飛び交うメタファー

1-05 エヴァンジェリン(2)までのネタバレと本編の考察を含みますのでお気をつけください。

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本編の紹介文に記されているところの「少年」という二文字を見落としてしまったら、しばらくは主人公の性別を判別することに苦労するだろう。作者は容赦なく主人公の少年からその出自、記憶、しまいには性別すら奪い去った。

「髪の毛を売って稼いだお金は、

 使うこともできず大人たちに奪われ、」

この冒頭の二行で、いきなり少年が性的倒錯を経験していることを示して以降、あらゆる場面で少年が少女として過ごすことが暗黙のうちに決まっているかのような局面が続く。少年は、一人称であるところの「僕」を捨て切れていないことからも、心を完全に少女側にシフトしているわけではない。一方、桃色のチョーカーは、主従関係を明示すると共に女性という性別に縛り付けることの暗示としても機能している。
今のところ、記憶の腕輪にまつわるエピソードはほとんど紹介されていない。しかしながら、これもまた過去に秘めた謎とリンクして少年を縛り付けるメタファーとしての役割を与えられている。
注目すべき点としては、ここまでの話の中で、唯一この約束事に縛られていないのがエヴァンジェリンのみであるという点が挙げられる(少年自身ですら、己の役割を受け入れきってしまっている)。

表面上は穏やかに過ぎていく少年の第二の人生の舞台とも言うべき館での生活が描かれているが、その危うい均衡がもたらす緊張感こそが、この作品の味わい深い点とも言えるだろう。

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