6.『魔法少女隊アルス』と『ガラスの仮面』のこと(「偽教授稟性杯」に寄せて)

 参加させていただいておりましたこちらの企画――


偽教授稟性杯

https://kakuyomu.jp/user_events/16817139557830664448


 において拙作がグランプリを賜りましイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!!(瞳孔全開ガンギマリフェイス)

 ジャスティス!!!!!!!


 ……いやー、こういう企画に参加させてもらうたびに、いつかはグランプリ獲ってみてえなあ……と思っていたのですが、今回ありがたくも選出していただきまして感無量なのでいまから私はすげえドヤ顔をしながら作品解説をします(宣言)。


黒の髪、銀の髪

https://kakuyomu.jp/works/16817139558424347037


 で、毎度のことながら今回の作品にも元ネタめいたものが存在しちゃったりなんかして、という話なんですが、みなさん『魔法少女隊アルス』というアニメはご存知でしょうか?

 ……よし、誰もいないな、知ってた。

 『魔法少女隊アルス』はNHK教育で放送されていた『天才ビットくん』という子ども向け番組の1コーナーとして、番組枠内で毎週10分程度、という変則的な形式で放送されていたアニメです。

 わかる方にはわかると思うんですが、姉妹番組である『天才てれびくん』の枠内で放送されていた『恐竜惑星』とか『ジーンダイバー』とかのアニメに連なる系譜ですね。

 しかし、これが――まさに『恐竜惑星』とか『ジーンダイバー』もそうだったわけですが――子ども向けでは終わらない、大人が観ても引き込まれるものがあるようなエッジの効いた作風で、なにせ制作がテレビアニメではめずらしいSTUDIO4℃です。

 NHK……STUDIO4℃……なにも起きないはずがなく……!!

 物語は、“魔法”というものに憧れ、“魔法は人を幸せにするもの”という信念を持っている人間の少女アルスが、ひょんなことから魔法が実在する魔法界に迷い込み、そこでのアルスの理想とはかけ離れた魔法の在り方や、それを操る魔女たちとぶつかり合いながらも次第に親交を結び、やがては魔法界の存亡に関わる危機に立ち向かっていく、というのがおおまかな筋書きになります。

 それがSTUDIO4℃のあのケレン味たっぷりの画作りで綴られるわけで、私は放送開始のときはその存在を知らなかったんですが(なにせ『天才ビットくん』という番組の1コーナーなので新聞のテレビ欄にも載らないわけです)、ある日ふとつけたNHK教育で偶然目にして(たしか妖精ピスキーを捕まえようとしている回でした)一発で引き込まれてしまいまして、再放送で話の筋に追いつきつつ、毎週熱心に観ていました。

 それで絵面が強いのはもちろん、声優さんも完璧にどハマりしたキャストで、主人公アルスの小島幸子さん、魔法界でのアルスのお目付け役になる魔女シーラの桑島法子さん、シーラと同居している年少の魔女エバの広橋涼さん、とメインキャラ三人がすでに強いのですが、魔女国三賢者の一角であるアテリアの田中敦子さんとか、魔女国の最高指導者であるグランドマスターを威厳たっぷりに演じる来宮良子さんとか、脇もすごく堅い。

 これはあとで知ったことですが、『アルス』では一般のアニメとは異なり、声優さんの演技を先に収録して、それを元に作画作業をするという“アクターズ・レコーディング(アクレコ)”という手法を採用していて、それが独特な画作りにも影響していたのかな、と思います(長尺で背景だけ映しながら、それにキャラの掛け合いが乗ってる、みたいな独特な演出が結構あります)。

 それで、今回の拙作とどう関係があるのか、というと、私、昔『アルス』の二次創作小説を書いてたんですね。

 その原動力は“不満”でした。

 ……ここまで『アルス』の注目ポイントを挙げてきましたが、悲しいかな、『アルス』は同時に穴も多い作品でした。

 一番私が頭を抱えたのが、設定の齟齬です。

 具体例を挙げますと、まず大前提として、魔法界では“魔法を使うためには妖精の体の一部を消費しなければならない”という、かなり作品の根幹に関わる設定があるんですが(そのため魔女たちは妖精たちを捕獲し、監禁していて、アルスが「妖精ちゃんを不幸にして使う魔法なんて本当の魔法じゃない!!」と憤ることになるんですが)、これが物語序盤ですでに破綻してしまっているという痛恨事が起きてるんですね。

 どういうことかと言いますと、アルスは父親から譲り受けた魔導書を肌身離さず大事に持ち歩いているのですが、これをとある事情で失くしてしまうという事態が起こります。すると、いままでふつうに使えていたホウキで空を飛ぶ魔法すら使えなくなってしまって、塞ぎ込むことになる、アルス。それを見かねたシーラが、「ホウキで空を飛ぶ魔法の触媒になるグリフォンの羽根を手に入れよう」という提案をして、一行はグリフォン探しに向かい、なんやかんやありながらもグリフォンの羽根を手に入れて、アルスは無事ふたたびホウキで空を飛べるようになりました、やったぜ、という展開があるんですが――いや、ちょっと待てよ、と。

 “魔導書を失くしたからホウキで空を飛ぶ魔法が使えなくなった”という状況が、いつのまにか“グリフォンの羽根を持っていないからホウキで空を飛ぶ魔法が使えない”という状況にすり替わってるんです。

 そしてそうなると、それまでアルスは“妖精の体の一部を使わないと魔法は使えない”という魔法界の不文律を破ったふるまいをしてきていたわけで、なんでそこにだれもつっこまなかったの???という問題も出て来ます。

 例えば、本来ホウキで空を飛ぶ魔法だけは例外的に触媒なしでも使えるが、一部の才能がない魔女はグリフォンの羽根の補助でなんとか使えるようになる。で、アルスはそれを魔導書の力で補っていたのだけれど、それを失ったので、今度はグリフォンの羽根の力でまたなんとか使えるようになった――というようなエクスキューズでもあればまだよかったのですが、当然のごとくそんなようなこともなく……。

 その他にも物語が進行するにつれてこれまで存在しなかった設定がいきなり生えてきたり、以前に開示されていた設定と食いちがう展開があったりと、とかく設定周りがとっちらかってる感じがあって、かなり突貫で制作していたのか、ライター間のすり合わせがうまくできてなかったんじゃないか、というような感もあり、素直に良作だとはオススメできないところがあるんですよね。

 あと、個人的に嫌というか、好みでない点として大人連中の情けなさがあります。

 アテリアとグランドマスターはまだ威厳を保っているのですが、三賢者の他の二名であるクレデーレとプレサティーオというキャラが、年功序列を嵩にかかってアテリアに厄介事を押しつけて自分たちはなにもしないという無能ぶりだったりして、魔女国のトップ3のうちふたりがそんな調子なので他の連中もむべなるかな……。

 アテリアもアテリアで、捕獲所からすべての妖精が逃げ出してしまった、という一大事に対して荒くれ者の三人組チーム(この三人はクセの強い造形で結構好きなんですが)を派遣するだけで済ませようとしたりいやそこは人かき集めて総出で対応せんかーい!!

 ……とまあ、いろいろと悪口を書き連ねてきましたが、やっぱり画作りとか声優さんの演技とかはほんと良くて、私は非常にアンビヴァレントな感情を抱えることになりまして……。

 そこで、よし、じゃあオレが設定を整理して大人キャラもかっこいい決定版の『魔法少女隊アルス』を書いてやる!! と当時の私は大変傲慢な考えの元構想をぶち立てて、まあ、見事に頓挫しているわけなんですが、今回『黒の髪、銀の髪』の元となったのは、そのとき考えた設定を流用したものだったりするんです。

 というのも、これは意図的にそうしていたのか偶然そうなっただけなのかわからないんですが、『アルス』には黒髪のキャラがひとりも出てこないんですね。主人公のアルスは日本人ですが、西洋系とのハーフということで赤茶色の髪をしていますし、シーラは銀髪、エバは金髪です。その他のキャラを見回してみても、不思議と黒髪のキャラが出てこない。

 そこで私が思いついたのが、黒は神聖な色で、黒髪の子どもはごく稀にしか生まれてこない。そしてその黒髪の子は絶対的な魔力と魔法の才を持っている、という設定です。

 構想していた『アルス』二次小説ではそんな黒髪のロッサというオリキャラを投入して、銀髪のシーラと対置させる形でいろいろと活躍してもらうつもりでした。シーラはロッサに対して、「あいつは天才でオレはどうやったって敵わない」と鬱屈した感情を抱えることになるわけですが、ロッサのほうもじつは「わたしの魔法は魔力が多いから派手に見えるだけ」だと思っていて、シーラの努力に裏打ちされた魔術の美しさにひそかに羨望の念を持っているという、そんなイメージを考えていて『黒の髪、銀の髪』のキーアイディアってじつは以前からずっと温めてきたものだったわけなんですね。

 そこで今回「偽教授稟性杯」のお題を見て、あれ?これピッタリじゃね?と思いまして、短編用にチューニングして謂わば変奏したのが『黒の髪、銀の髪』ということになります。


 とまあ、『魔法少女隊アルス』についてはそんなような関係がありますよ、ということなんですが、もうひとつ『ガラスの仮面』からもちょっと要素を引っ張ってきてるんですよね~、というのがもうひとつの話。

 『ガラスの仮面』についてはさすがにみなさんご存じだろうと思う。まだ未完ながら、言わずと知れた少女マンガの大傑作です。

 長くなりますし(なにせ単行本で49巻ある……美内先生ェ……50巻は……50巻はまだですか……っ???(息も絶え絶えの限界ファン))、知ってる方も多いと思うので説明はバッサリ省きますが、「偽教授稟性杯」のお題を見て、自身の『アルス』二次小説の構想なども思い出しつつ、同時に思ったのが、これ、マヤと亜弓さんやん!! ってことです。

 天賦の才と言える演技への勘を持っているマヤに対して、世間から「天才」と称賛されながらも、その陰で弛まぬ研鑽を重ねて才能を磨き上げてきた努力の人である亜弓さん、という対置がモロこのお題だよな、っていう。

 それでいて、互いに「この人にはとても敵わない……でも、負けたくない!!」という強い気持ちがある、という構図を拙作でも大いに参考にさせてもらったところがあります。

 そして私が『ガラスの仮面』で一番好きなシーンっていうのが、紅天女の郷から東京に帰る日の早朝に、ついにマヤと亜弓さんがお互いの本音をぶつけ合いながら取っ組み合いのケンカをして、吐き出すもの全部吐き出してかえってスッキリして和解するくだりなんですが、もう、この、ね……?(ろくろを回す)

 立場も境遇も全然違っていて、互いにライバルだと思っているけれど、その実相手の本質を他の誰よりも一番深く理解している、っていうこの関係性、ほんと尊い……尊死する……。

 ぶっちゃけると拙作でのネッラとグリシャが自身の心の裡を吐露しあうクライマックスのシーンは完全に『ガラスの仮面』のこのくだりのぱくゲッホ!! エッフン!! ……オマージュです。

 ただ、マヤと亜弓さんの場合はまだ取っ組み合いのケンカで済んだんですが、拙作の場合ふたりともなまじっか殺傷能力が高すぎたためあんな結果になってしまったという……そうはならなかった……ならなかったんだよ、ロック……。

 それとあとこれは非常に断片的な部分にはなるんですが、ああなっちゃったのは私が「グリシャの体は、骨の欠片ひとつ残らなかった」という一文を思いついてしまったせい、というところがあって、あれは完全に秋山瑞人先生の『猫の地球儀』の「苦しまなかったはずである」のノリです、ということをゲロっておいて、今回はこのあたりで筆を擱こうかと思います。


 最後に、企画運営された偽教授(@Fake_Proffesor)さんにおかれましては本当におつかれさまでした。グランプリの栄誉をいただき、感謝、としか言い様がありません。また心に刺さるお題が来ましたら参加させていただきたいと思っていますので、よろしくお願いします。ありがとうございました!


かしこ

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