RITZY

志々見 九愛(ここあ)

プロローグ

0-01 記憶

 髪の毛を売って稼いだお金は、

 使うこともできず大人たちに奪われ、

 放り捨てられた僕は、

 何週間も彷徨い続けた。


 僕を変な目で見ている大人たちがいる。


 彼らは僕を触ろうとするけれど、

 決してその手には落ちたりしない。


 棒みたいになった足を前へと出して、

 あてもなく逃げ続けたのだった。




 太陽は体力を、雨は体温を奪っていく。


 ネズミの死骸はどうしても食べることができない。


 その上、道端の雑草は、飲み込んでもすぐに吐いてしまう。


 服は破れて、空腹で体が千切れそう。


 確かな意識なんて、既に無かったのだ。


 苦痛は曖昧になって、視界は霞んでいる。


 自分がどこを歩いているのかさえ、定かではない。




 びゅうと風が吹いて、

 砂でできているみたいに、

 体がゆっくりと崩れていくのがわかった。


 自分を維持するだけの力だって、

 もう残されてはいないみたいだ。


 眠気とはまた異なる、

 消えていく、

 何も無くなるような感じ。




「ねえ、大丈夫」




 その声は何と言ったか?


 そして、ふわりと体が浮き上がる。


 風で飛んでいってしまったのではない。


 誰かが僕を支えてくれている。


 しかし、頑張ってみたものの、瞼を上げることはできなかった。


「大変! お父さま、この子に水を!」


「連れて行こう。衰弱しきっている」




 これが、僕の一番古い記憶だった。



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