2-16 下校
目が覚めた時、僕はふかふかのベッドの中にいて、数十人の女の人に囲まれていた。皆がお仕着せに身を包んでいる。
「よかった。もう目覚めないのかもしれないと思って」
元気はちっとも出なかった。
半年だった。その半分は体力を取り戻すための時間で、残りは教育を施されるのに要した準備期間だった。
ご主人さまは僕に物書きを教えてくれた(僕はもともと、ある程度の読み書きができていたこともわかった)し、話し相手になってくれた。
大ご主人さまは時々僕の様子を見に来て、外交や出張の自慢話を聞かせてくれた。
どうして、こんなに幸せな思いをさせてくださるのだろう?
せめて、誰かに分けてあげられるのなら。
眠ってしまった馬車の中で、僕はそんな夢を見ていた。
時々、夢の中で何かを思い出す。
目を覚ました時、僕は口元を綻ばせていることに気がついた。
ご主人さまは僕の肩に顔を乗せて、すうすうと寝息をたてている。
屋敷についたのは、ちょうど夕食の前だった。
兄上さまがお戻りになられたようで、屋敷は少し騒がしかった。
夕食の給仕中のことである。
「再建の目処は立っているようですね」兄上さまが大ご主人さまに言った。「そしてやはり、父上のお考えは正しかった。ミレイアの一部勢力が、アルステリアと組み、国の乗っ取りを企んでいる。その後は我が国にまで手を伸ばそうという目論見でしょうね。かの王室の崩壊には何かがある」
「こっちも準備を進めているよ。もうしばらくかかるけれども、向こうも震災からの復旧で忙しいのだろう。不謹慎だが、丁度いい時間稼ぎになっている。詳しい話はまた後でな。切り札についても話しておきたい」
「切り札、なんのことでしょうか?」
「だから、それについて詳しく話そうと言うのだよ。おそらく、今後想定される事態への文字通りの切り札になる。ただ、そのためのコマがいくつか欠けていてね」
「なるほど、この話は我々だけで内密に?」
「そうすべきだろう。今後は我が家で、いや、私とお前の間で秘密裏に進めていくことになる」
彼らは終始そんな話をしていた。
「して、エヴァ。今日の学校はどうだったのかね? 大変だったかね?」
「変わりなくってよ、お父さま」
「そんなはずがないだろう。あの女学院にとってみれば未曾有の事態が静かに起きているんだ」
「静かですって。じゃあ、言わせてもらうけど、あいつが男の子だってこと、ばれっばれだったわよ。でもみんないい子だから何も起こらなかっただけ」
大ご主人さまは少し驚いた様子だった。
「女は口が軽すぎるのではないか? まあ、何事もなければそれに越したことはない。お前たちは、通い続けることになるんだからね。二人で卒業できるかどうかは別として」
「父上、また何か工作をなさったのですか? 私は存じておりませんが」
「お前には後で話すよ。ここ半年間の出来事と、私の立ち回りについてもな」
再び、大ご主人さまと兄上さまがお話を始めたので、ご主人さまは最後まで大人しく耳を傾けていた。食後には二杯のショコラを飲んだのだった。
僕は腹ペコの体を引きずりながら夕食の給仕を済ませた後、侍女たちと一緒に食事を取った。
お腹がいっぱいになったところで、僕はご主人さまの寝室を綺麗に掃除し、ベッドメイクをする。
というのも、ご主人さまの湯浴みを手伝うことは、本人によって断固拒否されてしまったからだ。
そして最後の最後に、僕たち侍女が入浴をすることになっているのだった。
しかも、これには時間制限がない。
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