出逢ってから 9
初夏の風に、青い笹の葉がざわめいていた。
頭上から降ってくるその心地のよい音と木漏れ陽の中に宏枝がいた。
青々と伸びる幾筋もの竹の先の夏空の輝きを、不思議な色の瞳で見上げている。
嵯峨嵐山、天龍寺近くの竹林の小径。
京都らしいとこに行きたい。
──どこか行きたいところってある? 訊いた良樹に、宏枝はそう答えた。
それで良樹は、誰もが思い付くこの場所に彼女を連れてきた。何のひねりもないなと思いつつも、手近な場所で他に思い付く場所がなかったのと、良樹自身が、彼女と一緒に歩いてみたいと思ったから。
嵐山の駅から天龍寺の門前町を抜け、所々の案内を頼りに路地から竹林に入ると、彼女は声を上げた。
「わぁ……」
トットッと数歩先に駆けて、それからこちらを振り返り言った。
「ここ、知ってます! テレビとか写真とかの……竹林!!」
予想を超えた反応に、良樹も顔を機嫌よくほころばす。
宏枝はその場でくるりと周囲を見やると、宙を仰いでしばし動きを止めた。見たもの感じたもの全部、記憶に留めようとするように。
「なんか……感動しちゃった……」
風のざわめきが止むまでそうやって立ち尽くしていた宏枝が、良樹に向き直ると照れたように言った。
大げさだな、と、良樹が笑って返すと、宏枝はひとつ頷いて駆け寄ってくる。
するりとごく自然に滑り込むようにして並ぶと、肩越しに見上げてくる。
良樹が戸惑う暇も与えてくれない。
「──それで、ここからどこへ連れていってくれるんです?」
少し上気した顔で、悪戯っぽく笑って言う。
良樹は、今日の班行動を計画したときに、融を中心に冗談で考えたデートコースバージョンを思い返していた。
想定外かつうろ覚えなのを覚られないよう、あえて表情を消して応える。
「こっち」
ええい、上手くいかなかったときは融のやつ、どうしてやろうか。
完全に八つ当たりとしか言いようのない欠席裁判で条件付き有罪判決を下して、良樹は腹をくくって歩みを進めた。
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