6-34 到着
学校に着くと、早くもその場は何かに盛り上がっているようだった。
僕たちの馬車を見つけるや否や、大勢のクラスメイトたちが駆け寄ってくる。
後ろには、荷物をもった侍女たちがいる。
僕は馬車を降りて、ご主人さまに手を貸した。
お弁当の入ったバスケットと、手提げ鞄は僕が持つ。
ご主人さまはレイピアを取り、腰に差した。
アイリーンさまが人ごみをかき分けてそばにやってきた。
「エヴァ、本気ですの?」
「そうよ、どうかした?」そっけなくご主人さまが返す。
「午後、あなたとクリスさまが決闘するんですって、わたくしたちその話題で持ちきりですのよ!」
彼女らの情報網には驚かされてばかりだ。
「どうして、こんなに噂の広がりが早いのかしら」
「もう! 少しは情熱的になるべきよ! あなたは今、一人の殿方をかけて戦おうとしているのよ。そう、何よりも激しく燃え上がらなくてはならないわ。昨日の夜、早めにお戻りになったクリスさまは、エヴァのために装束を用意させたそうですのよ。華やかに舞うために、蜜蜂の針と針がぶつかり合う場に相応しいものが必要と仰ったそうですわ」
「そんなもの着ないわ。これはあたしたちのプライベートな争いなの。放っておいて」
「まあ! またそんなことを言って。彼はこの学園の敷地内にいる限り、わたくしたち共有の財産なのよ。こんなに素晴らしいことってないでしょう?」
その通りだと思った。僕の身に関することなのに、僕は何もできない。
まるで物扱いだ。
それでも納得すべきなのだ。
だって、僕は侍女。
ご主人さまのそばにいられることだけでも幸運に思わなくてはならない。
付属品の身分なのだ。
「わかったから。授業に遅れるわ、さっさと行きましょ」
ご主人さまは平気な風を装っている。
でも、僕にはわかる。
剣を握るその手には、とっても大きな力が込められている。
絵画の授業だった。
教室を出、正門や音楽室など、好きなところをスケッチする。
数人の先生方が見回って、褒めてくれる。
僕たちは中庭に出て、綺麗に手を加えられた花壇の前に立った。
ご主人さまはあまり筆が進んでいなかった。
僕も一緒だ。
中庭は広い。
芝生の長さは均整が取れていて、とても歩きやすい。
開けた場所の真ん中に、まるで塔のような白い物見台があって、後ろの階段を登れば、校舎を背景にして、花々を見渡すことができるようになっている。
物見台自体にも花が飾られている。
手入れはとても大変そうだ。
ジョセフィンさまが展望台の上で絵を描かれていた。
僕たちに気づいて、手を振ってくださったので、腕を振り上げるご主人さまの横で、僕はお辞儀した。
たくさんの緑と、色とりどりの花に囲まれた中庭は、その真ん中にそびえ立つ真っ白な石造りの物見台と総合して、一つの立派な芸術なのだろう。
どの場所から、何を見てもいい。
それも、季節によっていろいろな顔を見せるのだと、先生は仰っていた。
今が一番、きらびやかな季節だ。
「あたし、ここで剣を交えるのかしら」
「クリスさまはそのおつもりのようです」
ご主人さまは何を見ているのだろう。
出来れば、お二人には戦って欲しくない。
「僕は、どうすればいいのでしょう」
「自分で決めなさいって、マーガレットは言うでしょうね」
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