2-10 クラスメイト(1)

 すぐに中庭を出た。

 校門からまっすぐに続く道の先には噴水があり、色あせた長椅子がそれを囲うように置いてある。


 女学院はとてつもなく大きかった。

 校舎は真ん中にそびえ立つ時計塔を挟んで、東と西に分かれている。


 時計塔の下にある昇降口を上がって、僕たちは東棟に向かった。


「上級生は西棟なの。あたし、あと二年は東棟よ」

 階段を上がっている時、ご主人さまは言った。

「西棟に行くことになったら、寮に入らなくちゃいけないわね。うちは少し遠いから」


 ロッカールームに荷物を置くと、錠をして鍵を預かった。

 エプロンのポケットに入れて、教室に戻る。


 僕は教室の隅っこに座って、一緒に授業を受けさせてもらえることになっていた。

 大ご主人さまが、ご主人さまのそばにいられるように学校に申し出てくださったとの話だ。


「ごきげんよう、エヴァ」


 ご主人さまを呼ぶきらびやかな令嬢がいる。

 華奢な体つきに、膨らみのある真紅のガウン。

 表情は溌剌としていて、スカートを持ち上げながら足早に近づいてきた。


「おはよう、アイリーン」


 彼女は僕を見ると、あごに人差し指を乗せて、首を傾げた。


「あら、初めましてかしら。可愛らしいわね、あなた」


 僕は恭しくお辞儀をして見せた。お仕着せを褒められたことが、なんとなく嬉しかった。


「お世辞はやめてあげて。アイリーンの方が、悪い感じがしなくって、見ていて気持ちがいいんだから」


「エヴァ、何を言いいますのやら。わたくし、あなたの可愛らしさだって結構な長さで唱えることができましてよ。もう少し着飾ってくればよろしいのにってわたくしいつも言っているでしょう。今日もそんなシンプルな格好ですし。そういう頑固なところ、わたくしは好きですけれども」


「そんなことはどうでもいいの」


「わたくし、他の方々にも挨拶しますから、また後で」


 そうしてアイリーンさまと分かれて、教室に向かって廊下を歩いているとき、後ろの方から彼女の黄色い悲鳴が聞こえてきたのだった。

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