを見計らったように吹いてきた、川からの風を感じる。


 ホントに、もう、終わってしまう……。


 わたしの胸は窮屈になって、そう実感する。

 今日一日の出来ごとが、わたしのこころに、きれいに甦る。


 バス停でおばあさんに先を譲ってた男の子。

 道がわからなくて困ってたわたしに声を掛けてきてくれた。

 コンビニの地図で行き方を調べてくれたあと、一緒に行こうか? って、そういってくれた。

 バスの中で隣に座って、お互いの呼び方を決めて──

 二人で電車に乗って、本の話をして……。それから、〝魔法の言葉〟──。

 

 ──いい〝思い出〟、ありがと。宮崎くん


 優しいねって云うと、困った顔して、謝って。

 ごめんね。──おかあさんとのこと、意固地なわたしのこと。つらいこと、話させちゃって……。


 わたしの笑い方が好きだって、いってくれた──

 わたしの嫌いだったわたしを許してくれた……。

 ──わたしと同じで、わたしよりずっと優しい、彼……。


 竹の林を歩いたこと。黒い鳥居の神社。

 お母さん想いの彼……、照れ屋さんの彼──。

 初めての、デートでした。


 もう、彼は見えない。もう、会えない……。

 わたしのこと、覚えていてね。



 わたしは息を吸って、込み上げてきた何かを、そっと胸にしまう。

 それから河川敷へと向かう。


 河川敷に下りると、川べりから離れてなるべく人目に付かない橋の下へと移動する。

 こういうのは、やはり人に見られないほうがいいのだろう。

 橋の下のコンクリートに、後ろ手に寄りかかって西の空を見上げる。

 やわらかく色づいた夕暮れの空に、星が瞬き始めていた。


 一番明るい星にわたしは、こころの中で云う。

 かみさま……最後に、彼にめぐり合わせてくれて、ありがとでした。


 それから、彼の顔を思い描いてみる。

 わたし、最後は……ちゃんと、笑えてたかな?

 そう訊くと、わたしが思い描く彼は、初めて気づいたような顔になって、肯いてくれる。


 そんな彼に、わたしは謝った──

 ごめんなさい。わたし、ウソつきました。


 ──あの約束は……守れないの……。


 もうこれで、わたしは、戻って、いかなくちゃいけないみたいだから……。

 いまになって涙が溢れてくる。頬を涙が伝うのがわかった。


 さよなら──


 つぶやいたら、わたしは、いなくなる。


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